2009年12月号
特集2  - 酒造りで醸成する連携のこころ
山梨大学ワイン科学研究センターと世界初の海の酵母ワイン
顔写真

柳田 藤寿 Profile
(やなぎだ・ふじとし)

山梨大学 ワイン科学研究センター
センター長


山梨大学のワイン科学研究センターは果実酒を専門に研究するわが国唯一の研究機関である。海洋環境から分離した酵母を使い、世界で初めてワインの醸造に成功した。

海洋酵母の研究

山梨大学ワイン科学研究センター*1写真1)では、海洋環境から分離された酵母を使ってワイン醸造の研究を行った。一般に酵母は、糖を発酵させてアルコールに変える働きをする菌類で、多くは果実や樹液などの糖分の多い場所に付着して生息している。

写真1 ワイン科学研究センター

写真1 ワイン科学研究センタ


写真2  開発した世界初の海の酵母ワインと大学オリジナルのヤマソービニオンワイン

写真2  開発した世界初の海の酵母ワインと大学
     オリジナルのヤマソービニオンワイン

今回、世界で初めてワインの醸造に成功した海洋酵母は、海水中に生存していたという変わり種で、三共株式会社(現在、第一三共株式会社)が医薬品の開発のために海洋環境から分離・培養に成功した酵母である。この酵母と山梨県産の甲州種のブドウを組み合わせて試験醸造したところ、バラの花を思わせる香り(2-フェネチルアルコール)と、酸味(リンゴ酸やコハク酸)の多いバランスのとれた新しい味わいのワインとなった(2000年にサッポロワイン株式会社より「海の酵母のワイン」として発売されヒット商品となった、写真2)。

最近の研究では、海水や湖水から100種類ほどの酵母を採取した。その中には、ワイン醸造や食品の発酵に利用できそうな酵母も数種類だが見つかっている。

山梨大学発ワイン

山梨大学では、ワイン科学研究センターが開発した技術を基に醸造されたワインを地元ワイナリー4社と共同して山梨大学のロゴを入れ、山梨大学ワイン12種類として販売している(表1)。売り上げの数パーセントは、大学に還元される。この中で特に評判が良いのは、前述の海洋酵母ワインとヤマソービニオンワイン。このブドウは、山梨大学が山梨県内に自生している山ブドウとヨーロッパ系品種のカベルネ・ソーヴィニヨンを交配して、新しい品種として種苗登録したブドウである。

表1 地元ワイナリー4社と造ったワイン

表1 地元ワイナリー4社と造ったワイン
●山梨大学工学部附属 ワイン科学研究センターの歴史

ワイン科学研究センターは、果実酒を専門に研究するわが国唯一の研究機関として、昭和22年(1947)年、山梨大学工学部の前身である、山梨工業専門学校に、附属発酵研究所として設置され、昭和25年(1950)、学制改革に伴って山梨大学工学部附属発酵化学研究施設と改称された。発足当時は、山梨県の特産品であるワインの品質向上を目的として、ワインに関する微生物学的ならびに醸造学的な基礎研究を地域と密着して行ってきた。その後、改組を行い、平成12年度から発酵化学研究施設を廃止し、ワイン科学研究センターを新設した。わが国のワイン産業の発展に伴い、現在は全国的な視野で、幅広い方面からワイン醸造やブドウ栽培等の研究を行っている。

当研究センターには、3つの研究部門(発酵微生物工学研究部門、機能成分学研究部門、果実遺伝子工学研究部門)があり、さらにブドウ育種試験地およびワイン試験工場を持っている。各研究部門の研究内容は、発酵のための有用ワイン酵母や有用乳酸菌の検索とそれらの醸造学的特性に関する微生物学的研究(発酵微生物工学研究部門)、ワインの色調と香味に関する化学的・官能学的研究(機能成分学研究部門)、ワイン用ブドウの生理・栽培に関する研究(果実遺伝子工学研究部門)を行っている。



●教育について

当研究センターにおいて、工学部の生命工学科や他学科、他大学や海外から学生を受け入れている。卒業論文、修士論文、博士論文の教育や研究指導を受けた卒業生または修了生の多くは、日本のワインメーカーの研究者、技術者、経営者として活躍している。

また、ワイン科学研究センターでは「ワイン人材養成拠点」事業が平成18年度科学技術振興調整費(地域再生人材創出拠点の形成)で採択され行われている。この事業は、山梨県、地域ワイナリーとのパートナーシップを基に、ワイン人材を生涯にわたって養成する拠点を構築するものである。具体的には、山梨県内ワイナリー勤務者8名と大学院医学工学総合教育部にワイン科学コース(修士課程)を設置し、合格した2名の計10名に対してワイン科学の講義および実習を行う。また、修士の学生には、ワイン科学をテーマとした修士論文研究、ワイナリーインターンシップ、短期留学を履修することにより、ワイン製造における高度な科学知識と技術を学び、さらに製造現場における実践的な問題解決能力を養い、優秀な人材を育てる。さらに、修了生に対して、ワイン学に関する筆記試験および官能試験を行い、合格したものに対して山梨大学から「ワイン科学士」の称号を与えている。

また、平成19年度から「ワイン科学特別教育プログラム」を開設している。これは、ワイン科学に関する高度な専門職業人または研究者の養成を行うことを目的とし、学部入学時から大学院(修士課程)までの6年間を通じたカリキュラムとなっている。

 

*1
山梨大学ワイン科学研究センター http://www.wine.yamanashi.ac.jp/index.html