2009年12月号
特集2  - 酒造りで醸成する連携のこころ
ゼロエミッションの焼酎造り
顔写真

荒木 朋洋 Profile
(あらき・ともひろ)

東海大学 農学部 バイオサイ
エンス学科 教授


人気の芋焼酎。メーカーにとっての課題は、生産過程で発生する大量の焼酎かすである。焼酎の2倍の量になり、水分を含んでいるので、焼却、乾燥には多大なエネルギーがかかる。そこで、抗酸化物質として知られるアントシアニンを多く含む芋を用いた焼酎造りでゼロエミッションを目指した。

はじめに

昨今の芋焼酎ブームにより酒類の生産・消費形態がずいぶんと変わり、いまや全国どこの居酒屋でも芋焼酎が楽しめる。しかし、今まで海洋投棄に依存していた焼酎かすの処理が全面禁止となったため、醸造各社ともその処理に苦労している。焼酎かすは産業廃棄物と言っても、食品由来の有機物であるので、それを飼料や肥料に利用する取り組みが始まっている。

新品種「ムラサキマサリ」を使った共同研究

東海大学農学部は2004年に独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の九州沖縄農業研究センター(九沖研)と学術交流協定を締結し研究交流を続けてきた。その中で、当時のセンター長の山川理先生から、開発間もない新品種の紫芋である「ムラサキマサリ」をテーマにした共同研究が東海大学に提案された。大学では長年サツマイモの品種改良に関する研究を行っていたため、九沖研から提案された芋もすでに栽培していた。

このムラサキマサリからつくった焼酎はワインのような香りを持つなど優れた醸造特性があり、その焼酎かすにはアントシアニンが多く含まれるため2次生産品に利用しやすいなど付加価値を付けられる。アントシアニンとは植物界に広く存在する色素の1つで、抗酸化物質として知られる。

図1 ゼロエミッションプロジェクト

図1 ゼロエミッションプロジェクト

そこで九沖研との間で、この紫芋を用いて完全循環型醸造をテーマとする共同研究協定書を取り交わし、焼酎メーカーの房の露株式会社、木之内農園に加わってもらい、この芋を用いた循環型(ゼロエミッション)の焼酎造りの産官学共同研究がスタートした(図1)。特色は焼酎かすに機能性を付加できるという点にある。

水分を多く含む大量のかす

焼酎醸造で発生する焼酎かすは焼酎の約2倍の量になり、どろどろの状態である。従って焼却や乾燥には多大な化石燃料消費とコストが掛かり、飼料化や肥料化などの有効利用には、いかに水分を低コスト低環境負荷で除去するかが課題となっている。

アントシアニンを豊富に含む芋を用いた焼酎造りは、焼酎かすの再利用に極めて有利である。焼酎は蒸留酒であるためアントシアニンは移行せず、焼酎かすにそのまま残るので、紫芋の焼酎かすはそれ自体が高アントシアニン含有食品素材として利用できる訳である。

この焼酎かすから高付加価値2次製品(もろみ酢)を生産すると、アントシアニンの機能性を生かした健康酢が生産できる。また、もろみ酢発酵ではさらに醸造かすが発生するが、このかすにもまだアントシアニンが含まれているため、そのままアントシアニン含有家畜飼料として転用でき、さらなる付加価値が期待できる。こうして肥育する家畜からの排せつ物は次の芋生産に肥料として用いることにより完全循環が完成する。

第1段階として完成した焼酎は非常にフルーティーで、産学連携などの各種展示会で出品試飲を行い、焼酎になじみがない方々にも抵抗なく受け入れられた。特に女性に人気があったようである。

現在焼酎は商品化し、年間約8,000本を生産し、木之内農園を通じて販売を行っている*1

アントシアニンの生理機能の研究

この共同研究は昨年度から東海大学総合農学研究所の産官学連携研究コ

アプロジェクトになっている。本プロジェクトは図1に示したように、焼酎かすを完全に利用して廃棄物を出さない醸造を目指しているので、昨年度からアントシアニン含有もろみ酢の醸造試験を行っている。また、もろみ酢から発生する醸造かすはさらに家畜飼料として給餌し、栄養試験を実施している。

近年アントシアニンの生理機能が明らかになるにつれて、紫色の食品が注目を集めているが、九沖研では紫芋のアントシアニンの生理機能について研究を進め、強い抗酸化活性、食材色素としての安定性、高い生体吸収率などを明らかにしている。今後は実際に試作した製品についてこのような機能性について研究を進めていく予定である。このため、昨年度から食品機能および栄養生理の専門家を加えた研究体制を取っている。

組織同士の連携の成果

本プロジェクト研究は低環境負荷をテーマに、独立行政法人と大学と民間が共同で製品開発を行うというユニークな取り組みである。このプロジェクトが順調に研究開発を進展させている一因として、研究者レベルでの産官学連携ではなく、学術交流協定をベースにした組織レベルでの連携を行っていることが挙げられる。従って、各組織の産官学担当の事務担当者をはじめ、多くの方々にサポートしていただいた。この場を借りてお礼申し上げたい。

*1 :有限会社木之内農園の通販
ホームページ「阿蘇いちご畑の通販」(http://cart04.lolipop.jp/LA08415749/)で販売している。