2009年12月号
単発記事
GABAを増加させた二条大麦のクッキー開発

財団法人
栃木県産業振興センター
総合支援部研究開発支援課

2009年4月、菓子製造販売の株式会社大麦工房ロアは「大麦GABAクッキー」(写真1)の販売を開始した。これは、産学官連携による研究開発「二条大麦を活用した抗メタボリック食品素材とその利用技術の開発」から誕生した商品である。

限られる用途の拡大が課題
写真1 大麦GABAクッキー

写真1 大麦GABAクッキー

メタボリックシンドロームの予防・改善には食生活が大いに影響する。腹八分目、規則正しくバランスの取れた食事などが基本であろうが、持続的に摂取できる食品素材として注目されているものの1つが二条大麦(写真2)である。

二条大麦は、血糖値やコレステロール値低下作用を持つ成分のほか、含有量は少ないが、血圧上昇抑制作用を持つGABA(γ- アミノ酪酸)を含んでおり、メタボリックシンドローム抑止に有効と考えられている。また、グルタミン酸をGABAに変換する酵素も内在している*1

写真2 二条大麦

写真2 二条大麦

二条大麦の用途は、ビール原料以外には麦茶、押し麦などに限られ、国民1 人あたりの消費量は年間約400gにとどまっている。栃木県の二条大麦の生産量は全国2位で、全国に誇れる食材である。その用途拡大は長年の課題であった。

こうした中で、地域資源を活用して新製品の開発と事業化を行うことを目的とした経済産業省の「地域資源活用型研究開発事業」が始まり、全国各地でさまざまなプロジェクトの動きがあった。

本県では、小麦の消費拡大を目指す「麦わらぼうしの会」などを通じて連携協力関係にあった大麦工房ロアと製粉業の笠原産業株式会社が、特産の大麦の活用による地域経済の活性化に高い関心を持っていた。

両社からの相談を栃木県産業技術センターが受けたことをきっかけに、共同による研究開発への機運が醸成され、二条大麦が地域資源として認定されるに至り、産学官連携による「二条大麦を活用した抗メタボリック食品素材とその利用技術の開発」プロジェクトを立ち上げ、平成19年度「地域資源活用型研究開発事業」への応募・採択により、本格的に研究開発が始まった。

GABAの損失を最小限に抑える

研究開発は、大麦工房ロア、笠原産業、栃木県産業技術センターのほか、宇都宮大学、財団法人栃木県産業振興センターを加えた研究共同体によって進められた。

まず、簡易な浸麦処理を基本に、二条大麦粒内のグルタミン酸を高い効率でGABAに変換することで、GABAを通常の20倍程度(従来は2倍が限度)に増加させる高濃度富化技術と、生成したGABAを高濃度に保持する技術を、栃木県産業技術センターが開発した。次に、富化させたGABA含有部分を保持するため、最適焙煎・焼成条件を見いだすGABA低損失利用技術を大麦工房ロアが開発した。笠原産業は、GABA富化大麦を粉体加工し、粉の基本的特性・製粉特性を調べ、GABAの損失を最小限に抑える最適微粉砕技術を開発した。そして大麦工房ロアで、このGABA富化大麦粉を使い、GABA損失を抑えた製品をつくった。

宇都宮大学は、GABAの血圧上昇抑制等の効果を確認するため、ラットを用いた投与試験の条件設定とテレメトリ(遠隔計測)システムによる血圧測定法を確立し、機能性発現の評価・確認を実施した。

さらに、栃木県産業振興センターは事業化に向け、GABAを富化した二条大麦粉の市場性・優位性を把握するため、関係機関やNPO団体等に対し情報収集を行ったほか、管理法人を務めた。

GABAの分解温度が150℃であり、従来の焙煎(ばいせん)方法(200℃) ではGABAが完全に分解・消失してしまう。150℃以下の低温焙煎では、穀物臭が強く残り二条大麦の特徴である‘香ばしさ’が付加されなかった。これは穀物がアルファ化される前の、いわゆる‘生’の状態であるためと思われる。

これらを踏まえて、最適焙煎条件を見いだしたことにより150℃以下でのGABA高保持焙煎技術を確立することができ、GABA富化大麦の低温焼成によってGABAを高保持した状態での試作品が完成した。

今後も生産効率を含めたコストの低減、カロリーやGABA以外の有効成分についても加味して栄養補助食品として打ち出すことも視野に入れている。

新しいビジネス創造の扉を開く

近年の健康志向や雑穀ブームなどで二条大麦の素材としての注目は高まっている。今回の研究開発を通して、新たな商品として小規模ながら事業化されたことは、ビール麦としてビール会社の下請け的な素材であった二条大麦が、ほかの産業との連携によって新しいビジネスを創造するための扉を開いたのではないかと思っている。

大麦素材を中心商品としている大麦工房ロアはもちろんのこと、製パン、製めん、外食産業などとの新しい連携が生まれ、農業の視点からも遊休農地対策の大きな柱になると確信している。

*1
特定保健用食品の市場は拡大傾向にあり、特にGABAを含む商品は、みそ・しょうゆからチョコレート等の嗜好(しこう) 品に至るまで、多種多様な製品がリリースされている。