2009年12月号
連載2  - ベンチャー企業の資金調達 入門講座
第3回 資金調達方法とその使い方
負債で「自己資本利益率」を高めることも可能
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向山 尚志 Profile
(むこうやま・たかし)

山口大学大学院 技術経営研究科
教授


企業が株式を発行して資金を調達する場合、返済する必要はないし、お金の使い道も通常は限定されない。物的担保や保証人も必要ない。しかし、借入金と比較して、株式発行のほうがメリットばかりとは言い切れない。

資金の調達方法と貸借対照表

表1 貸借対照表

表1 貸借対照表

前回見たように、企業経営においてはさまざまな目的でお金を確保することが必要であるが、それではお金の確保=資金調達にはどのような方法があるのだろうか? これを考える前に、財務諸表の1つとして重要な「貸借対照表」について確認しておきたい(表1)。企業が決算を行って作成する財務諸表としては、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3つが基本的に重要であるが、会計や財務に直接かかわっていない人には貸借対照表はなじみが薄いかもしれない。貸借対照表は左右両覧の形式で、左側が「資産の部」、右側が「負債の部」と「純資産の部」で構成される。貸借対照表では、期末時点において企業が保有しているすべての財産の金額が左側の「資産の部」として示され、右側はその資産の保有のためのお金の出どころを示している*1

貸借対照表は、一般に表1 に示すような形と項目で作成され、左右の合計金額は必ず一致している。ここで右上の負債とは他人から借りているお金でいずれ返済しなければならないものであり、純資産とはその企業自身の資産であり当然返済の必要がないものである。負債の中には、金融機関からの借入金や社債のように利息をつけて返済する必要がある「有利子負債」と、それ以外で取引先への支払いを猶予されている買掛金・支払手形のようなものがある。純資産の部は、株主が払い込んだ資本金と企業の利益の蓄積である剰余金などで構成されている。つまり、純資産の部は「自己資本」であり、負債の部は「他人資本」という言い方ができる。

資金調達方法のメリット・デメリット

では、それぞれの調達方法のメリット、デメリットはどのように考えられるだろうか? その代表例として、金融機関からの借入金と、株式発行による株主からの資本金としての調達を比較してみよう。

借入金の場合には、一般に返済期日が定められており、経営が赤字であっても決められた利子をつけて返済しなければならない。またよほどの信用がある場合を除き、物的な担保や保証人を要求されることが多い。担保とは、万一約定どおりに返済できない場合には相手に所有権を引き渡さなければならないもので、多くの場合には土地などの不動産が対象にされる。そのため、スタートしたばかりのベンチャーではそのような資産を持っていないため、借り入れが思うようにできないこともしばしば発生する。さらに金融機関から借り入れる場合、一般には資金の使い道も限定される。一方、株式発行による調達では、受け取った資金を返済する必要はなく、お金の使い道も通常は限定されない。当然ながら物的担保や保証人も必要ない。また、株主に対する報酬は配当という形で支払われるが、これも企業の経営成績が不振の場合には支払う必要はない。

このように考えると圧倒的に借入金の方が不利で株式発行の方が有利というように見えるかもしれないが、株式発行の方が一方的にメリットばかりということはない。最大の問題は、株式とは企業の持分であり、新株の発行は企業の所有権を切り売りすることになることである。従ってベンチャー企業の経営者が外部の株主に新株を発行して必要な資金を調達すればするほど、創業者の所有権が相対的に縮小してしまうのである。企業の最高意思決定機関である株主総会において、議決権は持株数に比例するものであるから、持株比率が下がれば経営上の発言権が弱まってしまい、場合によっては経営者の地位さえ脅かされることになりかねない。

また株主に対する配当は、利益の中から必要な税金を支払った後の税引後純利益の中から支払わねばならない。企業の利益に対する課税は、法人税・事業税・住民税の3つがあり、合計では課税所得に対して約40%の税率である。一方、借入金の場合には支払った利子が損金として課税所得から控除されるため、実質的なコストは配当に比べるとそれだけ軽減されていることになる。

負債のレバレッジ効果

このことから負債を用いることで自己資本に対する利益率を高めることが可能である。総資産1,000、総資産に対する営業利益率(ROA)20%の企業があるとする。ここで、自己資本比率が [1] 100% [2] 50% [3] 20%の3つの場合、それぞれの自己資本利益率(ROE)はどう変わるかを考える。ただし、負債の金利は5%、利益への課税は40%とする(表2)。

表2 負債のレバレッジ効果

表2 負債のレバレッジ効果

このケースで自己資本比率が高いほど当期純利益は大きいが、ROE(当期純利益÷ 純資産)は [1] 12% [2] 21% [3] 48%となり、負債が大きいほど利益率が高くなる。ただ、ここではどの場合にも借入金利が同一と仮定しており、実際には借り入れが多い場合には金利が高くなるなどこのまま当てはまるわけではないが、この方法により自己資本に対する利益率は高められる。これがレバレッジ効果と呼ばれるもので、使い方次第では危険もあるものの負債の有効な利用法であり、無借金が常に最善とは限らないことが分かる。

*1
なお、2006年の会社法施行以前は「純資産の部」でなく、「資本の部」という名称で、構成項目も一部異なっていた。