2010年1月号
特集  - 希望の低炭素社会
エコ・イノベーションできれいな地球を22世紀に
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篠塚 勝正 Profile
(しのづか・かつまさ)

社団法人 経済同友会 理科系人材
問題検討PT 委員長
沖電気工業株式会社 取締役会長


課題“解決”先進国として世界に貢献

わが国は、深刻化する財政問題を抱えたまま、少子高齢化が加速し、人口減少社会に突入した。一方で、経済活動はますますグローバル化し、新興国の経済発展さらには世界人口の爆発的増加も相まって、資源・エネルギー・食糧などの制約問題も顕在化しつつある。また、このような状況下でも、世界各国は、地球温暖化問題に積極的に対応しつつ、持続的に経済成長を遂げていくことが求められている。以上のように、わが国は国内外に山積する課題に直面しており、いわば課題先進国である。

この難局を打開するには、イノベーション、すなわち『科学技術の変革が、社会・経済・産業活動に大きな影響を与え、距離・時間・場所の概念を変え、新たな価値を創生すること』に果敢に挑戦し、課題の解決に積極的に取り組む必要がある。特に、世界共通の課題や人類の存続さえも脅かしかねない問題に対して、わが国が先駆的な成果を挙げ、それをグローバルに展開することで、課題“解決” 先進国として世界に大きく貢献できる可能性がある。

温室効果ガス削減へイノベーションを推進

昨年12 月にコペンハーゲンで開催されたCOP15においては、ポスト京都の新しい国際的枠組みづくりへの合意には至らず、あらためて、先進国と新興国・開発途上国の溝の大きさを実感させられた。わが国は主要排出国の全員参加と国際的な公平性を確保することを前提に、2020 年の中期目標として意欲的な削減目標を表明してきた。脱・温暖化社会の姿をまず描き、そこから求められる目標に対して、その実現に必要な対策を組み合わせていくという「バックキャスティング」の発想で挑戦することが、科学技術をベースとするイノベーションの実現にとって大切なのではないだろうか。

過去の趨勢(すうせい)、現在の状況のもとに、将来を延長線上に外挿する「フォアキャスティング」による目標設定では、ボトムアップ的な発想に陥りがちで、研究開発プロジェクトは、個別に完結しかねず、大きな成果は期待しにくい面がある。よって、トップダウンで、チャレンジングではあるが高い目標を設定し、さかのぼって長・中・短期の目標を定め、ヒト・モノ・カネを効率的に活用し、素晴らしい成果を期待する「バックキャスティング」により、温暖化問題克服に向けたイノベーションを推進すべきである。

『うまくつくり、うまくつかう』時代

高い目標の達成には、産・学・官が総力を挙げて取り組むことが不可欠である。産においては、今後の企業経営の方向性として、社会ニーズ、環境配慮、技術開発を融合した“エコ・イノベーション”が求められる。

図1 民生部門に着目した「うまくつくり、うまくつかう」のリレー

図1 民生部門に着目した「うまくつくり、うまくつか
     う」のリレー

しかしながら、わが国のエネルギー消費の約4 割を占める日々の暮らし(家庭やオフィス、旅客など)においては、温室効果ガスであるCO2の排出量(1990 年度比)が大幅に増えているのが現実である。この部門がエネルギーを効率的に消費する(=「うまくつかう」)努力が必要である。一方、エネルギー転換や産業の各部門である産業側がエネルギーを「うまくつくる」ための技術革新や製品開発に取り組めば、さらに非常に大きな削減効果が期待できる(図1)。なお、温暖化対応は研究技術分野が複雑多岐にわたることから、日本企業は、自前主義にこだわり過ぎずに幅広くオープンに協調してイノベーションを展開すること、環境分野における国際標準の獲得のために連携することなどがますます重要になる。

優れた環境関連技術を有するわが国は、イノベーションの推進によって低炭素社会への道を拓くことで、課題“解決” 先進国として世界に大きく貢献することができる。同時に、きれいな地球を将来世代に引き継いでいくことは、われわれが果たさなければならない重大な責任である。

科学技術立国を担う人材育成が急務

近年、いわゆる理科離れが一層深刻化している。子供たちの科学技術への関心は成長に伴って低くなる傾向にあり、理工系大学生の基礎学力・専門能力の低下が懸念されるなど、科学技術立国を目指すわが国としては大変な危機に直面しているといっても過言ではない。

多くの子供は、幼少期に自然に対して強い興味・関心を示すが、大人が素直に応えず、初等教育段階で観察・実験・考察などの機会が不足し、加えて、理科好きの教員が少ないことから、子供たちは理科が好きになり難い環境に置かれている。理工系人材の危機の根本的な原因は、自然を素直に見る目をはぐくむ機会が失われていることにあると考えられる。

このような子供の成長過程を考えると「子供の理科離れ」というよりも、大人による『子供の理科離し』という方が的を射ているのではないだろうか。こうしたことも踏まえて、子供や若者が、科学技術に興味を持ち、夢を抱くことができるような教育環境づくりに取り組む必要がある。その際、基本となるのが『自然を素直に見る目』を大切にすることであり、子供の創造性発揮を阻害しない環境をつくることは、われわれ、大人・社会の役目である。