2010年1月号
特集2  - 市町村を元気にする大学の効用
秋田県横手市
秋田大学横手分校は、地域課題を解決する「扉」
顔写真

佐藤 亮 Profile
(さとう・りょう)

秋田県横手市 総務企画部
市長公室 主幹


秋田大学が2009年夏、横手市に開設した横手分校は市民の健康講座や中学生向けの科学教室を開いている。来年度はさまざまなソフト事業に挑戦する。市は、同分校を市民、企業、行政の抱える課題を解決する「扉」と位置付けている。

包括連携協定の締結

横手市は2009年2 月、秋田大学との包括連携協定を締結した。自治体の連携としては県内5 番目である。連携協力事項は、[1]まちづくりの推進[2]農業をはじめ地域産業の活性化 [3]教育・文化・芸術の振興 [4]その他必要な事項の4 項目。これを踏まえ、連携の進め方について秋田大学と協議を重ねた。市としては、小中高校生を含む一般市民のほか、企業や店舗、各種活動団体まであらゆる分野からのニーズ、リクエストに対応してもらいたいと考えていた。大学側は、県南内陸部は大学の空白的地域であり、大学が持つ「教育資源」の還元を図る拠点にしたいと積極的だった。

秋田大学の窓口は、社会貢献推進室である。ここは市にとって産学官連携の相談窓口でもあり、県内14 大学が連携協力して地域貢献する「大学コンソーシアムあきた」の事務局も兼ねている。

「横手分校」の設置

そのような協議を重ねていた矢先のことである。5月上旬、民間放送局で特別番組の収録に出演していた秋田大学の吉村昇学長が、「横手市に秋田大学の『分校』を設置したい」と発言された。大学側としては想定の範囲内だったのかもしれないが、市側は「えっ、分校?」と驚いた。生徒や学生のいる状態を想像したのである。ともあれ、この発言は横手市にとって、まさに願ったりかなったりの誠にありがたいお話であった。

社会貢献推進室からは、分校といっても横手市に秋田大学の「キャンパス」をつくることではなく、「まちづくり分野」「教育分野」「産学連携分野」において、地域の発展に貢献したいと伝えられた。横手分校はモデルケースであり、今後、地域にとって必要とされる展開を目指し、成功例のノウハウは全県に提供していきたいという。

市は、早速、企業や民間団体、NPO 等各種団体に横手分校を通じた大学連携に対する要望や意見等の調査を実施した。その結果、健康や子育て、環境や歴史文化など、多様な分野にわたる学習や社員教育、課題解決の手掛かりにしたいという期待が寄せられ、関心の高さがうかがわれた。

市民、企業のニーズくみ上げる
写真1 横手分校開設記念市民講演会

写真1 横手分校開設記念市民講演会

市は「分校」を市民や事業所(企業)、行政、それぞれの知的欲求および地域課題を解決する「扉」と位置付けた。分校が連絡相談窓口となり、市民や企業からのニーズをくみ上げ、解決に向けたコーディネートを行う。また、大学側のPR 活動も行うのである。

8 月5 日、横手分校開設記念セレモニーを開催した(写真1)。分校場所は横手市が提供することで、南庁舎講堂に看板を設置。しかし、「横手市内全部が分校」という考え方を基本としている。

五十嵐忠悦市長は、施設の提供、分校職員などの経費は、市の負担という「覚悟」を持って「横手市が将来にわたって積極的に関与すべき」と協力体制を敷いている。

「分校」の事業
写真2 横手地区モデルのロケット教室

写真2 横手地区モデルのロケット教室

本年度は市民の健康講座をシリーズで開催し、小中学生向けの科学教室(写真2)や高校生が大学の授業を体験できる講座を開講した。年度後期分の中学生講座や社会人講座は未定である。また、廃棄物でしかなかった「すぐり(間引き)スイカ」を活用する研究にも取り組んでいる。そのほか、地元特産漬物の代表「いぶりがっこ」の生産から商品化までに教員や学生がかかわり、大学ブランドとして発表する。学生と地域住民の交流は、山里の暮らしにとって新鮮な刺激であり、また学生たちにとっても農村を見直すきっかけとなるはずである。

来年度は、ソフト事業の足場を固める年度とし、横手分校の方向性をさまざまな角度からトライアルする年度と位置付けている。市民のニーズ調査と大学側との調整を行い、分校に必要な機能、運営形態などを検討し「中期プラン」を作成する。

銀行加え、三者の連携

この大学連携には、もう1 つ「おまけ」がある。当地発祥の銀行、北都銀行の参画である。市と大学、銀行の三者一体の取り組みは、全国的にも珍しいのではないだろうか。秋田大学と北都銀行は、平成18 年度に連携協定を締結しており、大学の社会貢献を銀行が支援しているのである。大学の知的財産、銀行の持つ情報や経営ノウハウという財産は、横手分校にとって大きな力であり、さまざまな連携を通して、課題解決へ向けた道が開かれるものと確信している。

分校の取り組みは始まったばかりであるが、吉村学長は「社会人を対象とした夜間や土日開校の研究科的分校にできれば」と述べてくれた。特定の講座を高校生が受講した場合、入学後に単位互換できるシステムの展開や、企業との共同研究による特産開発、まちづくり支援など、分校の取り組むべき課題は尽きない。しかし、いつか分校開設から、あらためて横手分校「開校式」を行える日を楽しみにしている。