2010年1月号
連載2  - 小企業と大学の連携
(上)
小企業における産学連携の実像
顔写真

深沼 光 Profile
(ふかぬま・ひかる)

株式会社日本政策金融公庫
総合研究所 小企業研究グループ
上席主任研究員

産学連携の担い手は、大企業や中小企業の中でも規模の大きいところが多い。しかし、小さな企業にとっても大学との連携は有意義である。そこで、これまで取り上げられる機会の少なかった小企業と大学との連携について、3回にわたって連載する。第1回は、小企業における産学連携の実像を日本政策金融公庫総合研究所が実施したアンケートと事例調査から探る。

連携を実施している割合は低い

表1 「 小企業と大学の連携に関する実態調査」
     の概要

表1 「 小企業と大学の連携に関する実態調査」の概要


表2 連携の分類

表2 連携の分類


図1 大学と連携実績がある企業の割合(項目別)


図1 大学と連携実績がある企業の割合(項目別)

産学連携の多くが、大企業、製造業を中心に行われている。東京大学「『産学官連携等実施状況調査』の分析報告書」(2008年)によれば、大学と国内企業との共同研究のうち、小企業の占める割合は1割に満たず、6割強を製造業が占める。しかし、産学連携を行っている小さな企業がないわけではない。

そこで、日本政策金融公庫総合研究所では、従業者数が19人以下の小企業に焦点を当てるとともに、内容も技術に関するものに限定せず、大学と何らかのかかわりを持った活動を幅広く連携ととらえた実態調査を実施した(表1)。調査に当たっては、「大学の活用」と「大学への協力」の2つの連携を想定し、前者を「Ⅰ 開発企画」「Ⅱ 評価委託」「Ⅲ 経営相談」、後者を「Ⅳ 講師引受」「Ⅴ 研究協力」「Ⅵ インターン」と合計6 つの項目に分類した(表2)。

アンケートの結果まず明らかになったのは、実際に大学との連携を行っている小企業の割合は非常に低いということだ。「大学の活用」については、最も多い「Ⅰ 開発企画」でも2.3%で、「Ⅱ 評価委託」は0.7%、「Ⅲ 経営相談」は0.9%と、それぞれ1%にも満たない(図1)。3項目のいずれかで実績がある企業も3.2%にとどまった。「大学への協力」も同様で、「Ⅳ 講師引受」が1.6%、「Ⅴ 研究協力」が2.0%、「Ⅵ インターン」が1.8%となり、3項目のいずれかで実績がある企業もわずか4.4%である。また、従業者規模別では、従業者の少ない企業ほど、実施割合が低い傾向が見て取れた。資産や人材に乏しい小企業では、中小企業の中でも規模の大きい層と比較しても、大学との連携があまり進んでいないと言えよう。

しかしながら、小企業の数は、大企業に比べて圧倒的に多い。総務省「事業所・企業統計調査」(2006年)によれば、従業者数19人以下の企業数は約394万社に上る。このうち3%が大学と何らかの連携を行っているとすれば、その数は約12 万件となる。それぞれの連携の規模はそれほど大きくはないと推測されるものの、決して無視できるボリュームではないことは確かであろう。

内容・業種ともに多彩な連携

それでは、実際にはどのような連携が行われているのだろうか。実施したと回答した企業の件数を業種別に集計してみると、やはり「製造業」が「全体」で42 件と最も多い(表3)。項目別では、「Ⅰ 開発企画」で17件、「Ⅱ 評価委託」で3 件、「Ⅴ 研究協力」で9件と、技術に関する連携が多いと思われる分野でトップとなった。一方、製造業以外も少なくはない。実績が36件と「全体」では第2位の「事業所向けサービス業」は、「Ⅳ 講師引受」で9件、「Ⅵ インターン」で10件と、それぞれ製造業を上回り、業種別で最も多くなった。「医療、福祉」も20 件と「全体」で第3 位と健闘している。「Ⅲ 経営相談」については「小売業」と「卸売業」が4件で最も多い。「小売業」は「Ⅱ 評価委託」でも3件と「製造業」に並んで第1位となっている。さらに下位の業種まで含めると、6項目いずれでも、ほとんどの業種で連携は行われており、一部の業種に集中しているわけではない。では、具体的にはどのような連携が行われているのか、事例から見ていこう。

表3 業種別に見た大学との連携の実績(件数)

表3 業種別に見た大学との連携の実績(件数)
【事例1 女子大生のアイデアで新製品開発】

創業75 年を迎える老舗の甘納豆メーカー株式会社つかもと(茨城県、従業者数16 人)は、2007年、頭打ちである甘納豆の需要を伸ばそうと、地域産業資源活用事業を利用し、地元のサツマイモを使った「甘納糖」の開発に乗り出した。その際、若者向けの新製品開発を効果的に行うため、独立行政法人中小企業基盤整備機構のコーディネータの紹介で、相模女子大学(神奈川県)との連携をスタートさせた。

試作品は、まず栄養科学部で成分と味覚を分析し、人間社会学部が学園祭での試作品配布とアンケートを行った。こうしたデータをもとに学生が企画した、いちょう型にカットしたポテトチップス感覚の甘納糖や、チョコレートのような洋風パッケージは、これまで考えもつかなかった斬新なものだった。

その後、学生の意見を取り入れて進めた開発は実を結び、2009 年10 月には「相模女子大学とのコラボレーション企画」と銘打った新製品の甘納糖「imoshoku」(いもしょく)の販売が東京都内のスーパーで始まった。サツマイモを使ったこの製品には、若い女性向けの低カロリー和菓子というコンセプトをはじめ、携帯しやすいパッケージ、覚えやすいネーミング、イメージキャラクターのデザインに至るまで、学生のアイデアが数多く採用されている。成果には双方とも満足しており、次の開発に向けて、現在も連携を継続している。


【事例2 経営学の教員とブランド戦略を練る】

静岡本山茶(ほんやまちゃ)研究会は、静岡市本山地域を主とした茶生産者と、地元の茶問屋、茶小売店、日本茶インストラクターなど約50 人で構成される任意団体である。本山地域は、緑茶の名産地として業界では知られているものの、消費者には知名度がない。そのため、品質が高くても売り上げが伸びないのが悩みだった。

そこで2007 年、同研究会の代表は、地元の静岡県立大学を訪れ、お茶業界を研究していた経営学の教授に相談した。両者は協力して、インターネット調査や地元ホテルでの試飲アンケートなどを行い、本山茶の知名度、味の評価などに関するデータを収集した。その結果から、お茶の産地として全国的に有名な「静岡」を冠した「静岡本山茶」というブランドをつくっていく戦略を立てた。研究会メンバーは、2008 年に第1 弾として、地元の伝統工芸士らに委託してつくった茶つぼ、化粧箱、風呂敷等と、厳選した茶葉40 グラムがセットになった高級感のある商品を企画。100 個限定でインターネット販売したところ、1 セット3 万5,000円とかなり高い価格にもかかわらず予約段階で完売した。

大学との連携は2008 年でいったん終了しているが、2009 年には限定セットを再び販売しただけではなく、別の新商品も企画して販売を始めた。研究会の事務局担当者は「2009 年の企画は、大学に頼らず、会員同士で意見を出し合って進めることができた。大学との連携によって、何とかして売れる商品をつくり上げようと考える意識がメンバー内で高まったようだ」とその効果を語っている。

このように、ハイテク分野が注目されがちな「Ⅰ 開発企画」でも、老舗の和菓子店という伝統産業分野の小企業で、有効な連携が行われている。技術面ではなく、「Ⅲ 経営相談」が地域産品の販売促進に向けた企業グループの活動に寄与している。このほか、脳の研究者に依頼して独自教材使用時の脳の状況を調べてもらい商品販売に役立てた英語学習塾の「Ⅱ 評価委託」、海外クルーズを得意とする旅行代理店の経営者が大学で自らの経験をもとに講義を行った「Ⅳ講師引受」、木製家具メーカーの職人が、古家具の修理で培った経験をもとに、文化財の木材の特定に協力している「Ⅴ 研究協力」、経営コンサルタント会社が毎年10人のインターンシップを受け入れている「Ⅵ インターン」など、さまざま連携が見られた。これらすべてが従業者20人に満たない小企業である。産学連携というと、製造業による技術革新や研究開発が注目されがちである。しかし、小企業と大学の連携は、内容、業種ともに非常に多岐にわたっていることがアンケートと事例の両方から見て取れるのである。