2010年1月号
海外トレンド
タイの地域大学における産学連携と地域貢献
顔写真

小長井 敬介 Profile
(こながい・けいすけ)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部
地域事業推進部 事業調整担当
主査

顔写真

大垣 博文 Profile
(おおがき・ひろふみ)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部
地域事業推進部 事業推進担当
調査員

タイ国・チェンマイにおいて開催されたJSPS国際フォーラムから、タイ国の大学における産学連携も含めた地域貢献について紹介する。

はじめに

私たち独立行政法人科学技術振興機構(JST)のグループは、2009年11 月16 日から18 日まで、タイ国チェンマイ市内で開催された「2ndJSPS International Forum: Roles of Universities in Community/RegionalDevelopment」*1に参加した(写真1)。

本フォーラムにおいては、大学の地域貢献の取り組みとして [1]産学連携による地域イノベーション [2]医療分野等における地域支援 [3]地域資源を利用した観光分野における持続性のある地域産業の発展、の3 テーマが設けられ、知見・課題の共有と議論等が交わされた。

タイにおける産業と産学連携の現状
写真1 フォーラムの開催式典の様子

写真1 フォーラムの開催式典の様子

タイは近年、食料(加工)産業が主要な産業となっている。しかし、タイ北部、フォーラム開催地のチェンマイにおいては観光産業が盛んな一方、日本人の定住者等が多いため医療ニーズ等が高まりつつあり、上記のようなテーマが設置された。

産学連携による地域イノベーションのセッションにおいては、日本における施策や取り組み(JST 実施事業含む)について紹介した。一方、タイにおける現状についても報告された。俯瞰(ふかん)的には、タイにおける産学が連携している項目として、コンサルタント、技術相談が主(49 ~35%)で、次いでライセンス(17%)、ほかに共同研究が15%、製品販売が8%、1 割弱が社員研修やインターンシップ等である。食品加工産業では、コンサルタントや技術相談が半数以上である。自動車や電子機器関連産業、化学・薬剤関連産業では、ライセンスや共同研究等が3割近くと比較的高い。

ただ、タイも含めた発展途上国においては、技術力の高い研究開発を産学連携により実施するには、研究機関がまだ十分な機能を有していない。また、イノベーション創出の地域格差が大きい傾向がある。産業界の(大学との共同研究に関する)意識も低調で、地域大学は連携先を見つけられない状況にある。

図1 タイの主要な科学技術機関

図1 タイの主要な科学技術機関*2

こうした中、チェンマイ大学においては、例えばTLO やインキュベート施設を設置するとともに、理学部が科学技術サービスセンターなどの取り組みを通じて、地域企業への技術試験等のサービスを提供している。

また、国家科学技術開発局(NSTDA)においてもITAPという、企業(特に、中小企業)向けの技術開発支援システムを実施しており、多くはないが日本のコーディネータのような人材を配置しているとのことであった(図1)。

チェンマイ大学は今後、企業向けのワンストップサービスを指向しており、議論において、日本のコーディネータというシステムに大きな興味を持っていた。

チェンマイにおける地域貢献と連携の状況

チェンマイには、日本の企業を退職した後定住する日本人が多く、3,000 名規模とのことである。このため医療ニーズが高まりつつあるが、診療の際、日本語が通じない問題がある。これらを解決するために、香川大学と連携したインターネット医療システムの研究開発と国際協力について紹介された。

また、チェンマイ大学からは、地域コミュニティに即した医療従事者の育成の事例が紹介され、議論では日本語を話せる医療インタープリターの育成などが挙がった。

チェンマイも含めたタイの地方都市では観光産業の割合が大きいが、持続的な地域発展に向けて、地域資源を利用したエコツーリズムを指向しており、日本から「地産地消」等の考え方が紹介された。チェンマイにおける地域資源とは歴史的な建築物と豊かな自然等であり、今後、観光によりそれらの資源が損なわれることのないよう、適切な管理に基づく保護および保全を図ることが重要であるという議論となった。

日系企業とチェンマイの地域大学との連携
写真2 現地視察の様子

写真2 現地視察の様子

フォーラム3 日目の現地視察として、日系企業Murata Electronics(Thailand), Ltd. の現地工場を視察した(写真2)。タイ北部にも日系企業が多く進出しているが、地域の大学との連携等は進んでいないようである。日系企業はタイの教育水準の高さ等を評価して工場を設置しているものの、研究開発拠点はタイに設置していないことが1 つの要因であると考えられる。今回の視察には、チェンマイ大学の担当者も同行し、企業担当者との意見交換が行われ、チェンマイ大学からは技術試験や社員教育等での連携ができないかとの提案があった。

まとめ

特にハイテク分野での産学連携による研究開発については、研究開発機能の集約にまだ時間を要するようである。大学の地域貢献活動として、医療や観光の分野での協力等は非常に興味深い試みであった。本フォーラムを通じて、こうした地域のニーズに深く根付いた新たな産学連携の息吹を感じることができた。

*1
東南アジアにおける科学技術コミュニティの形成と発展を目指し、独立行政法人日本学術振興会が主催、タイ国家研究評議会(NRCT)、チェンマイ大学、在チェンマイ日本国総領事館等が後援の下、日本、タイの大学関係者や産学連携支援機関の担当者が集まり、開催された。

*2:参考:
JST研究開発戦略センター「科学技術・イノベーション動向報告 タイ編 2008年度版」をもとに作成。