2010年2月号
単発記事
テレビ会議などに活用できる「音源方向推定システム」

武村 正則 Profile
(たけむら・まさのり)

ヒロコン株式会社 本社開発部
主任

ヒロコン株式会社(広島市)が広島工業大学と連携して開発した「音源方向推定システム」は、テレビ会議システムなどに応用できるものだ。テレビ会議で、機器が発言者の方向を認識してその音を抽出し、カメラの切り替えを行う。

企業活動のグローバル化に伴い、離れた場所とリアルタイムにやり取りができるテレビ会議システムの活用が広がってきた。機器が発言者の方向を認識し、その音声抽出とカメラ切り替えを行う機能をテレビ会議システムに追加できればますます有用になるのではないだろうか(図1)。

図1  音源方向推定システムを用いたテレビ会議システム

図1  音源方向推定システムを用いたテレビ会議
     システム

当社(ヒロコン株式会社)は、ひろしま技術移転センターの紹介により、広島工業大学の中村正孝名誉教授の発明した「音源方向推定システム、音源方向推定方法及び音源方向推定プログラム」を用いた音源方向推定システムを開発した(図2 右)。開発にあたっては財団法人広島市産業振興センターの「平成19 年度新技術・産学官共同研究助成金」制度を活用させていただいた。

一対のマイクを結んだ直線の入射角

一定距離に置いた2 つのマイクで音声を受けた場合、それぞれのマイクへの音声信号の到達時間は、その一対になっている2 つのマイクを結んだ直線に対する入射角により微妙に異なる。その到達時間の差を音声信号の位相差としてとらえることにより、入射角を逆算で求めるというのが音源方向推定の基本技術である(図2 左)。

図2 音源方向推定システム(右)と音源方向推定の基本技術(左)

図2 音源方向推定システム(右)と音源方向推
     定の基本技術(左)

この音声信号の位相差を算出する方法は幾つかあるが、中村教授の特許では、対の2 つのマイクからの音声信号を周波数ごとに分解し、その分解された2 つの周波数成分の相関から位相差を求める(CSP 法)。

また対の2 つのマイクが推定できる方向は90 度ごとに特性が違い、推定においての弱点となる角度が存在する。この弱点を補うために、2 対のマイクを用意し、1つの対の直線がいまひとつの対から90 度ずらして設置し、お互いの弱点となる角度を補い合う方法を用いる。

ひろしま技術移転センターから製品化の打診

当社では以前から音源方向推定の技術を持っていたが、精度や演算量の面で満足のいくものではなかった。そんな折、ひろしま技術移転センターから中村教授の特許を用いて製品化を行わないかとの打診があり、検討した結果、今回の開発を行うことを決めた。初年度の開発でパソコン上で中村教授の技術をリアルタイム処理で実証を行い、次年度の開発でDSP(Digital Signal Processor)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)への移植を行い、装置化に成功した。

リアルタイム性を損なわない演算時間

信号処理システムの装置化で最も苦労するのは、そのリアルタイム性と演算精度の両立になるかと思う。実際、演算精度を上げるには高度な演算を行う必要があり、それにより演算時間も増加してしまう。そのため今回の開発では、必要最低限な演算精度を確保しつつ、リアルタイム性を損なわない演算時間を実現することに一番の労力を要した。具体的には演算量の多いDFT(周波数成分への分解を行う演算:離散フーリエ変換)をハードウエアで実行させDSP での信号処理の負荷を軽減したり、演算に使用する数値のけた数を限定し演算量を軽減する等が挙げられる。

多様な応用の可能性

本装置の主な開発目的は、テレビ会議において発言者の方向を推定し、カメラを切り替えたり、発言者の方向からの音声のみを取り出すことにより音声をより明瞭(めいりょう)にしようとするものである。

今後、音声会議システムの提供会社等と協力し、システムへのオプション機能搭載を目指している。多方面への応用が可能と思われるが、現在さまざまな展示会において本装置の展示を行っており、その際ご来場の皆さまから数々の貴重なご意見を頂いている。例としては、環境面での雑音探査、セキュリティー装置としての音源探査、PC とのユーザーインターフェース等が挙げられる。今後はそういった各方面での応用を視野に入れ、技術協力を行っていくつもりだ。

幅広い産学連携の取り組み

当社は産学連携に積極的に取り組んでおり、研究のプロが生み出した研究成果を応用して社会のニーズにマッチした製品の開発に挑戦している。大学等学術研究機関との技術協力の一例として「環境対応型ビデオマススコープ超高速セロミクスロボットの開発」が挙げられる。この開発は、広島大学大学院医歯薬学総合研究科升島研究室、広島市産業振興センター、呉商工会議所ほかと共同で行ったもの。細胞の形態変化をビデオで自動画像追跡し、変化の瞬間、その場で細胞内外液を質量分析部に自動導入、特異的に発現した分子群の種と量と構造を自動解析し、バイオメカニクスを解明する安価で環境対応型の新ロボット化計測器の開発である。この開発によりバイオ研究の加速と産業創生を進めてきた。