2010年2月号
連載3  - 小企業と大学の連携
(中)
連携の課題と解決の方向性
顔写真

深沼 光 Profile
(ふかぬま・ひかる)

株式会社日本政策金融公庫
総合研究所 小企業研究グループ
上席主任研究員

先月号(2010年1月号)の第1回では、日本政策金融公庫総合研究所の調査結果から、小企業と大学の連携が内容、業種ともに非常に多岐にわたっていることを明らかにした。今回は、引き続き同調査を基に、大学との連携によって、小企業はどのような効果を得ているのか確認した上で、産学連携推進に向けた課題とその解決の方向性について考察する。

企業側の満足度は高く今後にも期待

連携を行ったことのある小企業に効果を尋ねたところ、回答企業157社のうち「特に効果はなかった」としたのは2 割弱の30件で、残り約8割が何らかの効果を認めている(表1)。最も多かったのは、「技術面の知識・情報・データの取得」の46件であった。項目別では「大学の活用」だけでなく、「大学への協力」でも件数が多い。2 番目に多い「商品・サービスの開発」の44件は「大学の活用」が中心であるが、次の「事業経営面の知識・情報・データの取得」の29件や「広告宣伝」の27件では、「Ⅳ 講師引受」「Ⅴ 研究協力」といった「大学への協力」を挙げた企業も目立つ。一方、「売り上げ増加」は「大学の活用」では上位に入るものの、「全体」では21件とそれほど多くなく、「商品・サービスの開発」の44件と比べても少ない。ヒアリングでも、価格や販路の問題から販売までには至らなかったか、発売はしたものの売り上げに占める割合はごくわずかというケースがほとんどであった。「コスト削減」を効果として挙げている企業も「全体」で8 件にとどまっており、大学との連携によって収益状況が必ずしも画期的に改善しているわけではないようだ。

表1 大学との連携の効果(3つまでの複数回答、
     件数)

表1 大学との連携の効果(3つまでの複数回答、件数)

ただ、連携の満足度を尋ねたところ、「満足した」と回答した企業が6項目すべてで7 割から8割に達している。利益に直接つながる効果は少ないものの、情報収集、広告宣伝、従業員教育といったさまざまな間接的な効果を得ることで、大学との連携に一定の評価を与えているのである。

では、今後の連携についてはどうだろうか。実績のない企業は、6項目のいずれも「ぜひ実施したい」とする割合は数パーセントしかないものの、「条件によっては実施したい」を含めると、3 割から5割を占める(図1(1))。連携に何となく興味を持ち、期待している小企業は少なくない。一方、実績のある企業では、「ぜひ実施したい」と「条件によっては実施したい」が合わせて8割から9割に達する(図1(2))。連携の効果を実感し、「敷居が高い」といった大学に対する心理的なハードルも下がっているようだ。まず何らかの実績を積むことが、大学との連携をさらに進めていくための第一歩なのである。

求められる情報不足の解消

ここで、「大学の活用」の際に問題となった点を見てみよう。まず「大学の活用」では、「大学・教員に関する情報が少なかった」「意思疎通がうまく図れなかった」がともに20.9%で最も多い。「時間がかかりすぎた」が16.4%、「手続きが面倒だった」が13.4%など、正確な情報が事前に得られていなかったことを示唆する回答も見られた。次のケースも、情報不足によって連携が円滑に進まなかった一例である。

  【事例 情報不足でマッチングに失敗】

河川工事を主に手掛ける有限会社大牧建設(栃木県、従業者数9 人)は、公共工事への依存度が高いことに危機感を持ち、新たな事業を検討していた。そこで工事で発生する泥水処理に苦労する同業者が多いことに着目し、地元で採れる土の成分を使った泥を沈殿させる水質浄化剤の開発に乗り出した。製品化をスムーズに進めようと、公的機関のアドバイスで、水質浄化の専門家である大学教員に相談してみることにしたのだが、実際に訪問してみたところ、その教員の研究は微生物を使った水質浄化であった。水質を良くするという目的は一致しているものの、技術的には全く異なる。製品の改善点についてのアドバイスや技術的な評価を期待していたものの、結局は最初の相談だけで立ち消えになった。

幸い同社は、ほかの大学に同じ分野の研究者を探し当て、共同研究に取り掛かることができた。この研究者とはその後3 年にわたって連携を続けており、現在も科学的分析データに基づいたアドバイスを受けながら、製品開発に取り組んでいる。大牧社長は「大学では非常に狭い範囲を深く研究しているため、少しでも専門分野が違うとうまくいかない。事前にもっと情報を集めておくべきだった。当社の教訓をほかの企業にも役立ててほしい」と語る。

図1 今後の大学との連携

図1 今後の大学との連携



図2  連携推進に必要なもの

図2  連携推進に必要なもの(連携実績の有無
     別、3つまでの複数回答)

さらに、連携の推進に必要なものについて尋ねたところ、実績のある企業で53.0%、実績のない企業でも41.5%と、いずれの場合でも「大学からの情報発信」を挙げる割合が最も高いことがわかる(図2)。実績のある企業で10 ポイント以上高いことは、実際に行った結果、あらためて情報が重要との認識が深まっていることを示していると見られる。「企業側の負担の明確化」や「成功事例の情報提供」も3割前後の企業が回答した。また、興味深いのは「わからない」が、実績がある企業では4.3%にすぎなかったのに対し、実績のない企業では29.2%と大きく開いており、連携の内容や仕組みといった基本的な情報すら持っていないことがうかがえる。こうしたさまざまな情報の不足やギャップを補うことが、連携を進めるための最大の課題といえるだろう。

もちろん大学が産学連携に消極的なわけではない。株式会社三菱総合研究所が大学へ実施した「地域中小企業とのネットワーク形成に向けた取り組みに関するアンケート調査」(2007年)*1によれば、中小企業との産学連携に対し「積極的に取り組みたい」が81.6%、「機会があれば取り組みたい」が16.3%と、多くの大学が小企業との連携に関心を持っている。ただ、大学でのヒアリングでは「小企業とは日常的な付き合いがない。訪ねてくる経営者も極めて少ない」「希望する連携内容を伝えても、資金力や規模が限られる小企業からは反応が少ない」といった実情を語る担当者も多かった。大学側が連携相手となる小企業を探し当てることは容易ではないようだ。意欲はあっても小企業との接点が少ないため、情報発信に苦慮している大学も多いと考えられる。

仲介機関の機能充実と相互連携が必要
図3  利用しやすいと思う仲介機関

図3  利用しやすいと思う仲介機関(連携実績の
     有無別、3つまでの複数回答)

そこで期待されるのが仲介機関である。実は、アンケート回答企業では仲介機関を利用せず企業や大学が直接相手を探すケースの方が多かった。にもかかわらず実績のある企業では、実績のない企業の23.2%を上回る35.9%が「仲介機関の機能充実」を連携に必要なものとして挙げている。必要な情報をつなぐ仲介機関の必要性を、実際に連携を行ってあらためて感じているのである。実際、周囲に適当な機関がなかったり、紹介された大学と連携にまで至らなかったりしたために、最終的には仲介機関を利用せず、自ら相手を探した例も見られた。では、小企業が利用しやすい仲介機関はどこだろうか。アンケートでは、連携実績のある企業では「大学事務局・附属機関」の34.4%が最も多い(図3)。「商工会議所・商工会」の31.2%、「地方自治体の中小企業支援機関・関連部局」の29.6%に次いで、「公的な技術支援機関」の20.0%が挙がっていることにも、明確なニーズをもって大学にアプローチをしていく姿勢が示唆される。一方、実績のない企業では、「商工会議所・商工会」が49.9%、「地方自治体の中小企業支援機関・関連部局」が25.3%、「金融機関」が20.9%など、小企業にとってより身近な機関への期待が大きいといえる。

大学との連携を実施している小企業は、そこから何らかのメリットを得ており、満足度も高い。大学や仲介機関も、こうした小企業も連携の相手として認識していくことが必要である。また、それぞれのニーズに合致した適切な相手にマッチングできるよう、仲介機関がそれぞれ機能を高めるとともに、商工会議所・商工会や取引金融機関など、小企業が身近に感じる仲介機関と、そのほかの仲介機関や大学とも連携を深めていくことが求められるのではないだろうか。

*1
結果は『中小企業白書(2008年版)』に掲載されている。なお、同調査では、小企業ではなく、中小企業全般との連携について質問している。