2010年3月号
特集  - 環境都市 5つのアプローチ
社会資本を長持ちさせる
観光ナガサキを支える“道守”養成ユニット
顔写真

松田 浩 Profile
(まつだ・ひろし)

長崎大学 工学部 教授、
インフラ長寿命化センター長


国、自治体の財政が厳しい中、橋、トンネル、道路などの交通インフラを長持ちさせるにはコンクリートのひび割れ、鋼部材の腐食・き裂などの早期発見、早期補修が重要。しかしそれに対応できる人材が不足しているため、長崎大学は社会人を対象にした人材養成の講座を始めた。

観光立県を県是としている長崎県は教会群をはじめとする観光資源が離・半島に点在し、これらを結ぶ交通網が整備されている。県自体が半島であり、離島が面積の4 割を占め、高温・多湿・台風・季節風などのさまざまな劣化外力を受けやすい。そのため、橋やトンネルや道路などの交通インフラ施設に、塩害や中性化によるコンクリートのひび割れ、さびや疲労による鋼部材の腐食・き裂が相次いで確認されている。これに対処するには、「早期発見」と「早期補修」が重要になる。

図1 「観光ナガサキを支える“道守”養成ユニット」実施内容

図1 「観光ナガサキを支える“道守”養成ユニット」
     実施内容

財政状況が厳しい中、長崎県は全国に先駆けて橋梁長寿命化修繕計画を策定したが、その実施のための技術者数が不足している。このような状況にかんがみ、長崎大学工学部インフラ長寿命化センターは、長崎県、県内建設業界、住民と連携し、橋やトンネルや道路の維持管理を行う人材を養成する講座を開始した。こうした人材を「道守(みちもり)」と呼び、講座を「観光ナガサキを支える“道守”養成ユニット*1」(図1)と称している。文部科学省の科学技術振興調整費に採択されている。

4つのコース

本養成講座は道守補助員、道守補、特定道守、道守の4 コースで構成されている。道守補助員コースは一般市民が対象で、日常生活の中で道路インフラ施設の異常に気付ける人材を養成する。

ほかの3 コースは地元建設業者、コンサルタント業者、行政職員等が対象で、次のような人材を目標としている。

   ● 道守補コース=点検作業・記録ができる一級土木施工管理技士レベル
   ● 特定道守コース=コンクリート構造、鋼構造の2コース。コンクリート診断士、鋼構造診断士レベル
   ● 道守コース=点検・診断の結果の妥当性を適切に評価し総合的な判断を行うことができ、さらに維持管理に関するマネジメントができる技術士、博士レベル

これらの技術レベルを達成させるため、講義による基礎理論・要素技術の習得、実験による現象の把握と評価、フィールドを利用した実地研修を組み合わせた総合的なトレーニングを行う。平成24 年度末までに道守補助員125 人、道守補45 人、特定道守16 人、道守4 人を養成する目標を掲げている。

「道守補助員」コースは市民が対象

平成20 年度は道守補助員と道守補の2 コースを開講した。道守補助員コースは長崎、佐世保、五島の3 市で出前講座を行い、合計31 人が受講した。カリキュラムは講義4.5 時間、現場実習1.5時間の計約6 時間。講義は道路インフラ施設の重要性、変状事例等を説明し、現場実習(写真1)では変状が発生しやすい箇所、点検シートの作成方法について学んだ。

写真1 現場実習の様子

写真1 現場実習の様子

道守補コースでは25 人が受講した。講義14 時間、点検演習12 時間、現場実習10 時間、そのほか講演等3 時間の計39 時間(週1 回、1.5 カ月)。講義は構造・点検に関するもの、点検演習は非破壊試験装置や各種点検機器等を使用し供試体で行った。現場実習では、長崎県に補修・補強・架け替え予定のあるコンクリート橋、鋼橋を提供してもらい、点検の際に重要な部位や部材、点検の心得、点検シートの記載方法などを学んだ。

平成21 年度は、道守補助員、道守補に加え、特定道守、道守の専門性の高いコースを開講した。特定道守コースは、道守補コースのカリキュラムに加えて技術者倫理、環境工学、情報処理、計測モニタリング等の共通講座および各コースの専門講座がある。専門講座は受講生参加型で、数パターンの変状を想定した構造物を想定して、受講生に [1]調査・計画 [2]予測・評価 [3]補修・補強計画案を作成してもらい、各案に対して経験豊富な実務経験者を交えてディスカッションを行った。道守コースは、道守補、特定道守コースのカリキュラムに加えてアセットマネジメント、リスクマネジメント、ライフサイクルマネジメントの講義・演習を行った。

地域再生への具体的な貢献

こうした「予防保全」のメンテナンスは小規模で継続的事業が必要かつ効果的となるので、地元の中小・零細企業が参加しやすく、地元の活性化と雇用創出が期待できる。また、企業技術者が公的資格を取得することにより、地元企業の受注増が期待され、維持管理に要する費用が地元に還元され、地元建設業者の活性化にもつながる。「ローマ人の物語」(塩野七生著)には、古代ローマ人が築き上げたインフラは「人間が人間らしい生活を送るために必要な大事業」であり、「多くの人々が参加し長い歳月を要して現実化するもの」、そして「インフラがどうなされるかはその民族の将来の進む道まで決めてしまう」とまで書かれている。

過疎化が進む地方において、公共サービスをどうしていくのかが重要な課題となっている。地方への執着を捨て都市に集中居住する方が合理的で、インフラのメンテナンスの対象も人口動態に応じて縮小すべきであるという主張も出てきている。しかし、地方の街並みが軍艦島のような廃虚となっていく姿を想い描くことは、誰しも受け入れ難いはずである。そのためにも、市民参加型の社会インフラ低コスト整備事業を持続し、普及していく必要がある。

*1
観光ナガサキを支える“道守”養成ユニット
http://ilem.eng.nagasaki-u.ac.jp/michimori/index.html