2010年3月号
特集  - 環境都市 5つのアプローチ
地域のエコエネルギー供給システム
飯田市 “ヒューマングリッド”で効率活用
長野県飯田市は長期の目標として、太陽エネルギーや森林資源の活用を中心とした地域のエコエネルギー供給計画の策定を目指している。同市では2004年から「太陽光発電市民ファンド」による太陽光発電促進の活動が行われている。市民参加で太陽光発電普及を経済サイクルに乗せようというユニークな取り組みだ。同じ時期から協同組合が木質ペレット(木材を細かく破砕し、高圧で固めた固形燃料)の普及を進めている。

長野県飯田市は長期の目標として、太陽エネルギーや森林資源の活用を中心とした地域のエコエネルギー供給計画の策定を目指している。同市では2004年から「太陽光発電市民ファンド」による太陽光発電促進の活動が行われている。市民参加で太陽光発電普及を経済サイクルに乗せようというユニークな取り組みだ。同じ時期から協同組合が木質ペレット(木材を細かく破砕し、高圧で固めた固形燃料)の普及を進めている。

  ● 同社が、契約した個人宅(A さんとしておく)の屋根に太陽光発電設備を設置する。設備代と取り付け工事費用は同社が負担する。
  ● A さんは9 年間、月々1 万9,800 円を同社に支払う。発電した電力はAさん宅が使い、余った電力を中部電力が買い取る。売電収入はA さんのものになる。
  ● 太陽光パネルは10 年目に、同社がA さんに無償で譲渡する。

余った電力を従来の倍の1 キロワット時当たり48 円で電力会社が買い取る制度ができて、家庭でも「長期的に電気代を節減できる」と太陽光発電への関心は高まっている。しかし、設備導入には200万円を上回る費用がかかる。ローンを組むのも面倒だ。自然エネルギーに関心があっても、躊躇(ちゅうちょ)している人も多いはず。この課題を解決するのが「おひさまゼロ円システム」だ。名称の「ゼロ円」は利用者の初期投資の負担がないことを表している。同社は飯田市および飯田信用金庫と連携してこのサービスを開発した。

1 月に30 件限定で利用者を募集・選定し、現在、順次設備を取り付けている。

3つのファンドで市民から約7億円

同社は、太陽光発電普及に携わる人々の世界ではかなり知られた存在だ。先駆的に取り組んできたファンドによる太陽光発電事業によってである。

会社設立は2004 年12 月(当初は有限会社、2007 年11 月に株式会社化)。翌05 年春に初の太陽光発電市民出資ファンド(「南信州おひさまファンド」)を組んだ。出資のタイプは1 口10 万円(目標年間分配利回り2%。出資契約期間10 年間)と同50 万円(同3.3%、同15 年)で、合わせて460 人から予定額の2 億150 万円を集め、38 の公共施設(保育園、公民館など)、事業所の屋根に太陽光発電設備を設置した(写真1)。パネルは合わせて畳1,000枚分だ。

この事業では、同社が公共施設や事業所の屋根を無償で借り、太陽光発電設備を設置。発電した電力は同社が全量を設備を設置した施設などに販売する。公共施設や事業所は屋根・屋上の一部に設置してもらうことで自然エネルギー創出に貢献できる。ファンドに出資する市民は分配金を見込めると同時に循環型社会づくりに参加できる。これらをつないでビジネスにしたのが同社の取り組みだ。2007 年6 月、ファンド出資者へ第1回の分配を予定通り行った。

その後、同社は第2 回、第3 回のファンドを組成。計3回のファンドで市民から集めた資金は約7 億1,000 万円。これで160 カ所余りに太陽光発電設備を設置している。

写真1  保育園の屋根に設置された おひさま発電所「さんぽちゃん1号」

写真1  保育園の屋根に設置されたおひさま発電所「さんぽちゃん1号」

まほろば事業支えたNPOが母体

上記の事業には前史がある。「エネルギーの地産地消」を目指して2004 年2 月に設立されたNPO 法人南信州おひさま進歩が母体となって、おひさま進歩エネルギー株式会社ができた。飯田市は2004 年、環境省の「環境と経済の好循環のまちモデル事業」に採択され、太陽光市民共同発電事業・木質ペレット普及などの事業(通称「まほろば事業」)を実施したが、民間でこの事業を支えたのがこのNPO 法人である。

中心で活動していた1 人が、現在、おひさま進歩エネルギー社長の原亮弘さんだ。地元の食品メーカーを脱サラしてこの世界に飛び込んだ。同社は原さんのほか、社員4 人、パート1 人の体制。経営を安定させるため、薪(まき)、木質ペレット(木材を細かく破砕し、高圧で固めた固形燃料)等の販売、カーボンオフセット事業などにも力を入れている。

このように飯田市における6 年間の太陽エネルギー活用の歩みは「市民参加」と「経済サイクル」が特徴だ。行政が初めに声を掛けたとはいえ、市民や企業などの協力を得て仕組みが回り始めているのはなぜか。役所を含め関係者は一様に、この地域の「公」「民」協働が生まれやすい風土を指摘する。古くから公民館活動が行われるなど自治意識が根付いており、行政と市民生活の垣根が低いというわけである。

間伐材のペレットを普及
写真2 間伐材を材料とした木質ペレット

写真2 間伐材を材料とした木質ペレット

飯田市は、国の環境モデル都市(全国13 自治体)の1 つである。テーマは〈「おひさま」と「もり」のエネルギーが育(はぐく)む低炭素な環境文化都市の創造〉。「おひさま」はいうまでもなく太陽エネルギー。一方の「もり」は同市の面積の84%を占める森林の活用を表している。「もり」の分野では、2004 年設立の南信バイオマス協同組合(井口肇理事長、5 社で組織)が木質ペレット(写真2)を生産し、その普及に取り組んでいる。同協組のペレットの材料は間伐材である。当初、公共施設や一般家庭にペレットストーブの導入を進めたが、冬季しか需要がない。その後、観光施設、工場などへの業務用ペレットボイラーの導入に力を入れた結果、ペレットの販売量が伸びてきた。生産量は2009 年度が約500 トン、2010年度は能力いっぱいの1,200 トン程度にまで拡大する見通しだ。とはいえ、この事業は始まったばかり。コスト、ほかのエネルギーとの競合など課題は少なくない。「もり」については、市の資料に「林業の産業連環を環境エネルギーの観点から再編充実させる」ことを目指すとあるが、同協組の井口理事長も「木材資源の積極的活用には間伐材を含む木材流通の改革が必要」と訴える。


市は現在、国の平成21 年度補正予算の国土交通省「エリアマネジメント事業」を活用して、利用者サイドに立った地域のエネルギー融通を研究している。新年度以降、「おひさま」「もり」などの活用を中心に、地域のさまざまなエネルギー資源を効率よく使い切る計画(地域のエコエネルギー供給計画)策定を目指す。第1 層(電力会社の電気供給網、太陽光発電、小水力発電など)、第2 層(ガソリンスタンドなどエネルギー供給拠点、運送会社などの配送網)、第3 層(ガスなどの既存インフラ)などエネルギー供給に関係するあらゆる機能を組み合わせる。脚光を浴びているスマートグリッド(電力の流れを供給・需要の双方から制御・最適化する次世代送電網)にならい、「飯田(ヒューマン)グリッド」が目標という。

(本誌編集長:登坂 和洋)