2010年3月号
単発記事
福岡大学とアジアとの国際産学官連携
顔写真

角中 正博 名 Profile
(かくなか・まさひろ)

福岡大学 産学官連携部門長・
教授


福岡大学は、廃棄物処理技術や半導体技術によって、アジアに最も近い九州という地の利を生かして国際連携を進めている。

「準好気性埋立」とアジア各国との環境協力

福岡大学は1960 年代から環境分野の研究開発に取り組み、1997 年に福岡大学資源循環・環境制御システム研究所(所長・樋口壯太郎教授)を設立している。「準好気性埋立」は、埋立地の底部に集排水管を設け浸出水を速やかに外部に排出することと、ごみの発酵熱による自然対流効果により分解を促進することにより、浸出水を良質化し、メタンガスの発生を抑制する方式であり、わが国の廃棄物処分場を建設する際の標準方式となっている。準好気性埋立方式は、CDM(クリーン開発メカニズム)環境技術としてアジア地域への貢献も期待され、第6 回産学官連携推進会議において、研究を推進してきた花嶋正孝名誉教授が環境大臣賞を受賞している。

写真1 日中共同実証施設(北京)

写真1 日中共同実証施設(北京)

現在、福岡大学は社会デザイン工学科水理衛生工学実験室と資源循環・環境制御システム研究所を中心にこの「準好気性埋立」のアジア各国への普及を図っている。

資源循環・環境制御システム研究所では、2007 年から中国都市建設研究院、北京科学技術大学と共同で北京に実証施設を建設した(写真1)。実証施設では埋立地から発生するメタンガスを回収し、燃焼発電させるCDM事業を行うなど、「準好気性埋立」を基軸とした環境負荷低減型埋立処分システムの研究開発に取り組んでいる。

韓国では、2009 年3 月に韓国釜山テクノパークと技術移転MOU(覚書)を締結し、セミナー開催等の事業を行っている。最近開催したセミナーでは、産学による埋立技術、汚染土壌処理、排水処理、炭化技術等20 件の技術紹介を行ったが、日韓の企業間でビジネス契約が成立する等の成果を挙げている。2010年度も北九州市において中国、韓国の社会人、学生を対象に、環境技術についてのサマープログラムや技術セミナーを開催する予定である。

こうした中、2009 年12 月、インドネシアのゴワ市とMOU を締結した。インドネシア共和国も廃棄物問題に悩まされており、同市から最終処分場建設、マスタープラン作成に関する技術支援要請があったため、人材育成および交流を含めた協力に至った。

福岡大学の環境問題の取り組みは40 年の歴史を有しており、CDM環境技術を使って、コアに幅広い分野での環境問題の解決に貢献していきたいと考えている。

IT(半導体)分野と海外展開

次にIT(半導体)分野。80年代には全世界のICの16%を九州で生産し、九州はシリコンアイランドと呼ばれていたが、90年代になってファンダリという製造委託ビジネスが発達し、工場を持たない半導体会社であるファブレスが生まれた。製造工程が水平分業化されて、テストハウス、EMSなどの産業群が生まれ、拠点がアジアに拡散していった。このため、現在、九州のIC生産は世界の5%にまで縮小し世界の半導体市場で九州の比重は低下した。

だが、この間九州の半導体関連企業はアジアに顧客を求めて進出していった。多くの企業がアジアとのビジネスを通して生き残り、現在、半導体に関連した企業は九州に700 社以上集積している。

福岡大学工学部の友景肇教授は、90 年代からこうした半導体企業の海外展開を支援してきた。具体的には世界の半導体技術の高度化に対応するために研究会、ワークショップ、展示商談会等を精力的に開催してきた。2006 年にはアジア半導体機構(Asia Semiconductor Trading SupportAssociation:ASTSA)を組織して、九州の半導体関連企業の国際ビジネスの促進とアジア展開の支援を図った。現在研究会の会員1,600 人、1,000社のデータベースを管理しており、アジアの半導体研究・開発のプラットフォームとして新たな展開を図っている。

半導体産業とインド
写真2  インド半導体協会プラニマ・シャナイ会長と友景教授(福岡市)

写真2  インド半導体協会プラニマ・シャナイ会長
     と友景教授(福岡市)

アジア半導体機構は、これまでに中国、韓国、マレーシア、香港の関係機関とMOU 協定を締結した。

インド半導体協会とは2008 年にはMOUを締結している(写真2)。インドは、日本からは距離的に遠い国であるが親日的であり、巨大市場は魅力的である。インドとのビジネス交流は、これまでインドのIT 人材を活用するというインドから日本へという流れであった。半導体産業が立ち上がれば、装置や材料を日本からインドへ輸出する「日本からインドへ」が起こる。こうした想定で、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)の支援を受け2008年にバンガロールでシンポジウムを開催した。2009年11 月には講演会、ビジネスミーティングを開催。2010年もビジネス指向の人材育成事業等、10 年間開催してきた半導体実装国際ワークショップのネットワークをベースに、インドとの新たな連携の構築を計画している。

「革新者たち」とアジアビジネス
写真3 「 シリコンアイランド九州の革新者たち」(西日本新聞社)

写真3 「 シリコンアイランド九州
     の革新者たち」(西日本新聞社)

最近、友景教授は九州の36人の企業人にスポットを当てた「シリコンアイランド九州の革新者たち」(西日本新聞社刊、写真3)を取りまとめた。自立化を果たす企業には、必ず新しいことに挑戦しようとする「革新者」がいる。それは経営者であることもあれば、事業部門を任されたマネジャー、またはエンジニアの場合もある。ビジネスは人と人のつながりで動いており、人に焦点を当てることによりアジアでのビジネスが見えてくると考えている。

福岡大学もこうした人と人のネットワークを基盤に産学官のプラットフォームを構築し、アジアでの環境問題への貢献やビジネス展開の支援を図っていきたいと考えている。