2010年3月号
単発記事
三菱電機・早稲田大学が高速移動で周辺環境観測車両
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橋詰 匠 Profile
(はしづめ・たくみ)

早稲田大学
理工学術院総合研究所 教授


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石川 貴一朗 Profile
(いしかわ・きいちろう)

早稲田大学
理工学術院総合研究所
日本学術振興会 特別研究員

早稲田大学理工学術院総合研究所の橋詰匠研究室と三菱電機株式会社が共同開発した移動式三次元計測車両は、一般の車両と同様の走行中に道路周辺の三次元環境計測ができるものである。

移動式三次元計測車両(Mobile Mapping System:MMS)概要
図1 MMS概観とセンサ構成

図1 MMS概観とセンサ構成

本稿で紹介する移動式三次元計測車両(MMS)(図1)は早稲田大学橋詰研究室と三菱電機株式会社が共同で開発したものである。車両に航法センサと環境計測センサを搭載し、一般車両と同様の走行中に道路周辺の三次元環境計測を可能にしたものである。MMS は車両上部に3 台のGPS とIMU(Inertial Measurement Unit)から構成されるGPS-Gyro/IMU 複合位置・姿勢標定装置、レーザスキャナ、カメラを搭載している。これらのセンサはGPS 時刻を基に正確な同期を取り、車内に搭載するPC に収集データが記録される。MMS では,記録したデータを基に後処理によって周辺の三次元環境を色情報付点群で復元する。復元結果の一例を図2 に示す。

MMS は、最高速度80km/h で計測することが可能であり、ほかの交通を乱すことなく安全に計測を行うことができる。また、その地物位置計測精度は0.095m(1σ)であり、国土地理院の地図情報レベル500を満足する測量級精度である。

MMSの主要技術
図2 計測データ例(海ほたる)

図2 計測データ例(海ほたる)

MMS で使用されている技術は大きく「位置標定技術」「センサ融合技術」「3D 画像処理技術」の3 つから構成されている。早稲田大学橋詰研究室と三菱電機はMMSを共同開発する以前の1996 年から現在に至るまで、屋外における自律移動システムに関して共同研究を行ってきた。特に2003年からは共同研究のテーマをGPS とIMU 複合による位置標定技術中心に進めた。MMS は、これらの自律移動システムで培われた、位置標定技術とセンサ融合技術、3D 画像処理技術を応用して開発したものである。

MMS開発のきっかけ

MMS の試作機を開発したのは2005 年である。当時は、GPS 機能付の携帯電話によるマンナビゲーションやカーナビゲーションシステムが普及し始めており、ナビゲーション情報の基となる地図の精度や鮮度の向上が求められていた。また、これらのサービスに使用される地図の一部には、三次元の建物情報が登録されている製品も出始めており、基となる建物形状およびテクスチャ情報の効率的な収集へのニーズがあった。このような背景の下に、自律移動システムで培われた、高速移動しながら周囲環境の観測を行う移動計測技術を逐次発展させ、後述の各研究機関と実アプリケーションに関する共同フィールド実験を続けることでMMS の開発に至った。

開発の経過

当初、MMS は前述のように、ナビゲーション用三次元地図作成を目的に研究・開発を行っていた。そのため、システムの構築初期段階においては、次世代カーナビゲーションシステムでニーズの高い、道路白線や停止線、標識の画像認識、および高精度な位置計測技術に重点を置いた。具体的には、画像と三次元点群データを複合し、現地での手作業の測量に代わり、デスクトップサーベイ(机上測量)を可能とした。また、景観計測機能として色付きの三次元点群データ生成技術の開発も同時に行った。これらの技術を基に、実証実験を全国各地で繰り返し行い、MMS の性能改善を行ってきた。

また、計測を通して、ナビゲーション用地図作成以外でのMMS の用途についてさまざまな分野の専門家や自治体、業者からの相談を受けた。それらをヒントに、MMSを用いた道路舗装工の出来形管理、電線高さ計測・管理、路面性状調査、トンネルの点検調査、そして防災分野など多種多様なニーズへの実証試験を行い、実アプリケーションの開拓を進めた。これらの実績をベースに、本MMS は2009 年8 月に国土交通省が整備する新技術情報提供システム(New Technology Information System:NETIS)において、新たな地物位置計測手法として登録されるに至った(登録番号:KK-090011)。

MMSの製品化動向

MMS はこれまでに国土交通省や総務省関連機関、建設コンサル等において40 件以上(2005 年11 月~2009 年12 月)の計測実績があり、製品購入を行った測量会社等での業務受注件数も年々増加している。日本においては、道路や橋梁、トンネル等の社会インフラの維持管理業務の効率化が強く求められており、MMS はこれらの課題に対するソリューションとの期待も高い。

MMSの今後の展望および現在の研究体制

技術インキュベーション段階から評価・検証に至るまでの全プロセスで、自治体や国を巻き込んだシーズとニーズのマッチングや、国の関連施策との整合が取れた実践的な開発体制を実現すべく、早稲田大学のほかに情報化施工等の次世代土木技術を有する施工技術総合研究所、さらに防災・減災に関する知見および防災GIS 技術を有する京都大学防災研究所、防災科学技術研究所と応用実証の共同研究を行っている。また、MMS を扱っている民間企業でも「MMS 研究会」を発足させ、研究会を通してMMS の新たなニーズの発掘や、他大学におけるMMS アプリケーション研究等を行っており、MMS を利用した研究や業務はカーナビ、測量分野以外のさまざまな分野で広がりつつある。