2010年3月号
単発記事
トラクタ搭載型土壌分析システムの事業化

澁澤 栄 Profile
(しぶさわ・さかえ)

東京農工大学大学院 農学府
教授

小平 正和 Profile
(こだいら・まさかず)

東京農工大学大学院 農学府
産学官連携研究員

二宮 和則 Profile
(にのみや・かずのり)

エスアイ精工株式会社
技術開発部 課長

平子 進一 Profile
(ひらこ・しんいち)

シブヤマシナリー株式会社
管理本部 参事

エスアイ精工株式会社(愛媛県松山市)が販売している「トラクタ搭載型土壌分析システム」は、東京農工大学大学院の澁澤栄教授とオムロン株式会社が共同開発した技術である。それを農工大TLOがシブヤマシナリー株式会社(石川県金沢市)にライセンシングして製品化、グループ会社のエスアイ精工が普及に当たっている。

図1 リアルタイム土壌センサーの開発経緯

図1 リアルタイム土壌センサーの開発経緯

本稿で紹介する「トラクタ搭載型土壌分析システム(SAS:Soil AnalyzingSystem)」(商品名)は、瞬時に土壌成分を分析提示するリアルタイム土壌センサーの範疇(はんちゅう)に分類される。本技術の発明者は東京農工大学大学院・農学府の澁澤栄とオムロン株式会社であり、所有者は農工大ティー・エル・オー株式会社(以下、農工大TLO)である。シブヤマシナリー株式会社(石川県金沢市)にライセンシングと技術移転をして製品化し、グループ会社のエスアイ精工株式会社(愛媛県松山市)が販売普及している(図1)。

技術の特徴は次の通りである(図2)。

[1]   深さ10~40cmの土壌中肥沃成分を連続的に観測できる。
[2]   観測間隔は1m 程度、観測速度は1km/h、正確な位置測定が行える。
[3]   観測結果が土壌マップとして提供でき、農業者の経験や知見の空間イメージに親和する。
[4]   提供できる土壌パラメータは土壌水分、有機物含量、電気伝導度、全炭素、全窒素である。
[5]   開発途上であるが、硝酸態窒素、pH、有効態リン酸、交換性カリウム、交換性苦土、交換性石灰、銅などの測定に期待が持てる。

図2 リアルタイム土壌センサーの構造と機能

図2 リアルタイム土壌センサーの構造と機能



図3 技術のパッケージ化による流亡窒素(環境負荷)マップの作成例

図3 技術のパッケージ化による流亡窒素(環境
     負荷)マップの作成例

従来は1 つのほ場で3~5 点程度の土壌サンプルを採集分析し、その平均値で土壌診断および施肥設計を実施していた。均一な肥料散布を実施すると、場所によって土壌栄養の過不足が発生し、環境負荷増大と収量・品質の変動が不可避であった。緻密(ちみつ)な土壌マップを基礎にすると、全体としては投入減を実現しながら局所最適な施肥管理が可能で、環境負荷軽減と生産性向上を同時に実現することができる。また、土壌マップはほ場情報として蓄積でき、長期短期のほ場管理戦略を決定する有力な資料になる。

本技術は農業の世界で次のように位置付けられる。

[1]   環境負荷軽減と生産性向上を同時に目指す精密農業において、情報付きほ場を創造する最も基盤となる技術である(農林水産研究開発レポートNo.24,2008)。
[2]   国際的にはわが国の技術が最先端にあり、後続は米国やベルギーである(JST 戦略提言CRDS-FY2007-SP-11,2008)。
[3]   リモートセンシングや収量計測などと接続して新農場管理ツールの技術パッケージを構成することができる。

産学連携活動の経緯

澁澤研究室の産学連携の大略は図1 に示す通りである。

(1) オムロン:まず澁澤が、精密農業日本モデル(澁澤. 朝倉書店, 2006)の構想を提案し、基盤技術の1つであるリアルタイム土壌センサー開発のスキームを提起した。それに応えたのがオムロンであった。本件に関する国際パテントマップの調査、プロトタイプの試作、機能設計と解析を推進し、一連の特許出願と同時に実機モデルの開発に成功した。欧米諸国には数多くの有力な開発競争チームが存在したが、われわれのみいち早く成功したのは、ユニークな開発チーム編成にあった。オムロンの都合で開発プロジェクトは中断し、本件の知的財産は農工大TLO が譲り受けることになった。
(2) シブヤマシナリーとエスアイ精工:シブヤマシナリーがパテントライセンシングに応じ、技術移転と共同研究を進め、日本の実情に合う市販機SAS1000 を開発した。選果システムなどの農業分野に強いグループ企業であるエスアイ精工に技術普及拠点を組織し、精密農業コンセプトの啓蒙(けいもう)と販売普及に乗り出した。

事業戦略と今後の展開

シブヤマシナリーとエスアイ精工は澁澤研究室と協力しながら、次の事業戦略に向けて取り組んでいる。

(1) 土壌管理システムの提供(図3):本技術を基軸とした土壌管理技術パッケージを構成し、環境負荷軽減、コスト削減、収益性向上など、複数の目標を実現するための営農支援ツールを提供すること。
(2) 選果ロボットと情報付き農産物:光センサーの利用による農産物全数検査のための選果システムを基軸にして情報付き農産物を創造し、マーケティングと営農を同時に支援できるツールの開発提供すること。
(3) 産地拠点モデル:農産物流通のモーダルシフトに備えた産地拠点の農場管理ツールと拠点施設設備の提供。