2010年4月号
単発記事
地域産業と技術開発のワンストップ窓口
-東京海洋大学の水産海洋プラットフォーム-

中村 宏 Profile
(なかむら・ひろし)

東京海洋大学 産学・地域連携推進機構 准教授
水産海洋プラットフォーム事業部門長

東京海洋大学は、水産海洋に関する産業界の相談、技術ニーズなどに対応するワンストップ窓口の構築を進めている。他大学、水産試験場、博物館等との連携で、幅広い「産」と「学」のマッチングを目指す。

平成15年度に東京商船大学と東京水産大学の統合によって誕生した東京海洋大学の社会連携推進共同研究センター(現、産学・地域連携推進機構)*1は水産海洋技術と関連産業界、全国の水産地域(産地)を結ぶワンストップ窓口として、諸活動を強力に推進してきた。これを「水産海洋プラットフォーム事業」と称し、文部科学省「産学官連携戦略展開事業」の「戦略展開プログラム」として平成20 年度から5 カ年の計画で事業を実施している。

背景と課題

中小企業やベンチャー企業は長期的視野に立った事業戦略や新製品開発に資金を投入できない実情がある。一方、大学などの公的な研究機関は、研究した成果を形にして社会に還元するために、民間企業の力を借りる必要性がある。産学連携の必要性を訴える声が大きくなる一方で、実際には広範なニーズと点在するシーズをマッチングさせることは難しく、お互いになかなか目指すパートナーに出会えないということが問題となっていた。

水産海洋プラットフォームの提案


図1 ワンストップ窓口「水産海洋プラットフォーム」の構築

従って「ここに行けば必要とするものに出会える」「ここに行けば問題を解決してくれる」といった、産・学の「出会いの場」の構築が急務であった。しかし、全国にさまざまな分野の研究者が点在し、一方で各地に多種多様なニーズがあることを考慮すれば、全方位的にこれを行うことは現実的ではない。このため私たちは、技術分野と産業界を特定し、いわば総合百貨店ではなく、専門ブティック的な取り組みが必要と考えた。これが水産海洋分野に特化した新しいマッチングシステムとして提案しているワンストップ窓口「水産海洋プラットフォーム」*2である(図1)。

世界第6 位のEEZ(排他的経済水域)を持つ海洋国日本にとって、水産資源は貴重な財産の1 つであり、一次産業である漁業にとどまらず、全国各地には水産資源を起点にした特色ある二次、三次産業が多数あり、地域産業の中核となっている。

しかし、水産関連産業は、核となって各地域社会を支えているとはいえ、多くは中小事業体であり経営基盤が弱いという事実がある。一方、漁法のような伝統技能から、バイオ先端技術、あるいは医薬健康食品の遺伝資源まで、幅広い技術分野に支えられる水産関連産業。この特色ある産業と大学などの研究機関が水産海洋プラットフォームという「出会いの場」へお互いの要望を持ち寄り、最適なパートナーに巡り合う。技術と産業分野に特化した新しいイノベーション・ソリューションツールとして、私どもは全国海洋都市の地域産業と研究者を結ぶ役割を果たし、新製品の開発、新事業の創成に貢献していく。

具体的な事例、成果
【海の相談室*3

「海の相談室」を設け、学外の皆さまからのさまざまな問い合わせを電話、ファクス、インターネット、展示会場などの現場で受け付けている。普段の生活で感じたちょっとした疑問から専門的な問題まで、「海」「水産」「水環境」「食品」「港湾」「船舶」などに関することなら解決までのご支援をさせていただく。東京海洋大学の教員で解決できないものでもお断りすることなく、他大学、水産試験場、博物館等の方々につなぐように心掛けてきた。問い合わせいただいたお客さまは「手ぶらで帰さない」のが基本方針で、文部科学省事業に採択されてからは、これをいっそう強く推進している。



図2 「海の相談室」取扱件数の推移

相談件数は平成15 年度の181 件から、平成20 年度の332件へとかなりの増加を見せている(図2)。平成21 年度は400件に届きそうだ。注目していただきたいのは、この中で、ほかの機関をご紹介した件数である。平成15 年度の9 件が、20 年度には39 件に急増していることである。

社会、産業界、地域からの要望にさまざまな研究者、研究機関が応えるとともに、全国のさまざまな研究者の皆さんの研究成果を私どもがご紹介する機会もつくっている。次項にてこれを詳しく紹介したい。

【新技術説明会*4

年に数回、ジャパン・インターナショナル・シーフードショー、イノベーション・ジャパン、アグリビジネス創出フェアなど、関連産業界の皆さまに向け、大学等の研究機関がその成果を紹介する展示会に出展している。その際、東京海洋大学の研究者の研究成果だけではなく、他大学、独法研究機関、高等専門学校、公設試験場(水産試験場)などの研究成果も併せてご紹介する水産海洋に特化した新技術説明会を開催している。ここに来れば、水産海洋、さらにその中でも食の安全や廃棄物処理など特定分野の面白い研究成果が一同に見られるというものである。

平成20 年7 月のジャパン・インターナショナル・シーフードショーにて実施した第1回新技術説明会から、平成21 年11 月のイノベーション・ジャパンにて実施した第5 回新技術説明会までに、延べ71 の大学・研究機関から125 件の研究成果ポスターが展示され、延べ22 の大学・研究機関から32 件の研究成果プレゼンテーションが行われた(写真1)。一地方一地域では決して出会えなかったこれらの機会から、新たな連携が発生し、新たな事業創成に向かったケースが出てきている。


写真1 シーズプレゼンテーション(左)とポスター展(右)の様子
(第10回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー)
【地域のシーズ:食材・産品を都市の消費者に紹介】

基礎的研究から、新技術新事業の創成に結び付ける従来型の産学連携事業を強力に推進することは言うに及ばない。さらに、私どもでは大学の特長を生かし、さまざまな形で地域産業の振興と活性化を支援している。その1 つが、毎年11 月に開催される東京海洋大学の学園祭(海鷹祭)にあわせて開催する「全国水産都市フェア」*5である。これは、本学が都会のど真ん中に所在する特長を生かし、地方の隠れた産品、素材を直接都市の消費者の皆さまに販売、広報宣伝する機会を設け、都会の皆さまの声を聞いていただこうという企画だ。すでに過去4 回実施し、北海道から鹿児島まで、延べ19 地域の産品をご紹介している。私どもではこの活動を「地産都消」の推進と呼んでいる*6

さらにこの事業を進め、本年度からは株式会社ぐるなびとの共同研究「地方産地の活性化に資する効果的施策の開発」を開始した。本事業の一環として、地域の産品の素晴らしさを科学的に説き、これを都市の飲食店に紹介するとともに新たなメニューを開発する「地域産品・メニュー開発セミナー」を2 カ月に1 回のペースで実施している。なお、株式会社ぐるなびとの連携事業を中心に、第2 回目の水産海洋プラットフォームフォーラム*7を開催し、滝久雄代表取締役会長に「『地産他消』への取り組み&大学への期待」と題するご講演を賜った。

おわりに

ここで紹介した事業は、いずれも私どもが単独で実施できるものではない。皆さまのご協力、ご支援があればこそだ。地域の産品を紹介していただきたい。実用化を望む新技術を提示してほしい。明日の海洋開発、水産振興、地方水産海洋都市振興に歩むため、精いっぱい貢献させていただきたいと思う*8

*1
東京水産大学地域共同研究センター(平成12年度発足)と東京商船大学海事交通共同研究センター(平成13年度発足)を引き継いだ。

*2
中村宏ほか.産業と技術分野に特化したワンストップ窓口の構築−水産海洋プラットフォームについて.研究・技術計画学会年次学術大会講演要旨集,2008.

*3 :海の相談室
http://suisankaiyo.com/ipfm-qanda.html

*4 :新技術説明会
http://suisankaiyo.com/new-technology-event.html

*5 :全国水産都市フェア
http://suisankaiyo.com/fisheries-event.html

*6
平成20年度「地域クラスターセミナーin愛媛」で基調講演「地産地消から地産都消に向けて〜東京海洋大学の「地域」連携と水産海洋プラットフォーム事業を事例として」を行った。

*7 :第2回 東京海洋大学「水産海洋プラットフォームフォーラム」
http://suisankaiyo.com/news/1-event-info/103-2-.html

*8 :ぜひメールマガジンにご登録ください。
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