2010年4月号
単発記事
七尾市経済再生プロジェクト
~人材育成・地域資源・場~
顔写真

小川 幸彦 Profile
(おがわ・ゆきひこ)

七尾市 産業部次長 兼 産業政策課長



石川県七尾市における5年間の地域経済活性化の取り組みを総括した。平成17年4月に同市産業政策課の中に「経済再生プロジェクト推進室」を設置したのが出発点で、大学、産業界、地域社会との連携を築いた。内発的産業の育成、雇用機会の拡大などの目標を掲げ、人材育成、地域資源の発掘、場の提供などを積極的に行った。
はじめに

石川県七尾市は能登半島の中程に位置し、平成16 年10 月、1 市3 町が合併し新しい1 歩を踏み出した。この地域は七尾港を海の玄関口とし、古代より能登の中心地として発展を続けてきた。なぎさのいで湯として有名な和倉温泉や、さまざまなリゾート施設を有する能登島など観光資源にも恵まれている。だが、産業構造の変化に対応できず、既存産業や伝統産業は衰退している。和倉温泉の入込客数もピーク時の半分近い年間80 万人台になるなど、就業の機会が大きく失われて地域の活力が低下している。

経済再生への取り組み

このような中、新生・七尾市の市長に就任した武元文平市長は「経済再生」を市政の重要課題に掲げ、平成17 年4 月に産業部産業政策課内に経済再生プロジェクト推進室を設置した。このような取り組みは市では初めてであり、右も左も分からない状態の中で、北陸先端科学技術大学院大学の近藤修司教授に巡り合い、産学民官が連携して富の創出や雇用機会の拡大を目指す「七尾市経済再生戦略会議」を立ち上げた。



図1 七尾市経済再生戦略プラン

平成17 年度は産業連関表を使った産業構造分析を実施し、市の産業の実態把握に努めるとともに、北陸先端科学技術大学院大学との連携にも取り組んだ。平成18 年3 月、市職員独自で「七尾市経済再生戦略プラン」を策定した。同プランは、「人材」「地域資源」「場」で「新しい価値」を生み出すことを戦略の基本とし [1]地域資源を活かした内発的産業の育成 [2]外部資本を活用した産業の育成 [3]新ビジネスの創出を柱として「雇用機会の拡大」を図ることで経済再生・産業活力づくり--を目標としている(図1)。

こうした目標の実現に向け、市は人材の育成、地域資源の発掘、場の提供を積極的に行った。

人材の育成と場の提供
1. 異業種交流による「のと・七尾人間塾」を実施している。産学民官の連携によって参加者の自己改革、ひいては企業改革を実現するためのリーダーを育てるのが狙いである。近藤教授の指導の下、平成17年〜21 年度で124 名の塾生が卒業した。現在、卒業した塾生でつくる「錬金塾」を舞台にネットワークが広がりつつある。
2. 平成19 年度、女性に特化した実践的な起業塾として「のと・七尾女性起業塾」を開講した。経済再生戦略会議のアドバイザーであり、自らも起業家である萩原扶美子さんのコーディネートにより、家事・育児や介護の両立をしながら、自分1 人でビジネスを始める自己雇用等の実現を支援するものである。平成21 年度までの3 年間で58 名の女性が卒業。4 人の女性が起業している。
3. 平成21 年に創設した「七尾市に輝きを創る会」は、産学民官の連携を進めながら、市内の優れた資源や技術を掘り起こし、新たな「たから」を創り出すことを目標としている。これは、七尾市に本店を構える、のと共栄信用金庫の大林重治理事長の発案によるもの。官と民の「垣根を低くする」ことにより、七尾市を活性化させようとするもので、5 年間の継続を目指している。
4. 厚生労働省の支援事業である「雇用パッケージ事業(地域提案型雇用創造促進事業)」を実施した。食・温泉・医療(福祉)の連携による新たな雇用創出を狙いに、情報発信や能力開発セミナー、研修会などを開催した。平成18 〜20 年度の3 年間実施し、413人の雇用を創出した。この事業を実施するに当たり七尾市地域雇用創出協議会を創設したが、協議会事務局長の竹田伸一郎氏が、平成22 年3月から県と市の空き店舗対策事業を活用し、市内の商店街でお店を開くことになった。不思議な縁である。
地域資源の活用と場の提供
1.


写真1 のと・七尾再生祭り

異業種交流を進め、域内の既存産業の活性化と新しいビジネスの創出を目的として、「のと・七尾再生祭り(写真1)」を平成18 年から開催してきた。毎年、40 前後の企業からのブースの出展があり、企業の個別相談会などを実施している。今年度は総務省からの交付金を活用し、「食」をテーマに農商工連携に重点を置く。この祭りは、地域の企業を広く市民・産業界に紹介する「場」を提供するものである。
2. 前述の雇用パッケージ事業をきっかけに、着地型体験・交流プログラムを一定期間内に多数開催する能登旨美オンパク「うまみん」を実施している。民間の方々が中心となって委員会を設置し運営している。その内容は [1]能登の豊かな食を味わう、美しい自然の中で遊ぶ、温泉やエステできれいになる [2]ゆったりとした時間を過ごす、独特の生活文化を体験する、交流を通して心から癒される--である。地域にあるさまざまな資源を活かすことにより、地域が元気になり、担い手となる人々の輪が広がり、新ビジネスへとつながることが期待される。
3.


図2 七尾の売れる商品づくり事業

地域資源がたくさんあっても、それを活用して商品につなげ、売れなければ何の意味もない。特に「販路開拓」が半島の小さな都市には大きな壁となっている。そこで、物・人・金をうまく使い、商品開発と販路開拓を進めていく「七尾の売れる商品創り事業」(図2)をこの4 月から実施することにした。いしかわ産業化資源活用推進ファンドを活用するものであるが、そのファンドの採択を受けるため市の単独事業として「産業化資源事業化可能性調査事業」を予算化し、活性化ファンド採択の支援を行うこととした。

商品の発表の場として、のと・七尾再生祭り、元気な人のネットワークとして、のと・七尾人間塾、女性起業塾、七尾に輝きを創る会のメンバーなどとのコラボレーションが可能となる。このスキームの実行の中心となる人を「七尾市販路開拓推進員」として雇用し、商品づくりや首都圏等への売り込みにかかわってもらうこととしている。

分かったこと

この5 年間取り組んできたことは、市として初めてのことばかりであった。産業界、大学、経済界・企業家、国・県の職員と、たくさんの方と出会い、教えていただいた。「企業は人なり、経営は人なり」と言われるが、まさにその通りであると痛感した。

次にやること

昨年から今年にかけ、市の大事な企業が閉鎖、撤退に追い込まれている。6 年目以降も、「人材育成」「地域資源」「場」を基本に、内発的産業の育成、外部資本の誘致、新ビジネスの創出に取り組んでいく。

おわりに

「自治体の活性化は、その自治体の職員が元気にならなければ、実現できない」と、よく言われる。市の経済再生に取り組んできたこの5 年間、かかわってきた当課の職員の成長が感じられる。近藤教授が言われる「自分事」「改革実践」「宣言する」を少しであるが実行できるようになり、当課の人間力が増してきたと確信している。これからも全力を挙げて市の産業活性化に頑張ることを宣言し、結びとする。