2010年4月号
連載  - ニュービジネス創出・育成に向けた銀行界の役割
第1回
関係者からの銀行への期待

全国銀行協会 金融調査部





全国銀行協会では、2009年12月「ニュービジネスの創出・育成に向けた産学官連携と銀行界が果たすべき役割」と題するレポートを公表した。今後の経済成長に必要なニュービジネスの育成等のためには、金融機関としても、これまで以上に産学官連携を支援する取り組みを推進することが重要であるとの認識のもと、今後の金融機関のかかわり方などについて提言を行っている。これから5回の連載で、銀行の取り組み状況や今回の提言を中心にレポートの内容を紹介する。第1回目は、レポート作成の趣旨とヒアリング調査先からコメントのあった銀行に対する期待等を見ることとしたい。

全国銀行協会(全銀協)では、毎年度、政策提言のテーマを設定し、レポートの作成・公表を行っている*1。2009年度は、テーマを「ニュービジネスの創出・育成に向けた産学官連携と銀行界が果たすべき役割」とし、今後の経済成長の礎となるニュービジネスの創出・育成に向けた産学官連携に係る課題等を踏まえ、資金供給に限定しない幅広い多様な金融機関の関与の在り方などを展望することとした。レポートの作成にあたっては、文献等による調査のほか、産学官連携に係る主要な関係者(経済産業省、文部科学省、科学技術振興機構、東京大学および三菱東京UFJ銀行)にヒアリング調査を実施するとともに、全銀協の正会員126行にアンケートを実施し、昨年12 月にレポートを取りまとめ公表した*2

本稿では5 回にわたり、レポートに基づいて、関係者へのヒアリング調査や銀行へのアンケート結果等から、銀行の取り組み状況、問題意識および課題等を見た上で、今後、産学官連携において果たすべき銀行(界)の役割についての提言を紹介することとしたい。

レポート作成の趣旨

わが国の成長戦略を展望すると、新たな技術の種を創生する大学等の研究機関、将来の経済成長の糧となる研究開発投資を行う企業、国際競争力を強化し、持続的な経済成長の実現を目指して諸施策を行う政府の3者が、それぞれのポジションにおいて、中長期的な視点で継続的な取り組みを行うことが不可欠である。また、これらの産学官の連携により、それぞれの取り組みが一層効果的に成果を挙げることが期待される。

現在、産学官が連携してニュービジネスを創出・育成していこうという意識は広く浸透し、積極的な取り組みが行われている。例えば、環境関連ビジネスやナノテクノロジーなど、わが国が持つ産業・技術の強みを活かしたニュービジネスを創出・育成していくことが非常に重要である。また、中小企業が抱える技術的な課題を学・官の協力を得て解決していくことなども、1つの取り組みである。こうした課題解決が広く行われれば、大きなビジネスに転じることも十分に考えられ、わが国経済全体の底上げにも寄与するものと考える。

一方で、わが国経済は持ち直しの動きを続けており、先行きは不透明ながらも緩やかな回復傾向にあると考えられるところであるが、民間部門の研究開発投資や国の科学技術政策の動向については注視する必要がある。これらの企業・政府の動きは、持続的なイノベーションに向けた今後の取り組みに影響する可能性もある。

このような状況においては、産・学・官といったメインプレーヤーの取り組みに加え、銀行の持つ仲介機能を通じた支援も、今後の産学官連携においては重要な役割を担っていくものと考えられる。銀行は、足元の経済情勢を踏まえ中小企業向けの金融円滑化に最大限努力しているところではあるが、将来わが国経済の支えとなるビジネスの創出・育成を見据えて、産学官連携に取り組むことも銀行界に期待されている役割であると認識している。

産学官連携の関係者からの銀行への期待

産学官連携におけるわが国の取り組みの全体を俯瞰(ふかん)するとともに、産学官連携の主要な関係者が連携の中で金融機関をどのような主体として見ているかを把握することなどを目的として、ヒアリング調査を実施した。前者については、レポートの第1章において「産学官連携に係る基本的な枠組み」「関係省庁の取組み」「政府関係機関等の取組み」「大学等の取組み」「コーディネーターと『目利き』」「経済団体等の取組み」として整理している(この点についてはレポートを参照いただきたい。なお、銀行の取り組みと関係のある金融庁の施策は表1)。後者は、第2章の「わが国の銀行における産学官連携の取組みの現状」において、「産学官連携の関係者からの銀行への期待」として整理している。

表1 産学官連携に係る金融庁の施策

*3


産学官連携の関係者へのヒアリング調査の中で、「銀行の役割をどう考えるか」等について質問を行った。回答の概要は表2のとおりであり、「産と学との仲介」「資金提供」「技術評価」等に大きく分けることができる。銀行は企業との日常的な取引関係の中で情報の蓄積があるため「産と学の仲介」という観点から、銀行が産と学とを直接つなぐこと、連携の諸施策を企業に紹介することなどについて、強い期待が見られた。一方、金融支援の面(資金提供)や技術の「目利き」については、研究資金の供給には漠然とした期待はあるものの、技術評価の実施も含め銀行の業務の性格からみて、あまり親和性がないとの認識が示された。また、金融機関の強みとして [1]「産」の動向を把握している [2]地方の景気動向を把握している [3]事業に対する投資判断ができる、ことなどが挙げられ、産学官の各プレーヤーが知りたい情報を持っているという指摘もあり、これらを活かした役割を果たすことへの期待が見られた。

表2 ヒアリング調査において示された銀行への期待(主なもの)

次回は、銀行の取り組み状況について、銀行へのアンケート結果に沿って見ていくこととしたい。

*1
全銀協では、2008年度は「金融業における環境事業活動の現状と銀行に期待される役割」(http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news210225_1.pdf)、2007年度は「金融経済教育の一層の充実に向けて」(http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news200229_1.pdf)と題するレポートを公表。

*2
レポートは、http://www.zenginkyo.or.jp/news/2009/12/25150001.htmlを参照。

*3
地域金融については、「活力ある地域社会の実現を目指し、競争的環境の下で地域の再生・活性化、地域における起業支援など中小企業金融の円滑化及び中小・地域金融機関の経営力強化を促す観点から、関係省庁との連携及び財務局の機能の活用を図りつつ、地域密着型金融の一層の推進を図る」とされている。