2010年5月号
特集  - 高専 新時代
仙台高等専門学校
立体配置LED 光源を用いた農産物の育成と産学官連携
顔写真

羽賀 浩一 Profile
(はが・こういち)

仙台高等専門学校 広瀬キャンパス 地域イノベーションセンター 研究担当副校長


情報、通信、半導体、ロボットなどのIT(Information Technology)技術に特化した仙台高等専門学校 広瀬キャンパスイノベーションセンターでは、独自に開発した立体配置発光ダイオード(LED)光源による農産物の育成を産学連携で進めている。仙台市に拠点がある東北地域新規事業化支援センター(東経連事業化センター)の積極的なコーディネーションにより、本校と仙台近郊のLEDアセンブリー企業および名取市にある宮城県農業・園芸総合研究所が連携し、新規なLED光源による付加価値の高い農産物の育成に着手しようとしている。

近年、全国規模で植物工場=野菜工場(都市農場)設置の動きが活発化してきており、経済産業省も2011 年までに50 カ所ある野菜工場を3倍の150 カ所に増やす計画を発表している。この背景には、農業従事者の高齢化による農産物自給率の低下、安全・安心な農産物を得るための画一的なトレーサビリティの検証がある。都市近郊あるいは市街地に設置した野菜工場はこれらの重要課題を解決できる救世主になると言われている。

仙台地域でも2009 年の12 月から2 カ月間の限定であったが、市内のアーケード街の空き店舗を利用し、企業と経済産業省が連携して野菜工場モデルハウスの展示が行われていた。また、仙台から30km ほど南下した白石地区でも野菜工場によるハーブの栽培が進められている。

植物工場が持つ多くの課題

植物工場には、[1]日照条件や悪天候に左右されない安定供給による定価格化 [2]生産地が確定した高い安全性(トレーサビリティ) [3]病害虫が介在しないクリーン環境(無農薬) [4]生育環境制御による高効率生産、など幾つかの利点がある。また、経験が重視される古来の農法に比べ、マニュアルを準備すれば農業知識を持たない若年層を雇用することも可能となり、農業従事者の高齢化に歯止めがかかる。

これに相対して、[5]高額な設置費用と運営コスト [6]栽培品種の制限 [7]環境制御の新規なノウハウ [8]植物工場における食の安全管理、が大きな課題としてのしかかる。[5]では、同レベルのハウス栽培に比べて設置コストが17 倍、運営コスト(特に電気料金)が47 倍にも増加する。

植物工場を成功させるには、光源の低電力化による運営コストの低減、高付加価値な野菜の選定が重要となる。前者の低電力化についてはLED光源を用いることにより従来の蛍光灯の60%程度まで電力が低減できる。高付加価値野菜の選定については、植物工場でなければできない市場性の高いオンリーワン野菜を実現できればすべてが解決するが、それを見いだすには植物工場の歴史がまだ浅い。

課題解決の糸口

IT に特化した本校が有するLED 光源の制御技術は高く評価されているものの、農工連携における利用法については不明な点が多く、JST(科学技術振興機構)のコーディネータとの打ち合わせにおいては、LED 光源の電力コストを相殺できる高付加価値な活用方法を見いだすことが重要であるとの指摘を受けていた。半年前から、本校のシーズ技術である植物工場に適した立体配置LED 光源を事業化したいという提案が仙台市近郊にあるLEDのアセンブリー会社から持ち込まれていた。仙台市にある東経連事業化センターに勤務するコーディネータに高付加価値な活用方法を相談したところ、名取市にある農業・園芸総合研究所を紹介された。何度か足を運ぶうちに農業の専門家たちによるアドバイスと共同研究の提案を受け、本研究の事業化への可能性を見いだすことができた。

LED光源が持つ研究課題と今後の展望

植物工場へのLED 光源の利用は蛍光灯の代替技術にすぎず、残された研究課題は植物工場システム全体のプロセス制御のみというのが多数派の見解である。しかし、発光スペクトルが非常に狭い単色光のLED 光源を野菜の育苗に利用すると、発芽後に今まで経験したことのない不思議な現象に直面する。写真1 は黄色(左)、赤色(右)のLED を照射し続け、播種5 日後に撮影したチンゲンサイ苗の写真である。すべての苗が光源を回避する行動を取っていることが分かる。さらに5 日経過すると黄色LED の照射苗は光源の方向を向き始めるが、赤色LEDの照射苗は回避行動を続ける。


写真1 播種5日後のチンゲンサイ苗の回避行動
黄色LED照明(左)と赤色LED照明(右)

また、写真2 のようにLED 光源を立体配置することにより発芽苗の徒長が抑制されることも明らかとなった。これらの結果から、発芽苗には発光スペクトルが狭い人工光を太陽光と区別する記憶が組み込まれていると推論せざるを得ない。以上のように、野菜等の農産物へのLED光源の利用はいまだに解明されていない部分も多く、農工連携で取り組むべき重要な研究課題と認識している。



写真2 立体配置LED光源と発芽苗の様子

今回お世話になった東経連事業化センターに勤務するコーディネータの方々は、工業ばかりでなく農業や漁業分野の知識も豊富で、その分野に精通する研究者とのパイプも太い。工業分野の産学連携という狭い領域のみで行動してきたわれわれにとっては、農業という異分野の研究者との連携で今後の研究の幅を広げるための重要なシーズを頂いたものと感謝している次第である。

最後に、現在の植物工場は多くの課題を抱えているが、地球温暖化という気候変動に直面している人類にとっては、近い将来必ず必要となる技術であると認識して農工連携を推し進めていく所存である。