2010年6月号
単発記事
緑豊かな地球への回帰に挑む
~コケのチカラが都市の砂漠化を救う~
顔写真

山下 和貴 Profile
(やました・かずたか)

株式会社ヴァロール 代表取締役社長



苔(コケ)の一種、スナゴケの建築物の人工緑化用植物としての高い適性に着目し、その人工培養技術を実用化している大阪府立大学発ベンチャー企業がある。ビルの屋上などに利用できる緑化ユニットとして販売している。



写真1 屋上緑化(当社施工例)

当社は、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の村瀬治比古教授(当社取締役)により、2004 年4 月に設立された大学発ベンチャーである。既存の人工緑化植物(芝・セダム等)の抱える課題を解消し得る“コケのチカラ”をもって都市を冷やすことで「ヒートアイランド現象の緩和に貢献する」ことを目指している。これまで続けてきた研究開発の成果に息吹を与える形で、ついにスナゴケの人工培養技術を実用化。開発した緑化ユニット「COOL MOSS:クールモス」で、商業・オフィスビルや工場などさまざまな用途に対応した本格的な事業展開を進めている(写真1)。

緑のネットワーク形成

近年の目覚しい経済成長は、人類に多大な経済的利益をもたらす一方、豊沃(ほうよく)な大地と緑の空間を瞬く間に奪い、都市の風景を無味乾燥なコンクリートジャングルに変貌(へんぼう)せしめた。その代償として地球温暖化や生物多様性喪失など、さまざまな環境問題に直面しており、特に都市圏においては、ヒートアイランドのように局地的な異常気象が発生するなど、その影響たるやますます深刻さを増している。そこで、地球市民たるわれわれには、「人と自然の調和」を視野に入れた「環境共生都市」への回帰が求められている。その実現に向けては、行政・企業・市民が緊密な連携を図り、「緑のネットワーク」を形成していく必要がある。

屋上緑化の効果

環境緑化は、地上緑化と建造物緑化とに大別されるが、景観緑三法(工場立地法等)により、一定規模の敷地に対する緑化義務が法的に強化される中、特に大都市圏の施設等では、地上だけで緑地面積を確保することが極めて困難な状況となっている。緑地の増進は植物の光合成活動によるCO2固定にとどまらず、多様な環境改善効果をもたらすものであり、その代表的な導入効果の体系を示す(表1)。



表1 屋上緑化の効果(出典:国土交通省)

スナゴケの特徴

写真2  エゾスナゴケ
(Rhacomitrim canescens brid)

当社が緑化用途に採用しているスナゴケ(砂苔)とは、キボウシゴケ科シモフリゴケ属に分類され、日射量の豊かな砂地や岩面に群落を形成する。水分を含むと茎葉体が広がって鮮やかな緑となり、蒸散するとそれを上方に巻き込んで耐乾燥性を高める。このように保水状態に即して形状を変えることができる能力が、乾燥しやすい立地における生育を可能にしていると言える(写真2)。

すなわち、耐乾燥性と好日性に優れた特徴を持っており、これが、植物の用途としてはとりわけ過酷とされる建造物緑化に利用されるケースが飛躍的に増加しているゆえんである。

また、根がなく土壌が不要であることから、大幅な軽量化につながっており、これまでの屋上・壁面緑化マーケットに新たな地平を拓くものとなっている。

コアコンピタンス

自然環境において需要に応えるべく増産を進めるには、大規模圃場等が不可欠となるが、コケ育成には数年という長い年月がかかる上、気候の影響により収穫量が安定しない等の課題を抱えていた。そこで、当社は、研究開発を進めながら、事業の根幹を成すコケの高速大量培養技術(特許登録済み)を磨いてきた。

当社は、閉鎖系生産ならではのメリットを生かし、次のような優位性を形成するに至っている。

1. 生産期間をわずか4 カ月に短縮している
2. 品質管理の要諦(ようてい)であるバラツキ抑制を実現している

この技術優位をマーケティングにおける最大の武器として需要開発に努めており、本年度において、既に生産能力をしのぐ受注を獲得している。

それを見越して、今夏より生産能力を5 倍に高めた新工場を稼働させることになっているが、これは遊休施設を抱える企業に対してプラントを販売することによる委託生産方式を採っているところに大きな特徴がある。

事業展望

表2 屋上・壁面緑化の需要予測
(出典:矢野経済研究所)

建造物緑化分野の市場規模は、大手調査機関のマーケットリポートによると、年間500 億円前後と推計されている。また、昨今の環境トレンドから注目を集めているマーケットであり、将来性が大変豊かな分野とされて いる(表2)。

当社は、地球温暖化という社会問題の解決に貢献することを事業コンセプトに高らかに掲げ、生産能力を凌駕(りょうが)する潜在需要の顕在化に精力を傾けた上で、その実現のために「植物工場」をもって他社の遊休施設の再生にもつなげるというアプローチで、一定の採算性の確保に成果を上げている。

今後も、さまざまな連携を通じて生み出すスナゴケ緑化ユニット「COOL MOSS」の普及をもって、「緑豊かな地球への回帰」に貢献できれば、これに優る喜びはない。

●参考文献

山下和貴.STOP THE 温暖 化!~“緑豊かな地球への回帰” に挑む植物工場.SHITAシンポジウム2010.

山下和貴. 高収益LED植物工場の可能性.農業情報学会2009年度研究発表会.

Jai-Eok PARK; Kazutaka YAMASHITA; Haruhiko MURASE. Study of effectivelighting methods for Sunagoke moss culture. JSABBES conference in Fukuoka,2009.