2010年6月号
単発記事
「天文台のあるまち」三鷹からの発信 ~人財育成で科学を文化に~

大朝 摂子 Profile
(おおあさ・せつこ)

三鷹市企画部企画経営課 副主幹
NPO法人三鷹ネットワーク大学 推進機構 事務局次長

東京都三鷹市が地域の大学・研究機関と連携して開いている市民講座は、市民=人財育成の場である。その1つ、市内にある国立天文台との協働では、科学映像クリエータ、科学プロデューサを養成している。これまでに計63人が修了し、地域のさまざまなイベントの企画・運営に携わっている。目指しているのは「科学を地域の文化に」だ。

三鷹ネットワーク大学とは?

写真1  三鷹ネットワーク大学
(上)外観、(中)教室、
(下)ラウンジ

三鷹ネットワーク大学は、国立天文台や国際基督教大学をはじめとする15 の教育・研究機関と三鷹市がNPO 法人を設立して運営する「新しい地域の大学」であり、「民学産公」協働の取り組みである(写真1)。

2009 年度の実績では、1 年間で148 件591 コマ(1 コマは1.5 時間)の講座等を企画・実施し、延べ1 万1,000 人を超える人々が参加している。受講者アンケートによる講座の満足度は平均で85%。2010 年3 月末現在で約4,600 人の登録受講者は、20 代以下13.1%、30 代18.2%、40 代20.4%、50 代15.3%、60 代15.8%、70 歳以上10.0%(無回答1.9%)と、各年齢層にバランスが取れた年齢構成となっていることに特徴がある。

受講者登録時に、関心がある分野についてアンケートを行っているが、約28%が「天文学」を選択している。また、上記148件591コマのうち、61 件(約41.2%)92 コマ(約15.6%)が天文学や数学、物理学や生物学などのサイエンス系講座である。特に、国立天文台と協力して開催している「星のソムリエみたか・星空案内人養成講座」や「アストロノミー・パブ」など、市民と研究者がかかわりを持ちながら展開する講座は、市民“人財” 育成のための、新たな形式の学びである。

国立天文台「宇宙映像利用による科学文化形成ユニット」で進める人財養成

教育・研究機関の最先端の知を地域社会に生かす試みとしては、国立天文台との協働が典型的な例と言えるだろう。三鷹市は2007 年7月から、国立天文台の科学技術振興調整費「宇宙映像利用による科学文化形成ユニット」(科学文化形成ユニット)を連携自治体として支援し、その採択に合わせて、地域再生計画「科学技術・科学文化によるまちづくり・ひとづくりプロジェクト」を内閣府に提出して取り組んでいる。前述の「星空案内人養成講座」等での人財育成はこの地域再生計画の一環であり、「天文台のあるまち三鷹」として、「科学文化でまちづくり」を目指す三鷹市の、未来に向けた取り組みである。

「科学映像クリエータ」「科学プロデューサ」の養成

「科学文化形成ユニット」で養成される人財は、「科学映像クリエータ」と「科学プロデューサ」の2 種類がある。「科学映像クリエータ養成コース」では、国立天文台の特徴的な知財である豊富な宇宙コンテンツを使った映像制作を行える人財として10 回程度の座学と3 カ月間の修了制作が課されるプログラムである。また、「科学プロデューサ養成コース」は主に、宇宙映像に関するさまざまなニーズに対応し、実際に契約や導入支援等を含めた営業要員としての活動が可能になることを習得すべきスキルとして設定している。科学プロデューサとしての基礎知識を習得する「科学プロデューサ入門」と営業や起業の基礎を学ぶ「SOHO起業講座」の両講座を17 週間にわたって履修するほか、ビジネスプランの作成や実習が課せられるプログラムである。

2009 年度末の段階で、科学映像クリエータは2 期18 人が、また科学プロデューサは5 期45 人の計63 人が修了している(表1)。科学映像クリエータでは、プラネタリウム番組の映像を手掛けたり、科学関連のウェブや冊子のデザインを担当するなど、作品を発表する機会が増えつつある。また科学プロデューサは、国立天文台が主体となって開催している「東京国際科学フェスティバル」や、フェスティバルに協力して2009 年度から開催している「三鷹の森 科学文化祭」の中で、さまざまなイベントの企画・運営に携わるなど、活動が芽生え始めている。



表1 科学文化形成ユニット修了生実績等

三鷹市が目指すもの

三鷹市自治基本条例では市民の定義を「市内に住み、又は市内で働き、学び、若しくは活動する人」としている。地域再生計画での人財育成で養成された人財には、養成修了後も「在活市民」として、三鷹市に深くかかわって活動することが望まれている。地域社会と一般市民が「科学文化形成ユニット」修了生に求める要素は、科学を正しく理解しているだけではなく、分かりやすく伝えることができる人財であり、自分たちが活動するだけではなく市民や地域の産業界の活動を支えることができる人財であり、科学を「専門家のため」だけではなく「市民/地域社会のため」のものにできる人財である。



写真2 みたか太陽系ウォークマップ

昨年度から始まった「三鷹の森 科学文化祭」のメーンイベント「みたか太陽系ウォーク」は、三鷹市の地図に13 億分の1 に縮尺した太陽系の軌道図を乗せたマップを使い、商店会等の協力のもと、各惑星等のエリアに分かれた店舗を巡りながら、太陽系の大きさを実感するスタンプラリーである(写真2)。三鷹市と三鷹ネットワーク大学の共催で開催したこのイベントの企画やマップ等の制作には、複数の修了生がかかわり、地域ニーズに合わせた科学文化の醸成に一役買っている。彼らの活動はまだ芽吹いたばかりだが、三鷹という土壌にしっかり根を下ろし花を咲かせ、果実を実らせる活動へと育ってもらいたいと願っている。