2010年6月号
産学官エッセイ
高齢化日本一の村から さわやかな“高周波”の風
顔写真

市川 古都美 Profile
(いちかわ・ことみ)

アイラボラトリー



高周波回路の受託設計・開発などを行うアイラボラトリーの拠点は群馬県南牧村。「高齢化率日本一」の同村から、元気でさわやかな声を贈ります。

人口2,700人の群馬県南牧村

私が住んでいる南牧村(なんもくむら)は、群馬県の南西部に位置する人口2,700 人ほどの小さな村です。面積の約90%が森林で自然に恵まれたとても良い環境です(写真1) 。私が現在の夫と一緒になるために一大決心をして東京から南牧村に移ったのは平成15 年の秋、ちょうどそのころにモスラのようなガが異常発生してとても怖かったのを覚えています。その2 年 後、平成17 年の国勢調査で三重県紀和町と並び「高齢化率日本一」となりました(高齢化率53.4%)。現在では高齢化がさらに進み、65 歳以上が人口の56.49%(平成21 年4 月1 日現在)です。



写真1 南牧村

夫婦で二人三脚

夫は平成11 年に、生まれ育った南牧村 で事業を始めました。屋号はアイラボラトリー*1。業務内容は高周波回路*2の受託設計・開発です。

最初は6 畳のプレハブ2 棟。1 つは事務所、もう一方を実験室として使っていたようです。畑の真ん中にあるその2 棟のプレハブ小屋は夏は暑く冬は寒かったと聞きました。40歳を目前にした夫には大変過酷な職場であったに違いありません。私が南牧村に来る少し前に事務所が新しく建てられ、広く快適な環境になっていたのは本当に良かったと思います。私自身も東京では高周波回路の仕事に携わっていたので、夫の助手としてすぐに二人三脚で仕事をする ことができました。

群馬アナログカレッジでの出会い


写真2 高周波回路講座の座学風景

その後、アイラボラトリーでは受託設計・開発以外にも高周波回路に関係するコンサルティング、講演、執筆などさまざまな活動をするようになりました。産学官連携によるアナログ技術人材育成事業における活動もその1 つです。平成17、18 年度、群馬県、群馬大学、産業界によるコンソーシアムが、経済産業省の産学連携製造中核人材育成事業を活用してアナログ技術人材育成に取り組みました。その成果を引き継ぎ、19 年度からは県が群馬大学、産業界と連携して同技術者育成の講座「群馬アナログカレッジ*3」を実施してきました。私たちは平成17 年度のカリキュラム開発にかかわり、18 .21 年度の講座では夫が講師として、私は実習の助手として参加をさせていただきました(写真2)。

実習を通じて受講生同士の絆(きずな)も深まり、講座終了後には自然と修了生と講師のネットワーク*4もでき、定期的に交流会を開催するまでになっています。

第1 回の講座の修了生である小山誠氏を中心に、今では友人・知人の技術者も参加するようになりました。交流会を重ねるごとに参加者も少しずつ増え、毎回新しい出会いがあります。私はここ数年のいろいろな人との出会いに多くの刺激を受け、新しい活動を始めました。1 つは、尊敬する技術者にインタビューをしてウェブ上に掲載すること。もう1つは、昨年から当社のホームページ上で教材の販売を始め、売り上げの5%を群馬県内の児童養護施設などに寄付をすることにしました。年齢や立場の異なる人たちと接することで、新しいアイデアが生まれるのだと実感しました。やりたいと思ったことをすぐに実行できるのも個人事業の良いところです。

群馬大学ではアナログカレッジの経験をもとに、アナログナレッジ養成拠点*5としての新しい活動も行っています。アナログ回路はキーの技術であるにもかかわらず、日本では技術者の絶対数が不足していると言われています。当社が得意としている高周波回路もアナログ回路の一部です。このような人材育成活動から、多くの優秀なアナログ技術者が日本で活躍する日が訪れるかも知れません。

家族を感じながら仕事をするということ

事務所から歩いてすぐのところに夫の実家が、その目と鼻の先には弟家族の家があります。息子が生まれたばかりのころ、事務所の片隅に寝ている息子の顔を見ながら仕事をしていました。息子が成長してからは、仕事で忙しいときには夫の母に息子の子守をお願いしています。事務所の窓からふと外を見ると、近くの畑で母が採れたてのトマトを息子に食べさせているところや、息子がシャベルで土を掘っている姿を見ることがあります。天気の良い日はそこに近所の人も集まり、畑の周りで井戸端会議に花を咲かせます。雪の日には息子がめいっ子たちと一緒に雪だるまを作っていました。事務所の窓から見えるいろいろな風景、のんびりとした良い環境で仕事をさせていただいているなと、日々家族に感謝しています。


群馬アナログカレッジの募集人数は各講座 とも15 名。企業に入社して3 〜10 年程度 の中堅電子回路技術者が対象です。高周波 回路の基礎理論と各種回路の基礎知識につ いて座学で学んだ後、各種高周波回路(ス イッチ、アンプ、フィルタ、ミキサ、検波 回路、発振回路)の設計、実装、調整、評 価を受講生各自がすべて1 人で行います。 高周波回路への理解を深め、現象を論理的 に理解することで受講生の実務能力が高ま ります。

*1 :アイラボラトリー
http://www1.sphere.ne.jp/i-lab/

*2
高周波とは一般的に周波数の高い振動や波動を言い、この周波数帯の回路を高周波回路と呼ぶ。携帯電話、GPS、無線LAN、キーレスエントリーシステムなど、電波を利用したさまざまなシステムの中に高周波回路が組み込まれている。

*3
群馬大学が運営委託を受けて各種講座を実施。
URL:http://www.el.gunma-u.ac.jp/gain/

*4 :アナログエンジニアネットワーク
URL:http://www.el.gunma-u.ac.jp/gain/analogen/

*5 :群馬大学では、平成21年度文部科学省科学技術振興調整費の支援を受け、「デジタルを活かすアナログナレッジ養成拠点」を立ち上げ、群馬大学が実施機関となり、今後幅広い分野のアナログ技術者に向けた人材養成を実施。
URL:http://cs3.el.gunma-u.ac.jp/AnalogKnowledge/