2010年6月号
編集後記

新薬開発の分野でもオープンイノベーションが日常語になりつつあるようだ。 基盤となる特許を軸に自己完結型の研究開発が進められてきたこの世界にも、新 しい波が押し寄せてきたことは確かだ。その背景には、製薬会社の新薬創出力が 限界に達していることが挙げられる。米国FDAの新薬承認件数を見れば、2004 年以降、ベンチャーのシーズに由来する新薬が製薬会社のそれを上回り、この傾 向は今も続いている。日本では、ベンチャーが製薬会社に大きく水をあけられて いるようだが、それでもここ数年、大手製薬会社にベンチャーやアカデミアの シーズを囲い込む動きが見られる。このような機運が、アカデミアに潜むシーズ を掘り起こし、社会還元を後押しする力になることを期待している。

(編集委員・谷田 清一)


発明と発見、どちらが由緒正しい言葉かご存じだろうか。発明という言葉は、 芭蕉の弟子向井去来の書にあるそうだから、1700年ころには日本語にあった。 一方の発見は、森鴎外の『大発見』があるので1900年あたり。実に200年の差が ある。今の日本では、発見の方が尊ばれ、発明は実用・応用として低く見られて いる感なきにしもあらず。しかし、しょせん発見は存在するものを見つけること。 一方の発明はこの世に存在しないものをつくることだから、価値は決して低くな い。先日、東京大学工学部の教授が「存在しないモノをつくろうとしているのに、 申請書がなかなか理解してもらえない」と嘆いていた。つくることと物事を明ら かにすることは明白に異なる。産官学連携も、創造=発明に近い行為であること を再確認したい。

(編集委員・松尾 義之)


今月号の特集では正面から取り上げていないが、介護・福祉はライフイノベー ションの柱の1つである。「高齢社会で有望な市場」「補助金が見込める」としてこ の分野に参入する異業種企業が少なくない。しかし、介護・福祉は労働集約型産 業であり、従来のビジネスモデルが通用するのかどうか。市場経済を超えた領域 で取り組まなければならない課題も多い。NPO、市民の活動にも期待がかかる。 教育、子育て、あるいは地域の環境対策なども同様だ。これまでの「産・学・官 プラス民の連携」という枠組みでとらえ切れなくなっているのではないだろうか。 研究者の研究成果は小さくないと思うが、今後、大学の産学連携部門がこうした 地域連携にどうかかわり、大学の「知」の役割をどう可視化していくのか。課題は 大きい。

(編集長・登坂 和洋)