2010年7月号
連載2  - ニュービジネス創出・育成に向けた銀行界の役割
第4回
産学官連携にかかわる銀行界の今後の取り組み

全国銀行協会 金融調査部





今回のレポートでは、全国銀行協会(全銀協)で実施した産学官連携にかかわる会員銀 行向けアンケートの結果等(第2 回、第3 回連載で紹介)を基に、銀行界の今後の取り組 みとして、4 点の提言を行っている。連載第4 回目では、提言に当たっての基本的な考 え方と4 点の提言のうち2 点を紹介する。

基本的な考え方

わが国の産学官連携は、1996年に科学技術基本計画が策定されて以降、 2005年の国立大学等の法人化などの環境変化もあり、政府、大学および産業 界の取り組みによって、そのプラットフォームは年々整備され、実績も着実に 増加してきた。この間、銀行においては、リレーションシップバンキングの推 進等も契機となり、産学官連携の取り組みへの参画が本格化している。

このような中、産学官連携の関係者へのヒアリングによれば、銀行への期待 として、「連携への参加による求心力・シナジー効果が発生すること」「中小企 業(経営者)への接点を活かすこと」など、「産」と「学」の間の連携の線を太くす るような役割が挙げられている。

一方、「事業化の前段階での資金供給」や「技術評価(目利き)」は、銀行によ る間接金融の世界では扱いにくいとの指摘もある。

また、銀行の取り組みの現状と課題に対する認識について、会員銀行へのア ンケート結果により概観した。

現状、多くの銀行で、組織体制や運営方針の整備が行われ、「産」と「学」それ ぞれと取引関係にあるメリットを活かして、連携のきっかけづくりを担うほ か、投資・融資面でのサポートを行うケースもあるなど、技術革新や地域活性 化等を目的として多様な取り組みが、各銀行で独自に展開されている。取り組 みの現状を踏まえ、さらなる連携のすそ野を拡大する観点から、自ら学との連 携の道を拓くのが容易でない中堅・中小企業の連携支援にフォーカスすること が重要である。

銀行の目から見た産学官連携の課題については、「企業のニーズが分かりづら い」「大学のシーズが分かりづらい」との実態の指摘があった。このことは、「産」 と「学」が、より相手の立場に立って情報発信を行う重要性を示唆していると ともに、両者の接点を補強する仲介の必要性がうかがえる。「専門的技術や当 該技術の事業価値を評価している者が不足している」との指摘もあり、連携に おいて、いわゆる「目利き」を通じて第三者が両者をつなぐ役割を果たすこと が求められていることの表れととらえられる。「共同研究後の事業化が難しい」 との指摘については、その原因は、今回のアンケートでは明らかでないが、一 般的には、市場性の見極めや資金調達の困難性にあると言われており、この点 も課題となっている。

このような現状を踏まえた銀行の役割認識を整理すると、「産」と「学」の仲介 や資金調達面での取り組みの推進が、連携促進や成果につなげる鍵となってい る。銀行へのアンケートでも、「産」と「学」の仲介や金融面の支援が、「銀行に期待されること」と「銀行が対応できること」としてそれぞれ挙げられており、 今後の銀行が果たす役割の1つの方向感を示していると言える。ただし、資金 面での支援については、既に取り組みもある中で、さらにニュービジネスの創 出・育成に向けて推進するためには、銀行単独ではなく、他者との相互補完の 中で実現することが現実的である。

レポートにおいては、将来の経済成長の礎となるニュービジネスの創出・育 成を念頭に置き、産学官連携における金融機関の関与の在り方などの展望を目 的としていることを踏まえ、上述のような現状を理解した上で、銀行の今後の 取り組みの方向性を提言することとしたい。提言に当たっては、[1]銀行の持つ 顧客ネットワーク、資金仲介・財務管理機能を活かす [2]「産」の対象としては 中堅・中小企業を主なターゲットに据える [3]「学」との接点の拡大を図る、と いう点に資することを基本的な視点としている。

産学官連携に係る銀行界の今後の取り組み(提言)
《銀行の果たす役割》
提言1:産学官連携の円滑化の支援
「産」と「学」との出会いの機会を拡大し、連携へと発展する可能性を高めるため、相 互の直接的なコミュニケーションの架け橋となるよう、連携仲介の取り組みをより 強化する。
銀行は、地域あるいは特定分野における連携支援の中核となることを目指すべきで あり、ほかの産学官連携支援機関との協力関係の構築を進めることが重要である。
セミナーや商談会などコミュニケーションの「場」を提供するほか、個々の企業の技 術ニーズをより具体的に把握し、これにマッチする大学の研究を見いだして結び付 けていく取り組みも重要(例えば、「取引先企業の技術的課題を検討・分析して大学 に関連分野の研究者を紹介してもらう」等が考えられる)。「場」の提供による経験の 蓄積等を通じて、技術ニーズの理解等に必要な知識のさらなる向上を図ることが求 められる。

銀行は企業、大学双方との取引があることから、両者をつなぐ窓口として適 当なポジションにあり、また、企業の財務情報に加え、経営方針、事業戦略、 技術ニーズなどの情報も集まるほか、大学の研究情報の入手も可能であると考 えられることから、銀行には産と学の仲介を行うこと等が期待されている。

銀行が、「産」と「学」とが集い、直接コミュニケーションを図る「場」を提供 することで、「産」、「学」それぞれが直接、自らのニーズやシーズを説明する、 あるいは自らが求めるニーズやシーズを発見できる「場」の形成が期待され、 連携の促進につながる。

銀行の提供する「場」がターゲットとする連携イメージとしては、大企業と 大学等研究機関の共同研究が目指すような高度なイノベーション型の発展を期 待するものではなく、中堅・中小企業の有する既存技術の改良・更新につなが るようなバージョンアップ型の展開を期待するものとなることが想定される。 前者の共同研究は、情報力と資金力のある大企業が個別相対的に大学との関係 を構築できるが、後者の場合には、費用対効果や効率性の面から独力での関係 構築は難しいことから、この部分を銀行がサポートする意義はあると考えられ る。

このような「場」の提供において、銀行は、地域や特定の研究分野といった 枠組みの中で連携支援の中核となることを目指すべきである。例えば、地方の 商工会議所、地元大学、連携支援機関等との協調関係を構築することが、より 拡がりのある活動に発展する可能性があると考える。

現在でも、「複数の地元大学と提携し、地場企業を招いて産学官連携の成功事例や政府等の関連施策、各大学の特色等を紹介する合同セミナーを開催す る」「取引先企業・大学・地方公共団体の3 者が参加する商談会を開催し、個別 商談のアレンジに加え、大学による技術相談を実施する」こと等が行われてお り、「場」の形成という観点から、今後、より積極的に実施することが望まれる。 これは、ファースト・コンタクトの敷居が高いなどの連携アクセスへの精神的 障壁の除去、ニーズとシーズの相互理解の促進、ミスマッチングによる非効率 の回避に資するものと考えられる。

また、科学技術振興機構などの連携推進支援機関の取り組みを、企業サイド に情報提供することも重要である。例えば、特に中堅・中小企業への連携推進 支援機関の認知度向上、パンフレット配布等による施策に関する情報提供、ア クセス窓口の紹介などを、企業側のニーズに合わせて、取引の現場で行うこと が考えられる。こうした取り組みは連携推進支援機関との協力関係の構築にも 寄与し、結果として、企業へのサポート体制の強化・連携実現の可能性向上に つながる。

さらに、個々の企業の技術ニーズをより具体的に把握し、これにマッチする 大学の研究を見いだして結び付けていく取り組みも行われており、例えば、「大 学と共同研究契約を締結し、取引先企業の技術的課題を検討・分析して当該大 学に関連分野の研究者を紹介してもらう」といったケースが見られる。これは、 連携実現の可能性を一段と高める上で有効な取り組みであり、「場」の提供によ る経験の蓄積等を通じて、技術ニーズの理解等に必要な知識のさらなる向上を 図ることも必要であろう。

提言2:起業・企業経営に資する実務情報等の提供
「学」との連携の在り方の1つとして、将来の大学発の起業の芽を育成するため、起 業や事業経営に関連する実務情報等を提供することにより、事業化を目標とした研 究の「産」とのかかわり意識を高めるよう支援を行う。
また、産学官連携においても、起業の実現に向けた構想段階において、財務面での アドバイザー的機能を果たすことも重要である。

研究者が研究成果を基に大学発ベンチャーとして起業する場合などにおいて は、起業や企業経営のための実務情報・知識(財務・税務・会計等)も必要と なる。研究者が、こうした実務情報等を持つことは、事業化を目標とした研究 において「産」とのかかわり意識(事業化に当たっての資金面など現実的な対応 を意識した研究プランづくりへの目配せ)を高める上で有用であると考えられ る。

現在、銀行による大学等での実務講座の開講実績はあるが、上記の観点か ら、より多くの研究者に実務情報等を提供するため、このような取り組みを、 「学」との連携のメニューの1 つとして位置付け、実務講座の開講等をさらに推 進することが考えられる。これにより、大学発の起業のすそ野のさらなる拡大 と研究における事業化目線の意識付けが期待できる。また、産学官連携におい ても、起業の実現に向けた構想段階において、銀行が財務面でのアドバイザー 的機能を果たすことも重要であると考えられる。

次回(最終回)は、銀行の果たす役割に関する提言3「資金提供を可能にする 新たな枠組みの構築」、および業界団体の果たす役割に関する提言4「会員銀行 が行う産学官連携の取り組みの支援」を紹介することとしたい。