2010年8月号
特集  - 地域金融・新モデル-産学金連携を探る
大阪信用金庫
企業と大阪府立大との連携をコーディネート

島崎 公伯 Profile
(しまざき・きみのり)

大阪信用金庫 貝塚支店 副支店長
(2010 年6 月まで同金庫 CSR 推進部
調査役/大阪府立大学派遣産学連携
コーディネーター)

大阪信用金庫は大阪府立大学のリエゾンオフィスに職員を常駐させ、地元企業と大学の研究者との連携の促進に力を入れている。すでに多くの成功例を生んでいる。

大阪信用金庫は平成15 年6 月に大阪府立大学と産学連携包括協定を結んで「だいしん産学連携共創機構」を設立し、同時にインキュベーション施設「さかい新事業創造センター」とも連携し、大阪府立産業技術総合研究所の協力も得て、地元中小企業の技術革新や研究開発の支援および企業間のマッチングを始めた。当金庫の職員が産学連携コーディネーターとして大阪府立大学に派遣され常駐している。

中小企業が新製品の開発に取り組む場合、長年の経験や既存の技術の応用により、独力で試作品を完成させていることが多い。大学や公設試験研究機関を利用することもあるが、既存の製品への優位性を示す科学的な裏付けを得る場合が多い。このため、保有特許の活用、あるいは企業との共同研究に重点を置く大学の産学連携ニーズとはズレが生じている。当金庫は、職員を大学に常駐させることにより大学、企業両者のニーズ、目的を把握し、ズレを修正、調整する役割を担っている。

まず、当金庫がコーディネートした地元企業と大阪府立大学との連携の事例を紹介する。

大阪信用金庫がコーディネートした企業と大学との連携の事例

1.株式会社舞昆のこうはら(旧 株式会社こうはら本店養宜館)(大阪市)

同社は大阪市内に6 店舗を構える老舗の塩昆布製造業者である。鴻原森蔵社長が「塩昆布がおいしくて、ついついご飯を食べ過ぎてしまい、血糖値の上昇が気になる」という話を聞き、糖の吸収を遅らせたり、燃焼させる方法はないものかと考えた。そこで血糖値を気にする人でも安心して食べられる塩昆布の開発を目指し、試行錯誤の結果、あけびの花びらから取り出した天然酵母を使って発酵をさせた塩昆布を開発した。だが、製法が複雑で安定的に量産ができず、悩んでいた。そんな折に当金庫が大阪府立大学の産学官連携フェアへの参加を勧めた。そして発酵技術に詳しい大阪府立大学の産学連携コーディネーターを通じて、大阪府立大学の教授との技術相談を重ね、共同研究が実現した。

当初、大学教授が使う難解な専門用語に抵抗が強かったが、鴻原社長の努力、当金庫のコーディネーターの支援などにより意思疎通も図れた。研究は順調に進み発酵塩昆布の量産化技術の開発に併せて、発酵塩昆布の健康に関する分析データを取得することができた。共同研究により開発された発酵塩昆布は「舞い上がるほどおいしい」という意味を込め『舞昆』と名付けられた。

当金庫は同社の共同研究の状況を把握していたことから、舞昆の売上急増に伴う工場、本社の増築設備資金に対し、速やかに融資が実行できた。

2.株式会社K&K (大阪市)

同社はボルト、ネジ、ナットの製造販売を主業とする株式会社新栄製作所の研究開発を担う子会社である。金属加工油の代替水である強アルカリ電解水の開発を進めていたが、多くの技術的な難問を抱えていた。

親会社の新栄製作所はボルト、ナット製造業の業界では老舗で優良企業であったため、同グループは比較的有利な条件で金融機関と取り引きしていた。当金庫は取り引きがなかったが、食い込んでいくのは厳しく、なかなか取り引きの糸口が見いだせなかった。ある日、当金庫の渉外担当者がK&K を訪問した際、置いてきた「だいしん産学連携」のチラシを社長が見て、当金庫に連絡が入り、当金庫の産学連携コーディネーターが訪問することになった。

開発した電解水の改良について同社は個別に大学と接触していたが連携はスムーズに進んでいなかった。そこで当金庫のコーディネーターが大阪府立大学へ持っていき、電気化学を専門とする教授に相談した。企業の課題が具体的であったので協力の約束を取り付けることができたが、共同研究ではなく、顧問契約でスタートすることとなった。しかし、社長の熱心さは並大抵のものではなく、その努力が報われ大阪府立産業技術総合研究所にも参加してもらえることになり、産学官の連携に至った。

同社はかなりの額を先行投資しており、今後の多額な開発費を捻出(ねんしゅつ)するために、近畿経済産業局に相談した。当金庫のコーディネーターは近畿経済産業局に何度も通って補助金申請書の手直しを行うなど支援した。また、経済産業局の担当者に同社の見学に来てもらう機会をつくることができた。そのかいもあって「地域新規産業創造技術開発費補助事業」に採択された。

その後、同社には当金庫の産学連携の取り組みを評価していただき、当金庫をメーンバンクとして取り引きいただいている。

3.株式会社シケン (大阪市)

同社は半導体電子歯ブラシ製造販売を主業とする。その電子歯ブラシはブラシ近くの根元部分に埋め込まれた酸化チタンが、水にぬれた状態で光に当たると電子を発生する。この電子の作用により一般の歯ブラシでは落ちにくかった歯垢を、効果的に除去しやすくなった。この歯ブラシは現在、ソーラーパネルを搭載しシリーズ化している。この先端技術は日本を始め、世界10 カ国で特許として認められている。

開発当初から大学の歯学部に歯ブラシの臨床実験などを依頼し、実証を行っていたが、光触媒の研究は歯学部では難しく、総合大学では学部間の交流がほとんどなく、なかなか総合的な研究に発展しなかった。しかし、取り引きのあった当金庫が大阪府立大学を紹介し、その後、積極的に間に立ち、基礎研究が順調に進み、光触媒による殺菌作用が証明された。

また、大阪府立大学工学部と光触媒反応について基礎研究を始めたことがきっかけとなり、総合リハビリテーション学部が持つ「栄養学の観点」から、半導体電子歯ブラシの効果を検証していくこととなった。

生活習慣病予防のために減塩食や糖分を抑えた食事が推奨されているが、食事制限を余儀なくされる人でも、口腔ケアにより味覚の感受性を向上させることで食事に対するモチベーションを上げ、減塩食もおいしく食べていただくことをテーマとして共同研究契約に至った。口腔ケアの方法は「ブラッシング」が絶大な効果を示すが、自社の半導体電子歯ブラシを使用することによりさらに歯垢がテクニカルに排除できるかを検証する。

具体的な検証方法としては、大阪府H 市在住の糖尿病境界領域者の数十名を対象に、口腔ケアの指導を行い、口腔清掃状態の評価と味覚テストを実施する。半導体電子歯ブラシ を用いた効果の検証は今夏から本格的に実施される。

産学連携へのきっかけ

平成15 年3 月28 日に金融庁より「リレーションシップバンキング機能強化に関するアクションプログラム」が発表された。これが、当金庫が産学連携に乗り出すきっかけとなった。「 リレーションシップバンキング」(通称リレバン)とは、「地域密着型金融」と表現されている。信用金庫が地域と中小企業のコーディネート機関としての役割を担いなさいということだが、それは、もともとわれわれ地域金融機関がやってきたこと。要するにリレバンは地域金融機関が長年やってきたビジネスモデルそのものである。「リレバン」といわれるこの施策の中で、産学官とのネットワークを構築・活用することによって中小企業の技術開発や新事業の展開を支援することを各金融機関に金融庁は要請している。

産学連携に対する金融機関の課題

大学との連携の経験はなく、課題となる事項が多く考えられた。

営業マンにインセンティブが乏しい
産学連携推進が営業マン、各営業店の業績評価に組み入れられていない。
産学連携をきめ細かくフォローする人員不足
産学連携の推進は、営業店での対応は無理。本部も体制が整っていない。
営業マンには基本的に技術の目利きはできない
われわれ金融機関の職員には文系の人材が多く、技術の目利きは困難。複数の大学に職員を派遣する余裕はない。
大切な顧客である中小企業を適切に導く体制が大学に整えられているのか
金融機関にとっては不安なテーマ。うまくいって当たり前、クレームが発生すれば金融機関の責任につながることも考えられる。

相談業務から信頼獲得へ

当金庫には73 の営業店があり、それぞれの営業店の取引先から日々さまざまな相談を受けている。相談受付から企業訪問までの流れはこうだ。まず営業店が取引先企業から受けた相談内容が記入された産学連携用の相談申込書が、大阪信用金庫CSR 推進部にFAX で送られてくる。そして、事務手続きを経た相談申込書が、大阪府立大学のリエゾンオフィスに常駐する当金庫職員(産学連携コーディネーター)にFAX で送られ、同職員が相談企業に連絡し訪問する日程を調整する。具体的な相談内容の場合は、大阪府立大学の専属のコーディネーターと一緒に訪問する。

営業店には「情報収集のアンテナの高さ」と「産学連携のチラシを取引先へ配布する」ことだけを要望している。とにかくどんな内容でもいいから、営業店では中身に触れず本部に丸投げすることを奨励している。このように営業店の負担にならず、企業支援が機能する仕組みをつくることにより本部に情報がどんどん来ることとなった。営業マンは、相談をつなげることで取引先に感謝される。その信頼感が結局、営業マン個人の成績にもつながるのである。

取引先企業が産学連携により新製品の開発等に成功すれば、そのための設備投資や増加する運転資金の需要が生じ、当金庫の融資に結び付くことが期待できる。また、産学連携の支援がきっかけとなり、取引がなかった企業が当金庫の取引先に結び付いた例も数多くある。

通常、企業への貸出の際の融資審査は決算書などの財務諸表や資産背景などを考慮して行われる。しかし、産学連携により、技術の信憑性(しんぴょうせい)、信頼性を得られた企業に対してはその融資審査においてその技術評価も加味することができることとなる。産学連携の支援は間接的ではあるが当金庫の利益にも貢献しているのである。

産学連携による大阪信用金庫のメリット

当金庫の職員が大学に常駐しているメリットは、企業にとって大学の敷居を低くすることができること。中小・零細企業は、大学に相談したいテーマがあっても、「どこに問い合わせればよいのか」「どういった支援内容があるのか」「中小・零細企業の相談に乗ってくれるのか」という不安がある。

当初、当金庫が技術者を雇い、コーディネーターとして大学に派遣することも検討されたが、結局は信用金庫の人材が、コーディネーターの役割を担うことが必要だと分かった。企業と大学を結び付けるには人と人とのつながりが重要である。信用金庫の人材はFace to Face が得意であり、人材は豊富にいると考えている。

営業店からは「丸投げ」の相談が来るが、大学が対応できない相談が数多くある。大学で対応できないからと言って取引先企業の相談を断ることはできない。産学連携コーディネーターは大学との橋渡しのほか、中小企業支援を目的とする団体、施設等を訪問し、そのような支援機関の中小企業支援施策の情報を収集し、支援機関のキーマンと親しくなり、大学では対応できない相談をマッチングさせ、課題解決を図っている。

おわりに

信用金庫の本来業務の預金や融資業務とは違い、産学連携はすぐに結果が出る業務ではない。事業化して商品・製品を販売し、投資資金を回収するまでの長期間の事業遂行が求められる。成功するまでには年月を要するものであるということの理解が不可欠であると思われる。

共同研究や技術移転ができれば、産学連携は達成されたような感覚になるが、企業にとって大学との連携による本当の成功は、業績の向上につながること。「実質を問う」認識が大事であると思う。

啓発から始まって、マッチング、共同研究、事業化開発、販路開拓に至る産学連携の一連のプロセスにおいて、大学、中小企業支援機関や金融機関それぞれに期待される役割がある。中小企業の産学連携のすそ野を拡大するためには、その時々の中小企業の課題をカバーできるような仕組み、さらに、それらプロセスにトータルで付き添っていくコーディネーター役が必要になるのではないかと思う。そうしたコーディネーター役は地元中小企業と運命共同体である信用金庫の職員が最適と思われる。