2010年8月号
インタビュー
利用者1人ひとりにあった福祉機器を開発
顔写真

佐藤 隆雄 Profile
(さとう・たかお)

株式会社ジェー・シー・アイ
代表取締役会長


聞き手・本文構成:西山 英作 Profile

(社団法人 東経連事業化センター
副センター長)

宮城県仙台市の株式会社ジェー・シー・アイは“思いやり”を経営の柱にしている福祉用具の開発・製造会社である。1976 年の創業時から東北工業大学の梨原宏教授と連携し、1人ひとりの身体にあった車いす等の開発に取り組み、身体障害者のクオリティー・オブ・ライフの向上に努めている。2004 年から仙台フィンランド健康福祉センターを通じて、ヴァイーノ・コルピネン社と業務提携を行っている。福祉のまちづくりのさきがけと評される仙台からグローバルにネットワークを広げる同社の佐藤隆雄会長にお聞きした。

—— “思いやり” への思いの背景をお聞かせ下さい。

佐藤  東北福祉大学で野球部のキャプテンをしていた1969 年に後輩を連れて重度身体障害者授産施設「西多賀ワークキャンパス」をボランティアとして訪問しました。そこで、菅野鞠子先生*1 を知り交流を深めました。菅野先生は、仙台市の福祉のまちづくりのきっかけをつくった方です。1970 年に私は指導員として西多賀ワークキャンパスに就職し身体障害者の方々と同じ屋根の下に暮らしました。障害者の方々から「施設ではなく当たり前に社会で暮らしたい」「一般の企業で働きたい」「結婚したい」というお話を聞き、何とか力になりたいとの想いが強まりました。

そんな時、脳性まひの娘を持つニール・マクレオド氏が障害者の社会復帰の場として創設したオーストラリアのCenter Industry 社をモデルとする会社設立の計画を聞きました。私は想いを実現するために、大塚達雄同志社大学教授等と共に設立に携わり、1976 年にJapan Center Industry の頭文字を取り、株式会社ジェー・シー・アイとしました。

当社の経営理念は“思いやり”を基本に据えた「自立・人間の尊重・社会貢献」です。この理念を実現するために、「科学性のある経営」「社会性のある経営」「人間性のある経営」の3つを事業の柱に掲げています。

産学連携

—— 「自立・人間の尊重・社会貢献」の具体的な取り組みを教えて下さい。

佐藤  車いすを例に取ると、障害を持つ方が使いやすいものでなければ、その自立の支援になりません。しかし、売り上げを優先すれば規格化が進み、障害者にとって使い難いものになりがちです。私どもは創業時から東北工業大学の梨原宏先生にユニバーサル・デザインのご指導を頂いています。1994 年に梨原先生と共同で車いすを使う高齢者60 名を対象に特別養護老人ホームで調査を行いました。そこで分かったことは、75%の方が身体に合わない車いすを使っていたことです。

われわれは利用者の体型に合わせて座幅、座高を調節でき、背角度調整機構も腰骨の上部より倒れ、楽な状態をつくることができる車いすを開発しました。また、緩やかなスロープを上る際に、車輪が反転してしまうことに不安を持つ方が数多くいることが分かり、車椅子逆転防止ブレーキを開発しました。このように障害者の生活上のニーズに1つひとつ応え、大学と連携してユニバーサル・デザインの高い福祉機器の開発に取り組んでいます。柱の1つである「科学性のある経営」の表れだと思っています。

仙台フィンランド健康福祉センター

—— フィンランドと国際的な連携にも取り組んでいると聞いております。

佐藤  2002 年にフィンランドを訪問した際に、ヴァイーノ・コルピネン社の手すり付の洗面カウンターやトイレサポートバーなどを拝見し、直感的に障害者や高齢者の自立に役立つと思いました。いわば一目ぼれです。フィンランド型福祉は、プライバシーを重視し、社会性を保ちながら自立を支える「自立・人間尊重」の姿勢が根底に流れています。これは当社の理念と一致するものです。2004 年に同社と業務提携を結びました。

進化する理念

—— 仙台フィンランド健康福祉センターとの取り組みの一環でグループホームもスタートさせたとお聞きしました。

佐藤  仙台フィンランド健康福祉センターの支援のもとに「仙台市内に高齢者住居複合施設を整備して、高齢者のコミュニティを形成する」という新しい試みに当社も参加しています。2007 年に認知症の方々を対象とする「グループホーム愛和の郷」を複合施設の1つとしてオープンさせました。「自立・人間の尊重・社会貢献」という理念を進化させるため、設備面では、人間工学的にデザインされたヴァイーノ・コルピネン社のトイレ用の手すりやサポートバーを導入しています。また、梨原先生と連携し、当社のユニバーサル・デザインの開発フィールドにも位置付けました。

年齢を重ねることで避けられない機能低下をできるだけ遅らせ入居された方に「何ができないのか」を問うのではなく、「何ができるか」を探し、ゆっくりとゆったりした時間を過ごして頂く努力をしています。

“傍楽(はたらく)”、すなわち、「はた(周り)の人たちを楽にしてあげる」をテーマに、どんなにハンディを背負っていようとも人間には何らかの役割を果たすことができる。周りから必要とされる暮らしを支援することが「自立・人間の尊重」につながると考えています。

また、2006 年にはNPO 法人ハートフル福祉募金*2 を設立し、自動販売機で気軽に募金できるシステムを立ち上げました。わが国全体に“思いやり” の輪が広がることを期待しています。

—— お話をお聞きして、ライフ・イノベーションの源泉は、“思いやり”をベースにした人と人との輪だと感じました。「自立・人間の尊重・社会貢献」という理念がフィンランド型福祉と融合し、佐藤会長のひたむきな姿勢がグローバルレベルで信頼の輪を創り、わが国のライフ・イノベーションの創出に貢献していくことを期待しています。本日は、ありがとうございました。

*1
「障害者白書」(平成8年)によると、「昭和46 年(1971 年)に仙台市の車いす利用の障害者とそのボランティアが市内の公共施設を点検し、階段のスロープ化や障害者トイレ等の設置を市に要望して改善された。これがある意味での福祉のまちづくりの始まりである。その後、車いす利用者の生活圏を拡大する運動が全国に展開される」と記載されている。この中心的人物だったのが菅野鞠子氏である。

*2
2010年現在の普及台数は1都1道2府35府県に644台にのぼり、年間2,000万円を超える募金を集め、赤い羽根募金で有名な社会福祉法人中央共同募金会に全額寄付している。