2010年9月号
特集  - ベンチャー経営
研究、試作用に卓上型のプラズマ処理装置
顔写真

岡山 清子 Profile
(おかやま・きよこ)

株式会社魁半導体 企画部 課長



京都工芸繊維大学発ベンチャー企業の株式会社魁半導体の保有技術の1 つが、低温で処理できるプラズマ技術。プラズマ装置というと、通常は製造業の企業が製品の「生産」用に使う大型のものだが、同社は大学の研究室や企業の研究開発部門向けに小型、軽量、低価格の卓上型を売り出し、事業の柱になっている。

大学発ベンチャー 魁半導体の設立

株式会社魁半導体は、京都工芸繊維大学発のベンチャー企業である。会社設立は2002 年。創業者の田口は、起業するために、サラリーマンを辞めて京都工芸繊維大学の博士課程へと進学し、その研究の中で安全に(爆発性ガスを使わないで)窒化シリコン膜を形成する手法を開発した。そして実際に創業するに至った。

創業当時は、大学発ベンチャー企業を1000 社創出するという「平沼プラン」が推進されていた真っ最中で、あらゆる産業でベンチャー企業が大いに脚光を浴びていた。当社も財団法人京都高度技術研究所のご支援や、経済産業省系の委託事業であるベンチャーサポートウエアや地域新生コンソーシアム等に採択していただき、製品の開発・事業化を加速させた。

当初は、安全に窒化シリコン膜を形成する技術を応用し、有機EL の封止膜製造装置の開発を大手企業と共同で進めていた。有機EL が企業により本格的に事業展開され、大きな産業になるという期待が大きかった時である。しかし、有機EL の市場の立ち上がりは大方の予想より大幅に遅れ、当社は事業計画の見直しを余儀なくされた。そこでコア技術である低温プラズマ技術を応用した自社製品の開発に取り組んだのである。そして、2006 年に卓上真空プラズマ装置YHS-360 式の販売を開始した。以来、独自技術を応用した装置の開発・販売は事業の1つの柱になっている。

保有技術
[薄膜形成技術]
写真1

写真1 低温・電荷ダメージの
    ない独自の大気圧プラズマ

窒化シリコン膜は、集積回路や半導体デバイスの表面の保護膜として広く使われているが、従来の堆積法による製造方法では、毒性・爆発性の強いガスを用いていた。当社では、活性な窒素と毒性・爆発性のない安全な物質との間の特異な化学反応を見いだし、それを活用した薄膜形成装置を開発した。

[低温プラズマ技術]

従来の大気圧プラズマ技術では、コロナ放電が主流で、処理温度は局所的に数千℃に達する。しかし、当社の製品では、条件により40℃程度の低温での処理が可能である。独自の電極構造で安定したグロー放電を生成することができるため、コロナ放電では処理が不可能な絶縁体上の金属薄膜に、電荷のダメージを与えることなく親水化などを行うことができる。

独自の技術で従来のプラズマ装置の課題を解消
[卓上真空プラズマ装置]

従来のプラズマ装置はいわば「生産」用だった。すなわち、製造業の企業が製品である装置や部材を生産するために用いることを前提にしていたため、大型で大変高価なものが主流であった。プラズマは新しいキーテクノロジーであるため、最先端の技術を研究している大学の研究室や、企業の研究・開発部門では小型・軽量・簡易で低価格のプラズマ装置の開発が待たれていた。当社独自のプラズマ技術を基に、装置設計を外部委託するのではなく、すべて自社内で設計し、試作を行いながら装置開発に取り組むことで、市場のニーズにマッチした装置設計の技術・ノウハウを積み上げてきた。内製化の推進により装置デザイン・部品の選定・組み立て技術などトータルパッケージでの小型化・軽量化、製造コストの削減に成功した。

図1

図1  真空プラズマ装置の小型化の実例

2006 年に最初の製品を事業化し、2009 年12 月にはその当社従来品より65% 小さい新モデルを定価49 万9,500 円(真空ポンプ込み・税抜き)で発売し、順調に販売台数を伸ばしている(図1)。主なユーザーは大学の研究室や企業の開発部門などである。

[粉体プラズマ処理装置]

難成形材である炭素粉体の処理法は、これまで真空プラズマで対応していたが、処理効率が非常に悪く、産業化を視野に入れた方法としては不向きであり、常圧で高効率な粉体の処理方法が模索されていた。また、界面活性剤を用いる方法も一般的であるが、不純物が混入することとなり、材料の純度が低下してしまい、目的とする物性が得られなくなることがあった。

写真2

写真2  粉体プラズマ処理の処理前と処理後

本技術では、電極として媒体である液体を用い、その液上に処理すべき粉体を浮遊させ、その上部に設置した電極との間で大気下においてプラズマを発生させることで、液上に浮遊させている粉体を効率よく活性化して、自発的かつ容易に媒質へ分散することができる(写真2)。また、これまで処理時間やコスト面の課題で実用化が難しかった工程の産業化を促進できる。

2010 年3 月に、定価540 万円(税抜き)で装置の発売を開始。現在は2 ~4 件/月の受託処理を行っている。主な受注先は、化学メーカーや、医療機器メーカー、ポリマー素材メーカー、石油化学メーカー、電子部品メーカーなどである。

今後の展望

独自技術であるプラズマ技術、薄膜形成技術をさらに応用して、高機能材料の開発と事業化を目指している。ものづくり企業としてステップアップして、新たな製品・技術の提供で日本の産業の発展に寄与するとともに、技術の継承、雇用の確保などでの社会貢献を実現したい。