2010年9月号
単発記事
大学発特許出願1万件時代の特許戦略
JST知的財産戦略委員会 政府、大学、JSTがなすべきことを提言

笹月 俊郎 Profile
(ささつき・としろう)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部
知的財産戦略センター
戦略企画グループ 調査役

知的財産の第一線で活躍する人たちで組織した科学技術振興機構(JST)の知的財産戦略委員会(理事長の諮問機関。委員長:阿部博之JST 知的財産戦略センター長)が、JST や大学の知的財産の戦略についての「提言」をまとめ、答申した。

大学発特許の戦略はいかにあるべきか。全国の大学等が出願する特許が年間1 万件時代を迎え、科学技術振興機構(JST)が保有する特許を加えると、広い意味で「大学発特許」は国内特許だけでも3 万数千件*1 にも達する。これらを効率的に維持管理し、産業界により多く活用してもらうためにはどうすればよいのかについて、第一線で特許と格闘している有識者を集めたJST 知的財産戦略委員会*2 が提言をまとめた。

提言の骨子
特許を複数集めパッケージ化して価値を高めることで、企業にとって魅力あるものにつくり上げる努力が必要である。その際、JST 事業の科学技術コモンズ*3 を有効に利用すべきである。
産業革新機構などの外部機関の利用も検討すべきである。
大学特許の持つ実用化まで長期間を有する特性を考慮しつつも、不断の見直しにより適切な維持管理が必要である。
外国企業との連携は重要な特許の活用の方法の1 つであるが、大学や研究者がよるべきルールを国は明確にしておく必要がある。

問題意識

大学が出願する特許はここ数年1 万件レベルで推移している。これは、維持管理費用の増加を招いている。実施料収入は増加しているものの、米国との差は依然として大きい状態である。

一方、JST 自身に目を転じてみると、主として日本版バイ・ドール条項の施行や国立大学の法人化の前にJST が出願した特許が約9,000 件*4 あり、大学と同じ悩みを抱えている。

このような状況において、保有特許の適切な維持管理と利用されていない特許の利用促進の問題は、JST 内部の問題にとどまらず日本の大学全体の問題となってきており、早急な対応が必要な状況との認識からJST 知的財産戦略委員会で議論することとなった。

知的財産戦略委員会での論点

以上の問題意識の下、3 つの論点を設定した。

1. JST が保有している特許の管理と活用について
2. 大学等における特許の管理と活用について
3. 外国企業との連携のあり方について

JST 保有特許の維持・活用の問題は、喫緊の問題であったため最重要論点として取り上げた。

外国企業との連携については、大学等の研究成果が国内外を問わず広く利用され、世界規模で社会還元されることとして意義のあることである。しかし、大学や研究者が懸念を感じる部分があり、ルールが必要ではないかという観点で、1 つの論点として設定した。

3つの観点での提言のまとめ
1. JST でできること
2. 大学自身で対応していくべきこと
3. 政府に要望しなければならないこと

これら3 つの観点で委員会の議論を提言としてまとめた。

論点1 はJST の問題であり、自ら数値目標を決めて削減を進めること、科学技術コモンズを活用するとともに産業革新機構等と連携によって特許利用を促進させることを提言している。

論点2 では、JST に対しては特許化支援、科学技術コモンズにより大学を支援すべきこと、大学へは個別事情に合わせて自立した活動が基本であるとしつつも、上記のJST の支援事業の利用すべきことを提言した。政府へは「知的財産推進計画2010」のうち、大学の個別事情に合わせた産学官連携体制の最適化や特許制度の見直し、および産業技術力強化法第19 条に追加された特許権等の移転等に係る国の事前承認の承認可否判断方針の明確化を提言した。

論点3 では、政府に対して大学の懸念を払拭(ふっしょく)するために政府としての基本方針を示すことを要望した。

積極的に外部発信

提言に盛り込んだ政府への要望を積極的に伝えるため、政府の知的財産戦略の中核である内閣官房知的財産戦略推進事務局を始め、総合科学技術会議や文部科学省にも提言を説明し、意見交換を行った。

また、広く大学発特許の現状と今回の提言について理解いただくために新聞記者向け説明会を開催した。

今後の知的財産戦略委員会

今回の提言では、喫緊の問題として出願された特許をどうするかという議論を行った。しかし、大学やJST のように自ら実施しない研究機関がどのような特許をいかなる戦略を持って出願するかという根本的な難しい問題が手付かずの状態である。今後は、このような困難な問題にも取り組むべきであると考えている。

知的財産戦略委員会提言(抜粋・要約)

1.JST が保有している特許の管理と活用について
 JST がとるべき対応
[1] 未利用特許について、削減についての数値や期間の目標を定めた上で、継続的に見直しを行い、利用可能性の高いものが残るよう努める。
[2] 保有を継続する特許について、次の通り活用の促進を図る。
研究フェーズにおいて自由に利用させることが可能な特許の場合には、JST の科学技術コモンズを活用して特許の活用促進を図る。
科学技術コモンズにおいて、大学等から提供された特許とJST が保有する特許について、技術分野、要素技術や用途等の視点で分類し、特許マップや特許群として情報を提供する。また、特許強化のために必要なデータを取得するための試験費や試作品の製作費の支援を行う。
特許のポートフォリオ化や特許をパッケージ化して特許群とし利用価値を高めてライセンスを促進する試みを行う。
産業革新機構等の外部機関との連携関係を構築し活用の方策を探る。

2.大学等における特許の管理と活用について
 (1)JST がとるべき対応
[1] JST 特許化支援*5 により、発明および特許評価の支援や大学の外国特許出願について支援を行う。
[2] 特許の活用促進
JST は大学に対し科学技術コモンズへの特許の提供を求める。
JST は大学等の承諾を得た上で、産業革新機構等の外部機関との連携を協議して活用の方策を探る。
[3] 産業技術力強化法第19 条の特許権等の移転等に係る国の事前承認に関して、JST は大学等からの承認申請に対応するため、政府の承認可否判断の方針を踏まえつつ運用指針を策定する。

 (2)大学等への提案
[1] 大学等において発明や特許について調査や評価のリソースが不足する場合や外国出願の費用面が困難な場合には、JST の特許化支援の積極的な活用が考えられる。
[2] 特許の活用促進のために科学技術コモンズの活用が可能である。

 (3)政府への提案
[1] 大学により年間の発明件数や特許の出願、維持管理体制整備等の状況が異なっているため、産学官連携体制の最適化を検討することが必要である。
[2] 大学特許は先進的ではあるが事業化まで長期間を要するため、現在未利用の特許の中にも利用可能性が高い特許は存在すると思われる。そのような特許を重い負担なく長期間維持することが可能となる特許制度が必要である。
[3] 産業技術力強化法第19 条の特許権等の移転等に係る国の事前承認に関して、承認可否判断の方針の明確化が必要である。

3.外国企業との連携のあり方について
 政府への提案
大学と外国企業・機関との連携に関して早急にルールの明確化をお願いしたい。外国企業の定義、ライセンス等についても、大学等やJST に対して基本方針を示すことが必要であると思われる。この場合、自ら発明を実施する者か否かにより、ライセンス、特許の譲渡あるいは専用実施権の設定等について、対応が異なると考えられるので、この点を考慮する必要がある。

*1
NRI サイバーパテントデスク2 を用いて検索した大学、高専とJST の国内特許件数。

*2
知的財産戦略の構築、提言に関する重要事項など調査審議するために、JST 理事長の諮問機関として設置されている。

*3
特許の活用促進のために特許の価値向上を図る制度。http://www.jst.go.jp/chizai/gyomu1.html

*4
平成21 年度末。

*5
大学やTLO 等の特許取得活動を支援する制度。特許の目利き(特許主任調査員)による特許相談、先行技術調査、権利強化のための助言や外部有識者の評価に基づき外国出願関連の費用支援を行うもの。
http://www.jst.go.jp/chizai/gyomu3.html