2010年9月号
連載2  - 徳島大学 知的創造サイクルに向けて
(上)
各スタッフの能力を生かせる組織づくり
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佐竹 弘 Profile
(さたけ・ひろむ)

徳島大学 産学官連携推進部 副部長、教授



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新居 勉 Profile
(あらい・つとむ)

徳島大学 産学官連携推進部 講師



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大井 文香 Profile
(おおい・ふみか)

徳島大学 産学官連携推進部 助教



 徳島大学の産学官連携部門はユニークだ。大学が生み出した技術を産業界で活用してもらう方法はないかと、スタッフが毎日こつこつと地域の企業を回っている。大きな声でPRすることはないが、" 地域共同研究センター" の時代からだから15 年以上になるだろうか。こんな企業回りをしている国立大学はほかにない。
 産業基盤が強固で大企業、元気のいい中小・零細企業がたくさんある地域ならば、地元大学はチャンスをつかみやすい。しかし、徳島はそうではない。大学自らが地域企業のドアをノックしないかぎり、大学知財の活用、地域貢献はなかなか実現しない。同部門は、愚直とでもいうのだろうか、日々精進しているという印象を受ける。同大学が企業と共同開発した「企業の技術ニーズと大学の技術のマッチングシステム」――まだまだ改良の余地は大きいが――は、中国地域産学官連携コンソーシアム(さんさんコンソ)、国立高専機構&長岡・豊橋技術科学大学、鹿児島地域、その他大学などで使われるようになった。
 佐竹弘教授は、大学の産学官連携部門の専任教員としては全国で最も長くなった。全国の大学が「知財本部」の整備に勢力的に取り組み始めた当時、他大学の面白い取り組みのことを聞きつけると訪ねていったが、よく聞くと、素晴らしい「看板」に実態がほとんど伴っていないケースが多かったという。そんなことを繰り返す中で、「自分で考え、試み、一歩一歩自らの大学の知的創造サイクルを実現させていくほかない」と思うようになった。

本学(徳島大学)の産学官連携部門の活動は、本学の知的財産をはじめ、全国に保有する知的資産を活用して社会に貢献し、「共に育て、共に育つ」を基本方針としている。産学官連携活動の中心を知的創造サイクルの強化に置き、すなわち知の創出、権利化・保護、育成・活用のサイクルを基本とした組織の構築と活動手法の構築を行っている。本学の活動の特徴は次の2 つである。

1. 人を産学官連携の基本に置き、人のネットワークを重視し、必要な人材を教育して育成する。
2. 情報を産学官連携の基盤としている。

マネジメントにおいては、横の連携を強化し、スタッフを1 つの組織として活動させ、個々の能力を最大限に生かし、個々の存在感が表に出る組織になるよう努めている。本学の産学官連携に対する考え方や活動が皆さまの産学官連携の活動に1 つでも参考になれば幸いである。

産学官連携の体制と人材

本学の産学官連携活動は、地域共同研究センター設置(平成3 年4 月)による地域企業との共同研究推進から始まった。当初は専任教員1 人の体制で約10 年、共同研究推進や企業情報収集・発信、広報活動、共同研究のマッチング、事務作業など産学官連携活動を担ってきた。この専任教員(現在全国で最も古参)が中心となり、平成10 年から学長とともに組織の拡充・改組を重ねてきた。

現在では、専任教員3 人(教授、講師、助教)、技術移転、知財の権利化・保護、情報管理それぞれのアソシエイト4 人、事務専門スタッフ2 人に、産学官連携活動支援の客員教授6 人、主席調査員18 人の総勢33 人が一体となって知の創出から利活用まで取り組んでいる。これらの人材の能力が総合的に組み合わされ一連の業務が迅速に進められる体制を構築していることを1 つの特徴としている。

日常的な産学官連携活動への対応

産学官連携は日常的な活動が最も重要であると認識している。指示系統を一本化して実務作業者とそれを支える事務担当者が常に一体となるようにチームとして活動している。このチームが常に情報交換(週1 回、必要ごと)を行い、活動は、案件ごとに担当者1 人がすべてを背負うのでなく、このチームに外部スタッフの能力、専門性を融合させ、臨機応変に活動できる「形をつくらない」「固定概念にこだわらない」柔軟な体制を築いている。

このチームの能力をさらにアップしているのが、企業勤めや科学技術振興機構(JST)の特許主任調査員を経験した客員教授、主席研究員の存在である。彼らがチームと一体となって学内研究者や企業関係者と毎日のように面談を繰り返し、技術情報や評価情報をチーム全体に提供している。

もう1 つに、株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO)との連携が挙げられる。四国TLO 職員は本学の主席研究員として学内で活動できる体制を取り、実際にわれわれの日常活動にも常に参加して産学官連携推進部の事業を共に行っている。

産学官連携推進部の事業

産学官連携推進部の主要事業を図1に示す。産学連携事業、研究推進事業、知的財産管理事業、情報管理・活用事業、新技術研究事業、国際化事業、人材育成事業である。そのうち骨格となる事業を以下に紹介する。

図1

図1 産学官連携推進部の事業

1. 産学官連携事業(技術移転事業)

権利化された発明や研究推進のためのマッチング活動には、研究報告会や研究者紹介、展示会への出展、企業への直接紹介、企業との事業化プロジェクト実施、四国TLO からの企業への紹介などがある。徐々に受動的な技術移転から能動的な技術移転の展開を強めている。例えば、日本で難しい場合には、国際的な技術移転も視野に入れ海外等の弁理士等と連携して進めている。

2. 研究推進事業

研究者への研究支援、その研究成果の育成には、まず何よりも、日常的に生まれる研究成果を継続的にウォッチして、支援の対象となる研究者とテーマを発掘することが必要となる。このために、常日ごろより研究者と接することは重要である。本学のシーズ発掘の特徴の1 つは、JST の育成事業、学内の研究者育成事業、企業との協定による研究などをすべて学内公募とし、その申請書や成果報告書から技術移転可能なシーズを、専門家等の意見を交えながら選んでいること。また、当本部の担当者は研究者へのヒアリングを行い、スタッフや客員教授等からなる知的財産検討会(シーズ発掘など)で意見交換するという、日常的な発掘活動を行っている。

3. 知的財産管理事業

発掘された研究成果を活用に向けて権利化するため、担当者を決め、権利化に向けた先行調査、研究者へのヒアリング、技術移転を中心に発明の評価を行っている。2 週間に1 度、発明発掘検討会(10 名程度)で議論して、最終的に委員会で大学として帰属するかどうか決定している。その後、専門分野の弁理士(委託先30 社)などに相談して出願に向けた検討を重ね、最終的に出願を決定している。

このようなシステムを築く前は、担当者が「この発明は企業で実用化されるか」という観点で多くの人の意見を聞き、それらを基に権利化するかどうかを決めていた。しかし、上述のように、個人的な評価から組織的な評価に移行してから、権利化された案件は技術移転に向けた企業からの引き合いが増加してきた。

4. 情報管理・活用事業

本学の産学官連携部門は大学教員や研究成果の情報、企業情報、特許等の進捗情報、スタッフの日常の活動情報など多数の情報を電子化している。内部活動用のクローズ情報と広報活動用のオープン情報がある。これらの情報をスタッフが常に共有して活動している点も本学の産学官連携部門の特徴の1 つである。本学では独自に開発した広報やマッチング用の技術情報マッチングシステムを構築し、企業や他大学の研究者に活用されている。

徳島大学の産学官連携は、以上の事業を有機的に連携させて一連の知的創造サイクルをつくることであり、そのための体制や人材、システムを常に改良・改革を重ねながら「より1 歩前へ」を目指してスタッフが一丸となって活動している。次号以降では、その手法やその活動の具体例を取り上げ、内容の紹介のみならず、活動における苦労話や注意点を取り上げて紹介させていただく。