2010年10月号
特集1  - 水素プロジェクト
福岡水素エネルギー戦略会議
産学官による研究開発、社会実証進め新産業育成を目指す
顔写真

田代 裕靖 Profile
(たしろ・ひろやす)

福岡県商工部新産業・技術振興課 企画監
福岡水素エネルギー戦略会議 事務局


600の産学官の機関が参加する「福岡水素エネルギー戦略会議」は、水素エネルギー社会の実現を目指し、研究開発、社会実証などに取り組んでいる。

脱化石燃料の時代へ

世界のエネルギー需要はアジアを中心として急速に伸び、2030年には2002年比で60%増加すると言われている。一方、石油生産は、楽観的な予測でも2040年にはピークが到来するとの見通しもある。

また、地球温暖化問題も深刻化している。石油をはじめとした化石燃料の消費による二酸化炭素(CO2)の排出量増加により、深刻な気象変動が懸念されている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測によると、このままCO2の排出量が増加すれば、2100年の平均気温は最大6℃上昇すると言われている。

私たちは、石油をはじめとした化石燃料の利用により文明を大きく進歩させてきた。しかし、エネルギー問題、環境問題を解決し、将来にわたり持続可能な社会を創るためには、化石燃料から脱却した新たな社会システムの構築が求められている。

水素エネルギーとは

化石燃料に代わるエネルギーとして注目されているのが、水素エネルギーである。水素エネルギーは、その利用段階でCO2を全く発生しない。また、水素エネルギーは、化石燃料だけでなく、バイオマス・太陽光・風力など再生可能エネルギーからも製造できる。つまり、再生可能エネルギーから水素を製造することで、化石燃料に依存しないクリーンな社会を構築することができる。

さらに、水素と酸素を化学反応させ電気をつくり出す「燃料電池」を利用すれば、従来の方法よりも高効率に発電することが可能である。化石燃料から水素を製造した場合でも、燃料電池を使えば約3割の省エネルギー・CO2削減が可能となる。

水素エネルギーは、地球温暖化対策・脱化石燃料のキーテクノロジーとして、自動車をはじめとした広範な分野への応用が期待されており、水素エネルギーの実用化を目指し、国内外で熾烈(しれつ)な開発競争が繰り広げられている。

福岡は、エネルギー問題、環境問題の解決という社会の強い要請を受け、新たな先端成長産業として大きな期待を担う水素エネルギーの実用化に意欲的に取り組んでいる。

福岡水素戦略

福岡における水素プロジェクト推進の中核となっているのが、産学官の連携組織「福岡水素エネルギー戦略会議」である。2004年に設立された戦略会議は、当初、144企業・機関で活動を開始した。現在、戦略会議には593企業・機関(7月1日現在)が参画しており、水素エネルギー分野においてはわが国最大の産学官連携組織に成長している。戦略会議では、2008年2月に策定した「福岡水素戦略(Hy-Lifeプロジェクト)」に基づき、研究開発、社会実証、人材育成など水素エネルギー社会の実現に不可欠な取り組みを総合的に推進している。

写真1

写真1 水素材料先端科学研究センター
    (HYDROGENIUS)

研究開発では、九州大学と九州大学伊都キャンパスに設置された産業技術総合研究所「水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)」(写真1)を中心に、水素の製造、輸送・貯蔵から利用までの一貫した幅広い研究開発が進められている。特にHYDROGENIUSは、この分野の世界的権威である村上敬宜センター長(九州大学理事・副学長)の下に、国内はもとより、フランス、アメリカ、ドイツなど国外からも一流の研究者が結集しており、まさに世界的な研究開発拠点となっている。

写真2

写真2 ステーション開所式での充填デモ(2009.9.18)

社会実証では、JX日鉱日石エネルギー株式会社、西部ガスエネルギー株式会社と協働して、糸島市の団地150世帯を対象にLPガスを燃料とする家庭用燃料電池を集中設置した世界最大のモデル都市「福岡水素タウン」の推進や、次世代自動車として期待される燃料電池自動車等の実証走行を可能にするため、福岡市と北九州市の2カ所に水素ステーションを整備した「水素ハイウェイ」など、先導的な実証活動を展開している(写真2)。

水素エネルギー新産業の育成・集積に向けて

戦略会議では、水素エネルギー分野を新たな産業として育成する取り組みにも力を入れている。水素エネルギー新産業の育成・集積のためには、多様な企業の参入促進・競争環境を創出し、各種関連製品の低コスト化・高性能化を図ることが必要である。また、民間企業が水素エネルギー産業へ新規参入するためには、水素ガス環境下での製品試験により、自社製品の性能・信頼性を証明することが不可欠である。

写真3

写真3 水素エネルギー製品研究試験センター
    (HyTReC)

このような産業界の期待に応えて、日本における水素エネルギー新産業の育成・集積を図る中核機関として福岡県が主導して設立したのが「水素エネルギー製品研究試験センター(HyTReC)」(写真3)である。HyTReCは、1,000気圧級の高圧水素を取り扱う試験室など12の独立した試験室を備え、これまで国内での実施が困難であった高圧水素ガスを使った製品試験を行うことができる。

九州大学やHYDROGENIUSと連携し、これら機関の研究成果を基に水素関連製品の試験を行うことにより、産業界の製品開発を支援する全国初の施設である。今年4月に開所したHyTReCの活動により、日本の水素エネルギー産業育成が大きく進展するとともに、より効率的な製品開発の環境を求め、関連企業の研究所等が集積することが期待されている。

最後に
写真4

写真4 IPHEアワード授賞式の模様
(2010.5.17 ドイツ エッセン)

今年5月、戦略会議は、水素・燃料電池の国際協力枠組みである「水素経済のための国際パートナーシップ(IPHE:International Partnership for the Hydrogen Economy)」から「優秀リーダーシップ賞」(写真4)を受賞した。同賞は、世界の水素経済の推進に著しい貢献のあった団体等を表彰するもので、同賞の受賞はわが国初の快挙である。戦略会議の活動が国際的にも高く評価されたことは大変光栄であり、これまで事業推進にご協力いただいた方々に心から感謝申し上げる次第である。

今回の受賞を契機に、「福岡水素戦略」をさらに充実させ、世界を先導する水素の拠点を構築していかねばならないと気を引き締めている。われわれは、これまで培ってきた産学官の強固な連携を大いに活かしながら、今後も活動を活発化させていく所存である。戦略会議の活動に興味のある方は、ぜひホームページ(http://www.f-suiso.jp/)をご覧いただければ幸いである。