2010年10月号
特集1  - 水素プロジェクト
5分でわかる水素エネルギー
2015年めどに電気自動車開発
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松尾 義之 Profile
(まつお・よしゆき)

株式会社白日社 編集長/
東京電力科学誌「イリューム」編集長


水を電気分解すると水素ガスと酸素ガスがつくり出される。燃料電池はその反対の反応を利用したものだ。CO2を発生しない、地球にやさしい燃料として期待されている。筆者は、水素は、新しいエネルギーのメディア、媒体物と考えた方がいいと指摘する。

水素ガス(H2)は燃えても水(H2O)しかできないため、地球環境へ負荷の小さい優れた燃料として期待を集めてきた。その研究・技術開発の歴史は数十年に及ぶ。さまざまな課題は残されているものの、実際に形あるものとして実現すべく、さまざまな試みが続いている。

価格の点でまだ商用化とはいかないが、水素を燃料とする燃料電池バスは、2005年の愛・地球博で会場までのシャトルバスとして100万人もの乗客を運んだ(トヨタと日野自動車の共同開発)。その後、中部国際空港周辺で活用され、水素供給ステーションなどを含む社会実験が継続している。東京周辺でも、成田・羽田空港間の長距離輸送を目指した実験が試みられた。海外では、欧州を中心に空港内の輸送が試みられている。

日本国としての取り組み

経済産業省が2008年3月にまとめた「Cool Earth――エネルギー革新技術計画」は、2050年までに温室効果ガスを大幅に削減することを目指した計画であり、環境に配慮した新しいエネルギー革新技術が21テーマ掲げられている。この中に、「燃料電池自動車」「定置用燃料電池」「水素製造・輸送・貯蔵」という3つの水素エネルギー技術が取り上げられている。

2009年には「水素利用社会システム構築実証事業」が公募・選定された。東京都心と羽田空港/成田空港を結ぶ高速道路を使った燃料電池自動車・燃料電池バスの長距離定期運行、北九州市における水素パイプラインから一般家庭等への水素供給に関する社会実証が実施されるとともに、佐賀県で原子力発電所立地地域内における深夜電力を利用した水素の製造~貯蔵~供給までの「水素供給インフラの社会実証」が実施された。

燃料電池は、水の電気分解の逆

燃料電池は、水素を燃料として使う装置の代表例だ。水の電気分解の実験はよく知られているが、そこでは、電気のエネルギーによって、水(H2O)から水素ガス(H2)と酸素ガス(O2)がつくり出されている。燃料電池は、これとちょうど反対の反応を利用したものだ。つまり、水素ガスと酸素ガス(大気中)を反応させ、電気エネルギーを生み出している。ここでの排気ガスは水だけであり、地球に極めてやさしい技術というわけだ。

燃料電池には、そこで使われる電解質の種類などによって、いろいろなタイプのものがあり、リン酸型燃料電池のようにすでに実用化されているものもある。現在の技術開発の焦点は、固体高分子型燃料電池(PEFC)や固体酸化物型燃料電池(SOFC)などであり、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)もそのための支援を強化している。

燃料電池の優れた点は、エネルギー利用効率が最大40%と非常に高いところ。ちなみに現在のガソリンエンジンは、せいぜい10数%でしかない(プリウスのようなハイブリッド車はもっと高い)。

燃料電池自動車

水素燃料電池の最大の応用分野が自動車産業と見られている。環境にやさしい車としては、バイオ燃料自動車や電気自動車が注目されているが、燃料電池自動車も長い研究開発の歴史がある。

電気自動車(EV)と燃料電池自動車を比べてみると、いずれもモーターで走る点は共通であるが、EVの場合は電池容量の限界から、比較的短距離しか継続運転ができない。しかし、2009年6月に米国トヨタがカリフォルニアで行った試験走行のように、燃料電池自動車なら、700kmくらいの継続運転が可能である。ここが最も重要なポイントだ。

水素燃料の問題

プロトタイプとして存在する現在の燃料電池自動車では、燃料タンクは、炭素繊維強化プラスチックでつくられ、その中に、水素ガスを数十メガパスカルという高圧状態にして入れている。

このタンクに水素ガスを供給する場合は、特殊なノズルを補給口に密着・接続する。そして水素ポンプから燃料が供給されるが、広く使われるようになった場合、その安全性確保、人為ミスの回避手段などが必要になる。

水素燃料タンクに代わる技術の可能性として、水素吸蔵合金などの基礎研究がいろいろと進められてきた。多孔質のゼオライトなどが候補として挙がっているが、よりいっそうの技術革新が期待されている。なお、液体水素(マイナス253℃)を使う考えもあるが、極低温状態を保つことなど課題が多過ぎると見られる。

水素の製造・供給システム

補給ステーション(スタンド)に水素ガスを送る方法も、きちんと確立する必要がある。ガソリンと同じようにタンクローリーで運ぶ方法もあるが、パイプラインでスタンドに直接送る方式も検討されている。

これと関連するが、水素ガスをどこでつくるかという点も決まっているわけではない。例えば都市ガスをスタンドにパイプラインで送り、そこで都市ガスを改質して水素をつくり、供給する方法も考えられる。一方、製鉄所周辺などで水素ガスを製造・生産し、それをスタンドにパイプラインで送ることも考えられている。

なお、水素スタンドと燃料電池自動車は、「卵が先か、鶏が先か」という関係がある。水素スタンドのネットワークができないと燃料電池車は売れないし、燃料電池車が広く普及しないと水素スタンドをつくるコストが見合わない。この問題を解決すべく、2009年9月、世界の主要メーカー9社が2015年までに燃料電池車を商品化することに合意するとともに、ドイツ国立水素燃料電池技術機構(NOW)もまた、エネルギー企業に呼び掛けてドイツ全土に数年以内に数百カ所、2010年代末までに1,000カ所の水素スタンドを整備すると約束した。

水素製造で、いかにCO2を減らすか

現在のところ、水素ガスの製造法として最も安価なのが、都市ガス・天然ガス・石炭ガスなどを改質してつくる方法である。ただし、これでは、改質の際にCO2ができてしまうので、そもそも水素を使うという目的から外れてしまう。とはいえ、水素によるエネルギー・システムを実証する上では、当面は、これに頼らざるを得ないのが実状だ。

家庭用の「エネファーム」がかなり普及しているが、これは設置型の燃料電池で、コージェネレーション、つまり発電とお湯の両方を供給するシステムである。この「エネファーム」では、都市ガスを改質してその場で水素に変え、それを燃料電池に送っている。

水素エネルギー・システムの実証と並行して、風力発電・太陽光発電、原子力発電の余剰電力などによる水素製造の開発を進めていけば、最終的には、CO2排出の少ない形式に行き着くと考えられる。

1つのめどは2015年

わが国の技術開発、NEDOなどによるプロジェクト、欧米の計画などを眺めると、燃料電池車の当面のめどは、ほぼ共通して2015年となっている。この時点で、一般社会に普及させる要件が整えば、意外に早く燃料電池車は広まっていくかもしれない。もちろん、普及しつつ、技術開発も進むはずだが、そのぶん、なすべき課題は多く、技術革新の余地は多いと見られる。

なお、ここでは水素を「エネルギー」と呼んできたが、石油や天然ガスのようなエネルギー源という意味ではない。地下資源という形で水素があるわけではないからだ(そうは言っても、天然ガスからの改質という点ではエネルギー源とも言えるが……)。

地球環境という観点に立てば、基本的に、水素ガスは水からつくり出す必要があり、そのためには別のエネルギー源が必要である。その意味では、水素とは、新しいエネルギーのメディア・媒介物・担体物と考えた方が正しい。