2010年10月号
連載2  - 世界トップクラス研究拠点の産学官連携
(上)
研究ドメインと産学官連携の特質
顔写真

永田 晃也 Profile
(ながた・あきや)

九州大学大学院 経済学研究院
准教授/文部科学省 科学技術政策研究所
客員研究官

なぜ、そもそも研究拠点の形成は世界トップクラスを目指さなければならないのか、世界トップクラスの研究拠点ではどのような産学連携マネジメントが行われているか――欧米のトップクラス研究拠点に関する調査などから探る。

なぜ世界トップクラス研究拠点を取り上げるのか

本年度が施行期間の最終年度に当たる第3期科学技術基本計画は、「科学の発展と絶えざるイノベーションの創出」を実現するための政策の一環として「大学の競争力の強化」を掲げ、世界トップクラスとして位置付けられる研究拠点が、結果として30拠点程度形成されることを目標としている*1。これを受けて、平成19 年度から、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)を予算措置するなどの施策が講じられてきた。

この間、文部科学省科学技術政策研究所では、拠点形成施策の立案に資するため、総合科学技術会議の付託により平成18~19年度に「欧米の世界トップクラス研究拠点調査」(以下、トップ拠点調査)を実施した。この調査で得られた知見の一部は、WPIの制度設計に反映されている。筆者は同調査の実施に関与し、また同研究所が平成20年度に「第3期科学技術基本計画フォローアップ調査」を実施した際は、「特定の研究組織に関する総合的ベンチマーキング調査」を担当した。この連載では、それらの調査結果に基づいて、世界トップクラス研究拠点における産学官連携の特徴を検討してみたい。

トップ拠点調査の対象は、研究機能において世界トップクラスに位置付けられる拠点であるが、周知のように拠点が大学である場合、その機能は研究のみならず教育や社会貢献にも及んでいる。通常、産学官連携は社会貢献に属する機能として理解されていることから、研究機能にフォーカスした調査の結果が産学官連携にもたらす知見には、相当の限界があるとみられるであろう。しかし、大学の諸機能は相互に密接な関連を有しているため、研究機能において卓越した拠点は、産学官連携活動についても高度な機能を保有していることを、われわれの調査結果は示唆しているのである。

研究ドメインの分類

ただ、一口にトップ拠点と言っても、その組織的な属性は極めて多様であり、それに対応して産学官連携にも拠点ごとに異なった特質がみられる。ここで言う組織的な多様性とは、単に研究分野が異なることに由来するのではなく、拠点の目標指向性や研究テーマの実施体制が多様であることによるものである。われわれは米国のトップ拠点調査では、科学技術基本計画によって定められた重点推進4分野と素粒子物理に関連する9拠点を対象とするケーススタディを行ったが、収集された情報を整理する際には、以下のような枠組みを用いて拠点の研究ドメイン(領域)を再定義した。

表1 米国における世界トップクラス研究拠点の
    ドメイン

表1

この枠組みでは、研究ドメインの特質を、拠点の目標志向性(サイエンス志向/問題解決志向)と、実施体制の特徴(基盤的/プロジェクト的)ないし時間志向性(長期的/短期的)という2軸によって分類している。サイエンス志向で基盤的・長期的性格を有するドメインに「基礎科学」領域、サイエンス志向でプロジェクト的・短期的性格を有するドメインに「先端科学」領域、問題解決志向で基盤的・長期的性格を有するドメインに「公共技術」領域、問題解決志向でプロジェクト的・短期的性格を有するドメインに「産業技術」領域というラベルを与えた上で、米国調査の対象拠点のポジションを整理すると表1のようになる。

産学官連携の特質

この米国調査では、重点推進4分野以外の調査対象分野を素粒子物理に限定しているため、上記のように位置付けられた研究拠点の特徴は、必ずしも各ドメインの一般的な傾向を代表するものではない。しかし、このような分類軸を導入することによって、拠点の多様性を研究ドメインとの関連において理解することができる。産学官連携に関する多様性については、以下の点が指摘できるであろう。

政府の資金的支援が重要な役割を果たしているのは、基礎科学、先端科学および公共技術の3領域であるが、支援制度の性格やテーマ設定のイニシアチブは、これらの領域間でも異なっている。すなわち基礎科学領域や公共技術領域では、政府の安定的な資金提供が拠点形成に大きく寄与しているのに対して、先端科学領域では、競争的な資金の提供が拠点の形成を促進している。また、基礎科学領域と先端科学領域では、テーマ設定が主として個々の研究者に担われるのに対して、学際的なアプローチが不可欠な公共技術領域のテーマ設定は、個別の専門分野を超えた組織的なイニシアチブによって導かれている。

産業技術領域の研究拠点にみられる顕著な特徴は、資金面で産業部門の負担に大きく依拠している点である。このドメインには、産業部門のニーズに呼応して活発な産学連携が展開されるポテンシャルが存在するため、政府の主たる役割は、連携の促進を目的とした制度的な環境整備に期されることになる。

以上の考察は、優れた研究拠点の機能を産学官連携に生かすためには、研究ドメインの特質に配慮した施策が求められることを示唆している。そのような施策は、産学官連携政策にドメインごとの多様性を組み込むことにほかならない。

*1
基本計画の言う「世界トップクラス研究拠点」とは、「例えば、分野別の論文被引用数20位以内」の研究拠点であって、世界一であることを意味していない。ただし、このクラスに入ること自体、決して容易ではない。トップ拠点調査の報告書に掲載されたデータによれば、1995年~2004年の10年間に化学分野で論文被引用数が上位20機関に入る日本の大学等は5機関を数えるが、物理学分野では2機関にとどまり、計算機科学では皆無となっている。