2010年11月号
特集1  - 発進 次世代自動車
次世代モビリティの実現と大学の役割
~柏の葉地域ITS実証実験モデル都市~
顔写真

田中 敏久 Profile
(たなか・としひさ)

東京大学生産技術研究所
先進モビリティ研究センター(ITSセンター)
客員教授

地域が抱える課題には「モビリティ(移動)」と密接に関連しているものが多い。交通事故・渋滞、公共交通の利便性向上は直接的なテーマだが、環境・エネルギー問題、中心市街地の衰退、高齢化社会の急速な進展などの解決は、新しい交通システムの開発が不可欠だ。21世紀の交通を担うITS(高度道路交通システム)と次世代モビリティを産学官民連携で探る。

次世代モビリティとITS ~ITSによる地域課題の解決
図1

図1 サスティナブルITSの展開での産官学連携

東京大学生産技術研究所先進モビリティ研究センター(ITSセンター)の活動は、2003年4月に産官学連携プロジェクト「サスティナブルITSの展開」として、東京大学生産技術研究所の4研究室、民間企業10社、アドバイザーとして省庁、他大学、企業の横断的連携でスタートした(図1)。モビリティとは、「1人1人の移動」を意味するとともに、「地域全体の交通流動」あるいは「移動の手段」を意味している。

21世紀の交通を担うITS(高度道路交通システム~Intelligent Transport Systems)は、道路・自動車・人を最先端の情報技術(ICT)でネットワーク化し、環境・エネルギーとの共存、安全・安心な社会、快適性の確保、新産業の創造と情報化により、住みやすい街、住みやすい社会を実現することを目的としている。また、ITSは総合融合工学(交通・機械・電気・情報・通信・画像処理等)であることから、「学」と「学」の連携、民間企業の卓越した知恵とビジネスモデルによる「オープンイノベーション」、インフラ、制度等との関連から省庁、地方自治体、公設機関等「官」との連携、融合化が成功のための最大のポイントとなっている。近年は、地域ニーズの把握、反映、地域住民の参加から「民」との連携、さらには、高齢化社会を踏まえ、医学、心理学、法学など、自然科学、生命科学分野との連携も進んでいる。

地域の抱える共通的な課題は、交通事故・渋滞等の道路交通問題、環境・エネルギー問題、公共交通の利便性向上、中心市街地の衰退、高齢化社会の急激な進展、地域産業の活性化等がある。これらは、いずれも「モビリティ(移動)」と密接に関連しており、次世代自動車(EV)の活用、次世代自動車の開発、次世代自動車産業による地域振興、次世代モビリティを活用した新しい交通システムの開発等が不可欠といわれる。これら地域課題の解決策として、産官学民連携で「次世代」をテーマに、千葉県柏市で次世代型環境都市(ITSスマートタウン)の実現~柏の葉地域ITS実証実験モデル都市を展開しており、東京大学ITSセンターは、「学」としての研究開発だけではなく、地域構成員の1人として積極的に参加している。ITSによる地域課題の解決の最大のポイントは、地域における産官学民の連携にあるので、次世代モビリティの研究開発、実証実験、実用化とともに、「産官学民連携の仕組みづくり」のモデルの構築、これからの産官学民連携の在り方についてのトライアルも行っている。

柏の葉地域ITS実証実験モデル都市プロジェクトとITSセンターの役割 ~最先端のITS技術の開発と研究成果の社会還元、産官学民の融合化
1. 柏の葉プロジェクトの目指す方向(図23
図2

図2 ゼロエミッションエリア実現への挑戦

社会還元加速プロジェクト「柏の葉地域ITS実証実験モデル都市」は、千葉県柏市の柏の葉地域を中心としたITSを活用した新しい街づくりである。柏の葉地域には、湧水を含む豊かで広大な緑地、東京大学、千葉大学の2つの国立大学、国立がんセンター、そのほか国立研究所など、「知」および「環境」に関する高質なポテンシャルが数多く集積している。ここで、最先端の情報通信技術、ITS技術を活用し、モーダルミックス、サスティナブルな交通移動を実現するための取り組み、次世代モビリティの可能性の検討・検証を行うことで、環境に配慮した次世代型環境都市(ITSスマートタウン)の実現を目指し、低炭素型都市交通の実現と、高齢化社会・都市構造の変化に対応したモビリティ確保をテーマにした、次世代ITSの実証実験・実用化をしようとするものである。全体としての「魅力ある街づくり将来都市像の設計」を中心構想に、具体的には、柏の葉キャンパス駅から東京大学柏キャンパスエリア周辺のゼロエミッションエリアの実現と、常磐道を含む北部柏市一帯でのITSスマートタウン実現に向けての壮大なプロジェクトになっている。

図3

図3 ITSスマートタウン柏の葉での実証実験イメージ

2. 世界最先端のITS技術・システムの開発 (図4

(1)次世代自動車の開発

図4

図4 開発中の次世代モビリティ

ゼロエミッションエリア、低カーボンエリアの実現には、既に開発された次世代自動車(EV)の積極的導入と急速充電器等のインフラ整備が必要であるが、今回のプロジェクトでは、4~5㎞の近距離移動のための次世代自動車として、「ちょこちょこ移動の1人乗りの電気自動車」キャパシタと、簡単なインフラで給電可能なワイヤレス給電システムを開発している。これはプラグインハイブリット、EVとの使い分けとして注目されている。また、高齢者向けモビリティとしてのパーソナルモビリティの開発、地域にマッチしたEVの開発、あるいは、高齢者向けのITS車両の開発、ロボット技術を活用した都市内物流効率化の検討もしている。

(2)次世代公共交通の可能性の検討

ゼロエミッションエリアを目指すモビリティとして、EVの導入とともに、低炭素型都市交通として、ジェットコースターの原理を応用した究極の省エネ型都市交通システム「エコライド」の開発と、従来は、カーブで直角に曲がれないために、交通流の乱れや街並みの二分化の課題があったLRT(次世代型路面電車システム)についても、直角に曲がれる次世代LRTを開発しており、実験線での実証実験を目指すとともに、柏の葉での導入の可能性についての検討を行う。

また、これからの低炭素型、高齢化社会のモビリティ確保のための二輪電動車、高齢者向け自転車、1人乗りEV等の開発も行う。

(3)次世代交通システムの開発

次世代情報通信(DSRC)を活用して、高速道路のサービスエリア、あるいは道の駅から渋滞情報を提供し、柏の葉キャンパス駅で公共交通のつくばエクスプレスに乗り換えてもらうための駐車場への経路誘導、時刻表、周辺店舗案内等のダイナミックパーク&ライド、駐車場の予約、駐車場の空きスペースへの誘導、自動駐車等の次世代駐車場ITS等も開発中である。また、高齢化社会を迎え、高齢者の移動の確保に向けて、路線バスとタクシーの中間的位置付けとしてのオンデマンドバスシステムの実用化に向けて、課題解決中である。EVの活用、パーソナルモビリティ活用とともに、「喜んで公共交通を活用してもらうシステムとサービス」を開発し、柏の葉キャンパス駅周辺のゼロエミッションエリア実現に挑戦する。

3. プロジェクトでのITSセンターの役割~研究成果の社会還元と産官学民の融合化に向けた「柏ITS推進協議会」の運営
図5

図5 柏ITS推進協議会(会長:池内克史ITSセン
    ター教授)

プロジェクト推進にあたり、産官学民が参加する「柏ITS推進協議会」(図5)を設置し、ITSセンターはプロジェクトの中核として、研究室での研究開発、企業との共同開発とともに、実証実験、実用化に向けて産官学民の融合化の役割を担うとともに、全国でのITSセミナー、シンポジウムでの情報発信により、研究成果の社会還元を積極的に行っている。

会長と6部会長をITSセンターから出しており、各部会ごとに民間企業、行政、学、民が入ることにより、市民の声、企業の声の行政への反映が可能な組織となっている。推進協議会の目的は、社会還元加速プロジェクトの研究開発・実証実験・実用化、産官学連携による世界最先端ITS技術の開発、プロジェクト終了後の実用化・事業化の継続、地元中心の産官学民の組織による地元のためのITSの定着化、ITSの事業化による新産業の創造と地域産業の活性化、社会還元加速プロジェクトの他地域との連携にあり、組織とプロセスが国内外の産官学民連携のモデルになることを目指している。

最終目標としては、2013年に東京で開催される「ITS世界会議2013東京」のテクニカルショーケースとして、産官学民が連携した「柏の葉地域ITS実証実験モデル都市プロジェクト」の成果を世界へ情報発信するとともに、これからモータリゼーションを迎える国々、新たな都市づくり、国づくりをする国々、環境・エネルギー問題の解決に熱心な国々等、中国、インドを中心としたアジア諸国への社会貢献と、柏地域での都市創造産業の創出による産業振興に向けて、ハードとソフトとノウハウのパッケージ輸出に結び付けたいと考えている。