2010年11月号
特集1  - 発進 次世代自動車
若い技術者、研究者にチャンスを与える環境を
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大聖 泰弘 Profile
(だいしょう・やすひろ)

早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科長、同環境総合研究センター所長、教授


部品、素材を含めわが国の自動車産業の高い技術力を今後も維持発展させていくためには、若い技術者、研究者が夢を持って研究開発に専念できる環境を整えるとともに、彼らにチャンスを与えることが重要である。この分野の人材育成体制の充実は大学の責務である。

環境・エネルギーにかかわる多様な技術に取り組む

わが国の自動車技術は、過去30年にわたる厳しい排出ガス規制と燃費基準への適合を通じて大きく進展し、世界をリードするとともに、基幹産業としての確固たる地位を築くに至っている。そして今、自動車には、地球温暖化対策、省エネルギー、脱石油、エネルギーの多様化等の重要なテーマが課せられ、その有力な切り札としてハイブリッド車や電気自動車等の次世代自動車が注目されている。そのような状況にあって、その本命は何かといった議論に陥りがちであるが、現時点ではエンジン技術も含めて多様な選択肢があり、まずは産学官が協力して、それらの性能向上の可能性を追究すべきであろう。

そのような観点から、私は、創造理工学研究科の草鹿仁教授、環境・エネルギー研究科の紙屋雄史教授とともに、学内に早大モビリティ研究室を組織して多様な課題に取り組んでいる。具体的には、各種エンジンの燃焼、排気浄化、高効率化、新燃料の利用に関する研究から、燃料電池の発電機構、電池の充放電特性、さらには燃料電池車、ハイブリッド車、電気自動車等の試作と性能評価まで、基礎から応用にわたって幅広く研究している。

産学官で将来の研究課題を探る

これと並行して、自動車やエネルギーの関連企業50社、学内外の研究者とともにモビリティ研究会を組織して活動している。この研究会では、会員制として、将来の自動車にかかわる環境・エネルギー技術やモビリティに関する最新情報の交換や研究発表を定期的に開催し、毎年公開シンポジウムを企画して将来技術の情報発信を行っている。そのような企業や中立の研究機関とは、個別の共同研究や受託研究を実施し、嘱託研究員や社会人修士・博士課程生を受け入れるとともに、学生を研究員として派遣するといった交流を進めている。一緒に研究に取り組む学生諸君にとっては、社会や企業のニーズや応用から実用化に至る手法を身近に学べるなど、好ましい刺激を受け、将来の進路を真剣に考える機会にもなっている。

本研究室では、公的な研究助成によって導入した大型設備や、企業から貸与された動力システムや電動系コンポーネント、車両等も重要な研究手段として活用している。そこで得られたデータを基にして性能を予測する数値シミュレーションモデルを構築し、各種の現象解明や性能評価、さらには設計支援ツールとして、企業や研究機関でも利用可能な手法を開発し提供することを最も重要な役割として掲げている。このように、大学における工学系分野の研究の在り方と役割としては、社会や企業のニーズを認識しながら、基礎から応用へと進む研究プロセスを実践することが重要であり、そのような活動を通じて、環境・エネルギーにかかわるエンジンや電動車両の将来の方向性を構想することが可能となる。

若い研究者・技術者に夢とチャンスを

現在、わが国の自動車産業は、完成車メーカーはもとより、関連する部品、素材・材料を含めた高度な総合力が維持されている。それには、この分野の成長に期待する多くの有能な人材を受け入れてきたことが背景にあることを強調しておきたい。今後も技術力を維持発展させていく上では、若い技術者、研究者にチャンスを与え、夢を持って研究開発に専念できる環境を整えることが不可欠である。ちなみに、将来技術の開発は、今年学窓を巣立ち、2050年にちょうど定年を迎える卒業生諸君の双肩に掛かっていることを付言しておく。

そこで今、環境・エネルギー技術の開発を最重要テーマとして、産学官が連携することが不可欠である。具体的には、2020年から2050年をにらんだ国の中長期展望の提示と研究支援、企業からの将来に向けた技術戦略の発信と有能な人材の登用、教育機関におけるこの分野の人材育成体制の充実、といった役割分担を強化しなければならない。

今後の新興国を中心とするモータリゼーションの進展は、資源枯渇の時期を早め、温暖化をさらに助長するものと懸念される。また、これらの国のメーカーは、従来技術を取り込みながらわが国のメーカーを急追している。そこで今、わが国が、輸送技術分野における先進技術によって自国の繁栄と国際貢献をいかに果たせるかが問われており、それに応えるには、産学官の緊密な連携が大きな鍵となることを重ねて指摘しておきたい。