2010年11月号
特集2  - 復興宮崎 熱く
口蹄疫被害と復興に向けた人文社会系の産学官連携の可能性
顔写真

根岸 裕孝 Profile
(ねぎし・ひろたか)

宮崎大学 教育文化学部 准教授



大学が住民との協働で地域固有の価値を発見し再構築する。「実践的コミュニティビジネス論」などで試みている筆者が、口蹄疫被害からの復興を、人文社会系の産学官連携の視点から探る。

はじめに

平成22年4月に最初の口蹄(こうてい)疫が確認されてから宮崎県は甚大な被害に見舞われ、その対策に追われた。そして8月27日の終息宣言以降、復興への取り組みは加速化しつつある。宮崎県の口蹄疫の被害とともに復興に向けた人文社会系の産学官連携の可能性について言及したい。

口蹄疫の被害

宮崎県が8月に公表した口蹄疫被害額(推計)は、畜産およびその関連産業で約1,400億円、イベントの中止や観光客の減少等の影響により約950億円の合計2,350億円にも達した。殺処分を行った牛豚計約28万頭は県内飼育のそれぞれ約4分の1であり、その被害は川南町を中心とした児湯郡内に集中した。口蹄疫の被害には以下のような2つの特徴がある。

1. 道路等の通常のインフラや人家への影響が大きい地震や風水害等とは異なり、家畜等の生産基盤への被害が中心である。
2. 風評や非常事態宣言による各種行事の自粛は、宮崎県内の観光や商業はじめ他産業へ幅広い経済的被害をもたらした。

口蹄疫ウイルスという見えないものに対する人々の警戒感は、過剰な風評や自粛ムードを生み出した。宮崎ナンバーのトラック出入り禁止、ウイルス発生地域内の人の出入り自粛による営業機会のロス、県外からの受注・商談の中止・延期、隣接県における公共施設の宮崎県関係者の利用禁止、飲食店の売り上げの大幅減少など県内の事業者や県民生活に大きな影響をもたらした。

口蹄疫の被害は、「経済的被害」のみならず対策に追われる「行財政被害」、発生地域内に利害対立や地域行事の自粛・中止による「社会的被害」、被害農家や殺処分にかかわる行政職員の「精神的被害」、殺処分による埋設にかかわる地下水や悪臭等の「環境的被害」も発生した。

復興への取り組みと人文社会系の産学官連携

8月の終息宣言を踏まえ、復興に向けた取り組みが本格化し始めた。宮崎県は、終息宣言前の8月19日に「口蹄疫からの再生・復興方針」を提示し、 [1]早急な県内経済の回復、県民生活の回復  [2]全国のモデルとなる畜産の再構築(本県畜産の新生)  [3]産業構造・産地構造の転換、を示している。

図1

図1 口蹄疫被害の把握と復興に向けた目標づくり

口蹄疫発生に伴い、地域の活力は大幅に落ち込み、風評被害により観光地としてもダメージを受けた。その復興に向けては、図1に示すような現状復帰の「復旧」ではなく、今まで以上の復興・新生に向けた目標と手法、時間軸をいかに設定するかである。

口蹄疫被害により殺処分を余儀なくされた農家や関係者の精神的な苦痛のなかで、今後の地域振興を考えるときのキーワードは「生きる」であると思われる。「命」や「生きる」ことの大切さを踏まえ、自然との共生とともに「みやざき」の地に生まれ、そして生活することの喜びや誇りを再構築するかである。

そうした地域の固有価値の再発見・再構築は、住民と人文社会系領域を持つ大学による協働作業によるところが大きく、その協働に向けた関係性の構築とその成果が期待される。

その模索の1つとして筆者は2つの取り組みを実践している。1つめは昨年度に宮崎大学教育文化学部において開講された「実践的コミュニティビジネス論」である。本年度は当初、世界的に希少な照葉樹林に価値を見いだし、その保護と再生に取り組む綾町におけるコミュニティビジネス事業の提案を行う予定であった。地域の価値にかかる学習のための現地調査を予定していたが、口蹄疫発生により感染拡大防止の観点から中止し、急きょ口蹄疫復興に向けたソーシャルビジネスの事業として2つの提案を公開の場で実施した。学生たちからは、「農業・行政関係者対象の口蹄疫感染・拡大防止研修ツアー」や「市内大学の連携による中心市街地活性化事業」の提案が行われた。これに対して観光事業者、行政、NPO関係者から活発な質問・意見が出され、地元紙にその模様が掲載される等、学生による復興に向けた事業提案は市民の関心を集めることができた。

2つめは、本年度後期から共通教育科目として4学部(教育文化・医・農・工)の1~2年生を対象に初めて開講した「みやざき観光論」である。観光みやざきの再生に向けて大学生が地域の価値を学習し、地域ブランド価値の向上と観光の在り方を考える授業である。ゲスト講師として多くの地方自治体・同観光関係団体・NPO等のトップや担当者を招くとともに、希望者向けに観光ガイドボランティアの案内も行う予定である。さらに学生は自ら観光地を訪問し自ら観光地の魅力を取材し紹介するレポートの提出を行う予定である。またゲスト講師が自らの観光まちづくりの取り組みをPRし、それに関心を持つ学生たちが自らの地域を学習するとともにボランティアとして地域づくりに参画する双方向の関係性の構築を目指している。

これらの2つの授業を通じた大学と行政・民間との連携はまだ試行錯誤であるが、宮崎県内にソーシャルビジネスが広がる土壌づくりにつながると考えている。