2010年11月号
連載4  - 東北テクノアーチ 12年の歩み
(上)
ランニングロイヤリティで経営安定
顔写真

井硲 弘 Profile
(いさこ・ひろし)

株式会社東北テクノアーチ
代表取締役社長


再編が相次ぐなど大学のTLO(技術移転機関)が転機を迎えている。東北地方の広域TLOである株式会社東北テクノアーチは設立から12年が経過。経営は順調である。これまでの歩みを振り返り、将来を展望する。

はじめに

大学等の研究成果を民間企業に技術移転することによる新たな事業分野の開拓、産業技術の向上および技術移転による収益を研究者、大学に還元して、研究活動の活性化を図る目的で、平成10年5月に「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」、いわゆるTLO法が成立した。

この法律に基づき、その実行を担うべく全国の大学にTLO(Technology Licensing Organization )が設置され、活動を続けており、本年9月現在では46TLOに達する。

これらのTLOは、設置形態が大学外部型と大学内部型に分類され、外部型の組織形態は株式会社、財団法人などさまざまであり、また知財を取り扱う対象大学数からは単一型と広域型に分類される。

株式会社の広域TLO
写真1

写真1 東北テクノアーチのメンバー 前列左が筆者

株式会社東北テクノアーチ(以下TTAと略す。)は、設置形態として外部型であり、組織形態としては株式会社(株主は大学等教官)で、東北地域大学の知財を扱う広域TLOとして平成10年11月5日に設立された。当時、国立大学に法人格は無く、設置形態としては外部型以外の選択余地はなかったのである。

また、株式会社組織としたのは、事業実施にあたり、自己資金による運営ができること、意思決定が速やかにできることなどを考慮したこと、かつ株主の同意(=株主間契約書を締結)が得られればNPO的な事業活動ができるという、株式会社形態が持つ柔軟性を最大限活用しようとしたことによる。この判断は少し世の中の常識から先んじていたため、大学の研究者のなかには利益法人である株式会社が大学の中に入ってくるのかという違和感を抱かせることになってしまったが、最近の経営学では、こうした株式会社形態が持つ柔軟性を評価して、株式会社を「超企業形態」などと定義付ける研究成果が報告され始めている(日本経営学会編『社会と企業:いま企業に何が問われているか』千倉書房、2010年9月)。

TTAは、設立以来、株主、研究者、関係する皆さまのご指導とご支援をいただき、活動を展開した結果、「平成17年度産業財産権制度活用優良企業等表彰」を受賞し、また平成20年には、10周年記念式典を挙行することもできた。

現在、次の新たな10年に向けて若手人材の採用・育成、海外への活動の展開などを進めているところである。

清算、再編が相次ぐ

一方、TLOを取り巻く環境としては、私立大学ではTLO法施行当初から学内にTLOが設置され、国立大学では学外にTLOが設置されてきたが、平成16年4月に国立大学が法人化されるとともに多くの国立大学に知財部が設置された結果、知財部とTLOとの機能の重複が産業界などから指摘され、さらには一部TLOで、技術移転による収入の低迷と経営の厳しさに伴い清算、再編されるTLOが相次いでいる。

しかしながら、産学連携の従来からの姿である共同研究のハードルの低さに比較すると、TLO法の目的である技術移転のハードルはそもそも高く、学外あるいは学内のいずれのTLOなどの組織でも、そのハードルを乗り越えるためには格段の組織能力が必要とされる。今後ともTLO自身の努力は当然のこととしても、関係者の皆さまからの一層のご理解、ご支援、ご協力をお願いしたい。

TTAはTLO法に則り、創業以来技術移転に特化した活動を実施しているところであり、本稿ではその活動状況の概要を以下にご紹介させていただくこととする。

技術移転特化の活動に注力

TTAは創立以来技術移転活動ポリシーを「大学等の研究成果を知財化し、産業界への技術移転を通じて具体的な商品として社会へ提供する」として活動を展開してきた。創業直後は関連する諸官庁から委託調査事業なども受けたこともあり、その収入は経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)なTTAにとり魅力ではあったが、調査報告書の作成や会計検査院への対応などに多くの時間をとられることとなり、肝心の技術移転活動に支障をきたすことが目に付くようになったため、社内で議論の結果、これらの調査事業の受託等はやめ、厳しいが技術移転それも技術ライセンスに特化した活動を展開することとした。

技術ライセンスを成功させるためのハードルは高いが、TTAの技術移転ポリシーを実現するためには、技術ライセンス活動に特化することとして以後事業を進めてきた。

技術移転の形としては、技術ライセンス以外に特許ライセンス、ベンチャー設立、M&Aなどがある。

技術ライセンスは、ライセンサーがライセンシーに提供するものは特許とノウハウになることが多く、特に大学からの技術移転は基礎研究からの知財が多いことから、その商品化には、大学と企業との共同による応用研究、さらには企業による開発研究が必要となる。

また、ノウハウも研究者が保持していることが多く、特許さえあれば技術移転は進むとはならないケースが大半である。

一方、この技術ライセンスの対極にある特許ライセンスは、ライセンサーが保持する特許を振りかざして、ライセンシー候補に対して「権利侵害」と迫る形で権利行使することにより、収益をあげることを主目的とする。米国などでは、民間企業が事業として行っており、知財を集約してこのような権利行使をするパテントトロールもこの類となる。

これに反して、技術ライセンスは、成果を得るまでに開発要素も多く、また開発に要する時間もかかり、かつ開発ができたとしてもその時点で市場の要求に合わなくなる懸念もあり、事業としてはリスクが高いため、彼らはこの技術ライセンスを扱わない。

米国大学の技術移転機関(OTL;Office of Technology Licensing)は上記の権利行使も行っているが、主体は日本のTLOと同じく技術ライセンスを行っている。

また、米国OTLでは大学と企業との共同研究などの契約、ベンチャー支援、大学からの基礎研究に基づく応用研究の支援など、産学連携に広範囲にかかわっていることが多いことも特徴である。

TTAが行ってきた技術ライセンスの実績

TTAが創立以来行ってきた技術ライセンスの結果、平成22年3月時点では、188件の実施許諾を行い、このうち79件が実用化されるに至っている。

また、経営的には、実施料収入として実施許諾に伴う契約一時金と共に、商品化、販売されることによるランニングロイヤリティがあり、年々このランニングロイヤリティ収入の比率および金額が増加しつつある。ランニングロイヤリティによる収入は経営基盤を安定させるとともに、TTAが目指している技術移転活動ポリシーを具現化するものと考えている。

商品化、販売されている例として、次の4つを示す。

1.
図1

図1 鋳造シミュレーションソフト「ADSTEFAN」

鋳造シミュレーションソフト「ADSTEFAN」(図1
ADvanced Solidification TEchnology for Foundry Aided by Numerical simulation
東北大学安斎浩一教授の研究成果を著作権として株式会社日立製作所日立研究所にライセンスし、鋳造時の液体金属の流動現象と熱伝現象を数値解析するための鋳造シミュレーションシステム「ADSTEFAN(アドステファン)」が商品化された。
2.
図2

図2 高速粉体反応装置

高速粉体反応装置(図2
宮城工業高等専門学校の丹野浩一教授(現、一関工業高等専門学校長)の開発した、シンプルな構成で高速メカニカルアロイングが行える装置に関する特許を、株式会社真壁技研および株式会社アーステクニカにライセンスし、粉砕エネルギーの高効率化、高い処理速度、不純物縮減、高い粉体回収率を活かした、高速で微細に粉砕できる新しいタイプの装置が商品化された。現在、木質バイオマス、水産バイオマスの微粉砕にも非常に有効な装置であることがわかっており、本装置の導入による未利用バイオマス資源の有効活用へ向けた応用展開も始まっている(特許第3486682号、特許第3533526号)。
3.
図3

図3 超臨界水ナノ粒子合成装置「MOMI超」

超臨界水ナノ粒子合成装置 「MOMI超」(図3
東北大学新井邦夫名誉教授・阿尻雅文教授らが発明した、超臨界二酸化炭素中や超臨界水中で無機系微粒子を製造する装置に関する特許を、株式会社アイテックにライセンスし、凝集のない結晶化度の高いナノ粒子を連続かつ高速に製造できる装置が商品化された(特許第3557588号・US7335296)。
4.
図4

図4 足漕ぎ車椅子「Profhand」

足漕ぎ車椅子「Profhand」(図4
東北大学半田康延客員教授らの成果を株式会社TESSにライセンスし、脳卒中で半身が麻痺した方、腰痛・膝関節痛などで歩行困難な方でも、自身の両足でペダルを漕ぎ自由に走り回ることのできる最先端のチェアサイクル(足漕ぎ車椅子)が商品化された。本足漕ぎ車椅子は、前輪駆動・後輪ステアリング機構の採用により“その場旋回”が可能であり、自宅内やエレベーターの中でも自由に向きを変えることが可能。「Profhand」は、2010年6月に、厚生労働省所管の財団法人テクノエイド協会において介護保険対象福祉用具として登録された。介護保険の適用が認められたことから、今後ますます多くの方々に使っていただける機会が増えると期待している。

中には実施許諾契約を締結し、発明者の支援の下に開発を進め、試験機および実用機を製造し、その事業化まで進んだものの、ライセンシーサイドの経営的な判断により、その事業が中断となった残念な例もある。

技術ライセンスを成功に導くには、まずは良いシーズに巡り合うこと、そのシーズを必要とする企業を探し出すこと、また応用研究に際して発明者の協力が得られ、さらにはライセンシーである企業の事業化に対する意欲が強いことなど、多くのハードルを乗り越える必要がある。

また、実施許諾契約を締結してから応用研究が、またその先に企業による開発研究が始まることとなるので、商品化までの所要期間が3年や5年、ものによってはさらなる長期を要することから、関係者の持続的なかかわりが不可欠であり、TLOのコーディネータとしての熱意、能力などが問われることとなる。