2010年12月号
特集1  - 知りたい四国
産学連携によるナノピンセットの開発

杠 明日美 Profile
(ゆずりは・あすみ)

アオイ電子株式会社
第1技術本部 MEMSグループ


アオイ電子が香川大学の技術をもとに開発したナノピンセットは、1~数十μmのサイズの物体をつかめる極小のピンセット。昆虫の触覚のように、ナノピンセットの先端をセンサー化して、物体との接触を判定している。

アオイ電子とMEMS

アオイ電子株式会社(香川県高松市)は1969年の設立。電子部品製造会社としてスタートし、現在は半導体ICや半導体モジュールの後工程(パッケージング~電気特性テスト)やサーマルプリントヘッド等を主力製品としている。

写真1

写真1 ナノピンセット先端

1997年に香川大学工学部が設立されたことを機に、当社はMEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)の研究開発を始めた。香川大学工学部にはMEMS技術に秀でた先生方がおられ、快く指導していただいた。それ以来、香川大学工学部とは密接な技術交流が続いており、多くの技術指導を受けている。

中でもDNAピンセットを発明された橋口原教授(現静岡大学)の技術が当社のナノピンセット開発の原点となった。ナノピンセットとは、1~数十μmのサイズのものをつかむことに特化した、静電アクチュエータで開閉する極小のピンセットである(写真1)。

ナノピンセットの始まり

先述の、DNAピンセットの技術を応用することでミクロンサイズの物体をつかめるのではないかというテーマが社内で持ち上がったのは、取引先からの要望がきっかけだった。半導体関連の企業が、ミクロンサイズの物体をつかめるツールが欲しいと相談してきたのである。

ナノピンセットの開発は、次のような技術に関して橋口教授をはじめとする先生方の助言を受けながら進めた。

ナノピンセット部をつくるためのMEMSプロセス技術
ナノピンセットをコントロールするための制御回路技術
最適な構造を設計するためのMEMS設計技術

製品化構想から設計、試作、動作試験、装置への組み込み実験等を進め、試行錯誤しながら4年間かけて製品化へこぎ着けた。

幅広い用途の可能性

ナノピンセットは、顕微鏡やマニピュレータと組み合わせて使用することができる。特徴としては、3つ挙げられる。

1つ目としては、櫛歯型の静電アクチュエータを用いていること。静電アクチュエータは制御性と高速応答に優れており、電圧の印加速度により開閉速度が決まるため、硬いサンプルから柔らかいサンプルまでつかむことができる。

2つ目は、ナノピンセットの表面には撥水処理が施してあること。空気中の水分の付着を防ぎ、ほこりなどがナノピンセットに付着するのを最小限に抑えている。

写真2

写真2 トナーをナノピンセットでつかんで移動

3つ目は、ナノピンセットの先端を平行に開閉できるようにしたり、Z方向の先端の合せ精度を1μm以下にしたりといったミクロンサイズを扱うための工夫が施してあること。このように、さまざまなミクロンサイズのサンプルを取り扱って培ったノウハウが盛り込まれている。

このナノピンセットのアプリケーションとしては、半導体やディスプレイなどの歩留り向上を目的とした異物の除去、トナーや結晶などの材料の評価、細胞の搬送など幅広い分野がある(写真2)。

ピンセットそのものをセンサー化

先述の、最初に開発したナノピンセットの場合、サンプルへアプローチする際に、顕微鏡で試料を上部から見ながら操作をする。この方法だと高さ方向の情報が少ないので、人が目視で確認しながら、顕微鏡を手動で操作することが必要となる。

このため、半導体などの工場で使用されている自動機への対応が困難であった。そこで、橋口教授と共にナノピンセットに接触センサー機能を追加するための研究、開発に取り組み、2010年春に実用化に成功した。

接触センサー機能を追加すると言っても、接触センサーを取り付けたのではなく、ナノピンセットそのものをセンサー化したのである。この原理は昆虫の触覚の動きに良く似ている。まず、ナノピンセットの先端を微小に振動させる。先端が物体に接触すると、物体との摩擦により振動が変化する。この変化を検知して接触を判定している*1

この原理を用いることで、接触する物体の電気特性に影響を受けずにナノピンセットが接触したことを検知することができるようになった。

これにより、今後、自動機への搭載、工場内での使用という新たな市場へのアプローチができるようになったのである。現在、装置メーカーと共同で自動機への搭載を試みている。

新たな共同MEMSプロジェクト

現在、ナノピンセットの開発で培った技術を基に、センサーなどさまざまな製品の開発を行っている。

さらには、香川大学工学部とも新しいMEMSプロジェクトを立ち上げている。今後も、香川大学等と産学連携を深めながら新製品の開発を行っていく。

*1
2008年電気学会発表。予稿集に掲載。