2010年12月号
特集2  - 第2回イノベーションコーディネータ表彰
功労者賞 稲村實氏
ソフトパワーでニーズオリエンテッド型連携を
顔写真

稲村 實 Profile
(いなむら・みのる)

岡山県立大学 地域共同研究機構
客員教授


●受賞理由
1998年に「ニーズオリエンテッド型」を提唱し実践してきたことは、その後の全国の産学連携活動方針に多大な影響を与えた。また人材育成も含めた地道な活動は高く評価できる。

学生時代、夏休みに実習先の工場で、進水前夜工事における造船工作部長や、富士山頂台風観測レーダーの製作での製造課長の陣頭指揮ぶりに感銘を受けて、将来は彼らのようになりたいと思い定めた。2人は大組織の長だったが決してハードパワー*1のみを発揮するのでなく、しばしば生起する突発的な事柄に対して的確な対策をまとめ実行していくスマートパワー*1の持ち主だった。私は彼らの仕事振りを通して、ソフトパワー*1の威力に気付いた。

黒子としてリーダーシップを発揮

企業を“卒業”後、縁あって岡山県産業振興財団で、科学技術振興機構(JST)の地域研究開発促進拠点支援(RSP)事業*2を皮切りに8年余りコーディネータを務めた。職場に毎日のように持ち込まれる技術相談に対応して、県下にくまなく足を運んだ。多くの企業人と顔を合わせて企業ニーズを拾い上げては学・官の研究者にぶつけ、共同研究等に結び付けた。

企業人としての経験から「主役は企業」という信念で、シーズからではなく、ニーズ起点の方が研究開発の成果を容易に事業化できると確信して連携活動を進めた。

職場では飛び離れて年長の新参者だったが、県下の企業・官庁・銀行からの出向組も含めた若い同僚のエネルギーをもらいながら、いつも黒子として楽しく仕事をさせていただいた。財団卒業後もJSTの「技術移転に係わる目利き人材研修プログラム」や「産学官連携ジャーナル」等のお手伝いなどで人的ネットワークを全国規模に広げ、後継者育成の切り口で、ささやかながら社会貢献ができたのかなと思っている。

あくまで黒子として、ソフトパワーによるリーダーシップを発揮してきた私のやり方*3は、お奨めできるコーディネート方法の1つと考える。

市井の人・劉邦*4よりも能なしの私を支えて下さった大勢の「粛何・周昌」のような諸兄姉に心から謝意を捧げる。多謝!多謝!

*1
ハードパワー、ソフトパワー、スマートパワー(=ハード+ソフトパワー)は、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授によるリーダーシップの分類態様。なお、ここで言うソフトパワーとは、人間関係維持能力、カリスマ性、自己認識力、自己抑制力を有し、加えてコミュニケーション能力として説得力、象徴性、模範となるような言動、相手に対する影響力、大勢を魅了するようなビジョン・構想の企画力を有し、思考力と実行力がバランスしている能力。

*2
事業終了後は県独自でコーディネータ事業を継続した。

*3
http://sangakukan.jst.go.jp/journal/center_contents/author_profile/
inamura-m.html

*4
茲では沛県豊邑中陽里時代の劉邦を指す、より優秀な粛何・周昌達の支援を得て後に漢の高祖となる。