2010年12月号
連載4  - 会社を辞めたら社長になろう
第5回 三鷹市のSOHO起業例(4)
研究開発型ベンチャーも登場
顔写真

前田 隆正 Profile
(まえだ・たかまさ)

SOHO CITY みたか推進協議会
会長


SOHO(Small Office Home Office)起業の支援のノウハウを解説し、成功したSOHOを紹介する連載の最終回。わが国でも、いまこそ技術を中心に、日本の成長を支える革新的なビジネス・事業を誕生させる必要がある、と説く。

革新的なビジネスの誕生

SOHOは、1人で何でもこなすので会議も無く、決断が早く、小回りが利き、最小の開発費、最短の期間で目的のものを開発することができる。

今日のように経済状況が右肩下がりになると、既存の企業では、研究や開発に資金や人員を注入することが難しくなり、技術革新や革新的なビジネスは生まれにくくなる。そこで、新しい技術革新や革新的なビジネスを生み出すにはSOHOスタイルが最適になるのではないか。日本も米国のシリコンバレーと同じ状況になり、この面でも米国にやっと追い付いたのかも知れない。

本号では、三鷹市のSOHOの中から最近現れたシリコンバレーで見られるようなベンチャー3社を紹介する。

有限会社遊造 代表取締役 古賀祐三氏

1993年、バックパックで行った米国・アラスカで、いきなりオーロラの大爆発に遭遇、以後の人生をオーロラで食べていく決意をしたのが古賀祐三さんである。日本大学大学院理工学研究科機械工学専攻を修了。東芝でSEとして働いていたが、2000年に脱サラして個人事業「遊造」として独立、2001年・2003年@niftyホームページグランプリ最終ノミネート、2004年愛・地球博ホームページコンテスト優秀賞、2005年クライアントへの納入物で文部科学大臣賞を受賞した。その間、2003年に法人化し「有限会社遊造」となった。

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Live!オーロラ(アラスカ大学)

2006年、「Live!オーロラ」をスタート。「Live!オーロラ」は、アラスカ大学の屋上に特殊カメラを3台設置、古賀さんは三鷹の中継基地からの遠隔操作でアラスカ大学屋上のカメラを自由自在に動かしてオーロラを捕まえ、ネットや科学館などに送出する。2006年11月、世界で初めて世界中にオーロラの動画を生中継。この「Live!オーロラ」公式サイトの月間アクセス数は720万ページビュー。 2008年、日本科学技術ジャーナリスト会議の「科学ジャーナリスト賞」を最少年で受賞、同年コロムビアミュージックエンタテインメントからDVD 2本をリリースしている。

オーロラのシーズンは、秋・9月ごろから翌年の春・4月末である。春・4月末からの北極域は夜のない白夜になる。1年を通して、企業・研究機関などへ「Live!オーロラ」を通じて、同社が開発したシステムの販売、受託開発、広報活動、広報プロデュースなどを行っている。

全世界へこれらのコンテンツを配信するのはこれからである。メディアなどと組んでどのような展開をするのか、これからがベンチャーの真価が問われているが、無限の可能性がある。

有限会社ミウラテック 代表取締役 三浦徹郎氏

三浦さんは、横河電機株式会社のOBである。風力発電は、風の強いエリアに大きなプロペラをつけた風力発電塔を施設しているが、風の強いときにプロペラが発する100ヘルツ以下の低周波ノイズが、建物を振動させたり、不快感を引き起こす健康被害をもたらし問題になっている。この原因である低周波ノイズを測定するため、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が強風時にマイクロホンを風から守る「全天候型風防スクリーン」の設計提案を募集した。この時、採択されたのがミウラテックの提案である。三浦さんは、三鷹市内の中小企業6社に部品を発注、2009年の年末からこれらの部品を徹夜で組み立て、2010年1月6日正午、この風防装置15個をNEDOに納入した。ちなみに、これらの風力発電塔は、日本全国に1,500基あるとのことであるが、世界では何基になるのだろうか。

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有田川風力発電

また、三浦さんは、ご自身が開発された台湾新幹線の線路の摩耗を走行中に検出する「音響計測機」も納入している。

三浦さんは「1人での仕事は時間は短縮できるし、会議もしなくていい。数秒で決定でき、テンポよく仕事ができる」と語る。三浦さんにとって、起業は「定年後に始めるダンスと同じ」「やりたいことをする」だけだそうだ。三浦さんは、中国の工場を指揮した経験から、「品質も納期も確かな日本でモノは作るべきだ」という信念をお持ちである。

杉山卓事務所 代表 杉山卓氏

杉山さんも横河電機OBである。現在85歳。三鷹市SOHOパイロットオフィスが開設された当初からの入居者である。当初から、環境問題解決の提案をされてきた。すなわち、太陽電池を工場の屋根に取り付けて井戸水をくみ上げ、災害時の水の確保を図るシステムや太陽電池パネルで太陽を追尾し外灯をつけるシステムなどである。

杉山さんが開発し特許を取得した「太陽光発電の街路樹灯」は、薄膜太陽電池を木の葉状に加工し、それを数十枚積み重ねて街路樹の木の葉部とし、その下に発光ダイオードを設置、これらを高さ3メートルのポールの上部に付け、ポールの下部に蓄電池部を付けたものである。2008年度、三鷹ネットワーク大学の協働実証実験に取り上げられた際、補助金50万円に対し杉山さんは自己資金200万円を追加して、第1次試作を行った。

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有田川風力発電

この第1次試作品の耐久試験を横河電機の正門前で行っていたところ、社長の目に留まり、横河電機もこの試作に参加することになった。2009年度は、三鷹ネットワーク大学の協働実証実験には横河電機も加わり、第2次試作を行い、デザインを一新した試作品が出来上がった。この街路樹灯は、晴天後4日間日照がなくても夜間照明を続ける検証を得た。

この第2次試作品は現在、三鷹市役所中庭に設置され、耐久試験を行っている。今後、杉山さんの「太陽光発電の街路樹灯」が横河電機で量産され普及することが予想される。

SOHO起業のすすめ

三鷹市は「SOHO CITYみたか」を宣言してから12年が経過し、今まで述べてきたように資本を掛けず、しっかりした事業計画を立て、初年度から黒字経営を目指すことを前提にしたSOHOの起業を指導・支援してきた。手掛けたSOHOが250社になって、はじめて米国のベンチャーと類似のベンチャー 3社が生まれてきたことになる。これからの日本は、技術を中心に、日本の成長を支える革新的なビジネス・事業を誕生させ、それによって雇用を確保する必要がある。そのためにも、日本中にSOHOを起業する風土を醸成する必要があると考える。

日本では、不況などの原因で失職し就業できない40歳以上の人たちと、大学を卒業して進学も就職もしなかった人の8万7千人(今春4年制大学卒業者の16.1%)は、自らSOHOを起業しても良いのではないのだろうか。就業できないピンチをSOHO起業のチャンスに転換する好機ではないだろうか。

このSOHOの起業・成長には、必ずその育成・アドバイスが必要である。米国では退職した経営者で組織する「SCORE(Senior Corp Of Retired Executive)」が全米で起業者を育成・支援している。三鷹市では市内で起業したSOHOの先輩がメンターとして、同市で新しく起業する人、または起業したSOHOを育成・支援している。これからSOHO起業を推進・支援しようとする自治体は、必ずSOHOを育成・支援する体制を整えてほしい。それにはまず、地元に在住する現職を退いた経営者にその任に当たっていただくのである。

日本でSOHOの集積を行う場合、株式会社まちづくり三鷹のような公的機関(以下「公」という)が起業を支援し、公の信頼をベースにSOHOを誕生させるのが良いのではないだろうか。ただし、公に強く依存するSOHOではなく、公の役割はそれぞれのSOHOが自立するのを下支えする支援に留めるべきである。例えば、公は起業の徹底した指導、SOHOオフィスの支援、あるいは顧客とのミーティングスペースの提供や起業・会計・経営・法律・特許等の無料相談などである。SOHOが早期に自立することを促すのが支援の目的である。

(本連載は今回で終わります)