2011年1月号
特集  - 大学特許の活用戦略
大学における技術移転・産学連携活動の動向
~基礎的情報と知財権活用に向けた課題の整理~
顔写真

西村 由希子 Profile
(にしむら・ゆきこ)

東京大学 先端科学技術研究センター 助教
京都大学 物質ー細胞統合システム拠点
客員講師

受託研究と共同研究の件数・研究費受入金額、発明届出件数、特許出願件数、特許実施件数・収入など大学の知財権活動のデータを紹介し、大学における技術移転・産学連携活動の課題について検討する。

大学における技術移転・産学連携(産連)活動は、従来から実施されていた共同・受託研究に加え、特許出願・技術移転(ライセンシング)・ベンチャー起業と、この10年で大きな変化を遂げている。本稿では、主に知財権(特許等)活用動向の基礎的情報を紹介するとともに、今後の課題について論考する。

大学における産学連携制度は、1983年に「民間等との共同研究」として正式に開始された。1990年代から国立大学法人化(以下、大学法人化)が実施された2004年までの期間には、多くの関連法・施策が制定され〔科学技術基本法(1995)、科学技術基本計画(1996)、大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(大学等技術移転促進法、以下TLO法)(1998)、産業活力再生特別措置法(1999)、産業技術力強化法(2000)等〕、大学発知的成果の組織的管理活用制度が積極的に導入された。

過渡期の知財マネジメント組織

2002年に施行された知的財産基本法には、大学発知的成果創造と社会貢献について、「大学等は、その活動が社会全体における知的財産の創造に資するものであることにかんがみ、人材の育成並びに研究及びその成果の普及に自主的かつ積極的に努めるものとする」と記載されている*1。また、2003年の国立大学法人法には大学法人の義務として、「当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること」が定められている*2

同年、文部科学省は「大学の知的財産の帰属については、従来の個人帰属原則のもとでは活用が不十分であったこと、近年の体制整備の進展、さらに国立大学法人化といった事情の変化を考慮し、今後は機関帰属を原則とし、各大学のポリシーのもとで組織として一元的に管理・活用を図ることが望ましい」との見解を示している*3。これらの見解に基づいた関連事業・施策の下、全国の大学が産学連携に関するガイドラインや知的財産・利益相反ポリシー等を策定し、大学発知的成果の円滑な技術移転・産学連携活動に関する基盤構築に向けて一定の成果を挙げている。

図1

図1 知財マネジメント組織(大学知財(産連)部門
    とTLO)

一方で、大学発知的成果(知財権)を取り扱う、いわゆる知財マネジメント組織の構築については、依然として過渡期にある。知財マネジメント組織が担う役割は、共同・受託研究・リエゾン業務、知財権利化・管理業務、ライセンシング業務、大学発ベンチャー支援業務、人材育成関連業務等、多岐にわたる。TLO法制定後、承認TLO数は順調に増加したが、2004年の大学法人化、および2003年から5年間実施された知財本部整備事業では、多くの知財(産連)部門が学内に設置された。当該事業が終了した現在では、TLOと知財(産連)部門との関係は、各大学や地域の置かれた状況によって多様性を示している。現存する主な知財マネジメント組織の形態を図1に示した。

学内型組織を有する利点としては、上述業務を学内にて実施することによる戦略の統一性・効率化等が挙げられる。一方で、市場性を理解し、かつ、長期展望を持つことが要求されるライセンシング業務等については、業務リスクや人材確保といった視点から、学外型組織の重要性も指摘されている。どちらにしても、頻繁な組織改正・乱立やルールの変更は、対象(社会および関係研究者)にとって負担を強いることになるため、学内外での慎重な検討が必要である。

海外出願件数が減少
図2

図2 受託研究・共同研究件数および研究費受入
    金額の推移(2003~2009年)



図3

図3 発明届出件数の推移(2001~2009年)



図4

図4 特許出願件数の推移(2001~2009年)

次に、近年の産学連携関連データの推移について、受託研究・共同研究を図2に、また特許関連データ(発明届出件数・特許出願件数・特許実施等件数・収入)を図35に示した。共同研究については、2009年度は微減となったとはいえ、研究数・受入額ともに2003年度の約2倍となっている。発明届出件数は、知的成果創出数の1つの重要な目安であるが、2005年以降は緩やかな微減傾向が続いている。特許出願件数については、2003~04年の激増、ならびに2007年以降の海外出願件数の減少が目に付く。また、上位20校の特許出願件数合計は、全体の半数以上を占めている。特許実施件数・収入については、実施等件数は順調に増加しているが、収入面では、2009年度は国立大学等の減少が著しい結果となっている。

さらに特許活用動向をみると、日本のライセンシー(技術移転先)企業規模は、ベンチャー企業が米国と比較して圧倒的に少ない(図6*4。また、独占的ライセンス契約の傾向をみても、日本はベンチャー企業に対して非独占的ライセンス契約のみ実施がなされているが、米国では9割以上が独占的ライセンス契約であることがわかる(図7*5。また、教育機関(大学等)・TLO等における特許権利用率は、2008年度には未使用件数が80.7%となっており、業種別の国内特許利用率をみると、もっとも低い数字となっている*6

米国に学ぶベンチャー育成
図5

図5 特許実施等件数・収入の推移(2003~2009年)



図6

図6 ライセンシー企業の規模(日米比較)



図7

図7 ライセンシー企業別にみた独占的ライセンス
    契約の傾向(日米比較)

これらのデータから、知財権活用に関する今後の課題として、本稿では、[1]ベンチャー企業育成・ならびにライセンス方針のさらなる確立 [2]双方向型の産学連携の検討、を挙げる。

[1]については、やはり米国に学ぶところが大きい。米国大学、特に特許出願を積極的に実施している大学は、「大学発知的成果の社会貢献」について「社会で実際にターゲットまで伝播させる」ことを強く意識している。彼らの考えの多くは、1.大学において発明が創出される→2.市場を見つける(つくる)→3.市場にて適切な価値を持ってその技術(概念)を広めることに成功する→4.それによって恩恵を受けるターゲットが広く存在し、新たな豊かな社会を構築する、という流れを踏襲している。そのため、市場が分からない場合は無理に権利化することはない。また、価値が金銭的ではない場合にも寛容(もしくは挑戦的)であり、ベンチャー企業等への積極的な技術移転も、多くの大学が奨励している*7

日本の産学連携活動は、長年にわたって築いてきたスタイルが定着していると考えられるため、一概に海外と比較をすることは難しい。また、権利化社会・契約社会である米国の戦略構築すべてを、その文化の違いの理解なしに漫然と「輸入」することも危険である。しかし、大学発社会成果の社会貢献とは、3.市場にて適切な価値を持ってその技術(概念)を広めることに成功する→4.それによって恩恵を受けるターゲットが広く存在し、新たな豊かな社会を構築する、という、3と4なしには成し得ない。4こそが、社会が求める「イノベーション」である。

求められる大学の価値最大化

次に、[2]について述べる。技術移転・産学連携マネジメントとは、知財の権利化といった専門的業務に加え、大学のポリシーや研究者の意向に沿った方向付けを行い、産と学という異なるセクターをつなぐための高付加価値サービス・プロデュース業務を指す。一方で、産学連携とは、必ずしも一方向の連携を指すのではなく、産→学方向へのアイデアや人材の流れも重要である。特許出願や共同研究は、本来このような双方向型連携を念頭に置くべきであり、言い換えれば大学側組織だけで検討できる課題ではない。今後は、大学側の役割の再確認に加え、産側からの積極性も求められる。また、官公庁をはじめとした外部関連機関も、これらの出口を強く意識した評価軸・項目をつくるとともに、多様化に対応した金銭的・人的助成システム構築の必要がある。

産学連携は、研究成果だけでなく、教育・人材からの視点もあって初めて成り立つ。産官学それぞれの役割を生かした連携により、大学が持つ価値の最大化を図ることが、わが国全体の活性化につながるといえよう。

*1
知的財産基本法(平成14年法律第122号)第7条

*2
国立大学法人法(公布:平成15年7月16日法律第112号 施行:平成15年10月1日)第22条第1項第5号

*3
文部科学省科学技術・学術審議会.技術・研究基盤部会.産学官連携推進委員会.新時代の産学官連携の構築に向けて(審議のまとめ).2003.

*4
大学技術移転協議会.大学技術移転サーベイ 大学知的財産年報2009年度版.2010.p.129.

*5
大学技術移転協議会.大学技術移転サーベイ 大学知的財産年報2009年度版.2010.p.133.なお、サーベイによると、新たに設立した企業へのライセンス契約動向については、契約数が少なく(11件)、数少ない機関の影響が現れたためだとしている。

*6
特許庁.平成19年度知的財産活動調査.2008./同20年度知的財産活動調査.2009./同21年度知的財産活動調査.2010.
特許庁.特許行政年次報告書2008年度版.2008./同2009年度版.2009.

*7
財団法人比較法研究センター.平成20年度特許庁大学知財研究推進事業「大学の国際連携に係る海外特許出願戦略に関する研究」.2009-3. 筆者執筆章より抜粋。なお、ヒアリング調査では、スタンフォード大学のベンチャー企業へのライセンシング件数は全体の約10%との回答を得た。しかしスタンフォード大学では、契約後得られた収入の20%はベンチャー企業からであること、また大学の使命の1つとしてベンチャー企業へのライセンス活動は必須であることから、著名企業のように安定性はないものの、依然としてベンチャー企業へのライセンスは続行するべきとのことだった。WARF(ウィスコンシン大学TLO)やUCバークリー校からも、同様の回答を得た。