2011年1月号
特集  - 大学特許の活用戦略
特許群・特許のパッケージ化による大学発特許の活用促進

笹月 俊郎 Profile
(ささつき・としろう)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部
知的財産戦略センター
戦略企画グループ 調査役

大学の産学連携や特許にかかわる人たちの間では、「特許群」や「特許のパッケージ化」がキーワードとなっている。その流れを解説し、科学技術振興機構(JST)の取り組みを紹介する。

大学発特許の技術移転上の問題点

大学やTLO(技術移転機関)で技術移転活動に携わっている方々の間で、大学発特許を企業に技術移転する時の難しさとして、しばしば次のような点が指摘される。

[1] 大学発の特許は単発であることが多い
[2] 企業が興味を引くデータや実施例が少ない

これらの問題に対応するため、さまざまな取り組みがなされているが、国の政策をはじめ、産学連携や特許にかかわる方々の中では「特許群」や「特許のパッケージ化」が最近のキーワードとなっているように思える。

本稿では、これらのキーワードに関して幾つかの活動を紹介する。

単発特許から特許群へ

大学での研究は、基本原理の解明、新規物質の発明等に基づく特許となることが多い。一方で、この基本的な特許を核として、「出口」、すなわち産業界で事業化されることをイメージして、応用特許や周辺特許に展開して特許を継続的に出願することは活発ではない。基本的な特許だけでは、企業はその技術の展開先の判断がつかなかったり、リスクが高い。このため、新技術を評価することに躊躇(ちゅうちょ)し、共同研究や技術移転につながりにくい。

ここに注目して1つの解決策を提示されているのが、岡山大学のマグマ特許からの特許群形成である*1。原理原則を解明した技術に基づく特許をマグマ特許と名付けている。産業界への出口をイメージしつつ、マグマ特許を機能確認や効果検証を行ってコア特許まで展開した上で、企業との共同研究に発展させる戦略である。

単独特許群から製品を構成する特許パッケージへ

機械製品等の複数の要素技術から構成される物は、多数の特許から成り立っている。この場合、1要素技術に使える特許だけでは、それが特許群であっても企業へのアピールに欠けることがある。

この点へのアプローチとして、東京理科大学等が実施している『複合領域「知財群」創造的活用ネットワーク構築』事業*2がある。市場や既存製品を分析した上で、非侵襲の血糖値測定装置等のような具体的な製品を想定し、その要素技術を構成する特許群を複数の大学が協力してパッケージで提案することで共同研究や技術移転に発展させるための新たな活動である。

知財ファンド

2010年8月に株式会社産業革新機構や製薬企業等の出資により、日本発の知財ファンドである「LSIP:Life-Science Intellectual property Platform Fund」(エルシップ)*3が設立された。ここでは、ライフサイエンス4分野について大学・公的研究機関が持つ特許を集約してバンドリングを行うとともに、不足データ補充の研究支援を行い、企業へのライセンス促進を図ることになっている。大学・公的研究機関に分散した特許を1カ所に集約することで特許の価値を向上させ、特許の取り扱いを容易にすることが可能になると思われる。

JSTの特許活用支援
図1

図1 戦略的支援(特許群の支援)

科学技術振興機構(JST)も特許群やパッケージ化を活性化させ、特許の活用促進を支援する事業を行っている(図1)。

まず、特許化支援制度の中の特許群支援*4は、大学等が特許群の中心となる最も基本的な発明と関連する周辺発明群を網羅的に権利化し、特許群を形成することを目指している。これは、外国特許まで含めた価値の高い特許群の形成を目指すものである。

図2

図2 科学技術コモンズ

次に、科学技術コモンズ*5では、大学等やJSTの保有する特許を広く集め、技術的な分類による特許マップを作成して特許群を可視化することを行っている。また、企業が興味を持つためのデータ取得や試作品製作を行うことで特許の価値を向上させるとともに、特許群の強化を図ることを支援している(図2)。

JSTは、産業革新機構と8月31日に協力協定を締結した*6。具体的な案件として前述の知財ファンドLSIPに協力しており、JSTが保有する個別の特許についてLSIPに再実施権付の実施権を付与することの協議を進めている。

今後の課題

複数の権利者で構成される特許パッケージでは、企業へのライセンス条件に関して、発明者の意向や大学の個別事情の調整や特許パッケージの管理が必要になる。あらかじめライセンスポリシーを策定し、マネジメント方法や機関を決めておくことが重要であるが、大学ごとでポリシーが異なりマンパワーに余裕がない状況下では、調整が大変な課題であると思われる。

*1
http://www.okayama-u.net/renkei/contents/08_00.html

*2
複数大学の連携による“知財群”の活用に関する取り組みについて(本誌2011年1月号)参照。

*3
http://www.ipsn.co.jp/

*4
特許化支援制度とは、大学知的財産本部等への特許相談・先行技術調査等の支援や大学等の外国出願関連の費用支援を行うもの。
http://www.jst.go.jp/chizai/gyomu3.html

*5
大学等やJSTが保有する特許をまとめ、企業での特許活用の促進を図る制度。
http://commons.jst.go.jp/

*6
知的財産の活用、研究成果の事業化促進等に関して連携、協力する協定を締結。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20100831/index.html