2011年1月号
単発記事
スパコンが産業の国際競争力強化に一役

西川 武志 Profile
(にしかわ・たけし)

東京工業大学 学術国際情報センター
特任准教授


東京工業大学(東工大)が所有するスーパーコンピューターTSUBAMEが、企業にも利用され、産業の国際競争力強化に一役買っている。国の先端研究施設共用促進事業の概要と事例を紹介する。

はじめに

東京工業大学学術国際情報センター(以下GSIC)では、先端研究施設共用促進事業(以下、共用事業)『みんなのスパコン』TSUBAMEによるペタスケールの飛翔(以下、本事業)によりGSICが運用するスパコンTSUBAMEの計算機資源を産業界に供給している。平成22年11月時点のトライアルユース(無償利用、平成19年8月から)で47課題、有償利用(平成21年7月から)で14課題を採択した。有償利用のうち4課題はトライアルユース経由であり、残りの課題も他社のトライアルユースの評判を知り、利用に結び付いたものが大半である。GSICの有償利用制度自体が共用事業によって誘起されたものであり、トライアルユースの成果から既に産業化され国際市場に進出した成果も出ている。これらの結果により本事業は、平成22年度2月に公表された共用体制整備状況評価において最高評点区分4(22機関中3機関のみ)を獲得した。

ここでは本事業における成果を実例として挙げることで、スパコンの産業利用促進の現状について述べたい。

共用事業におけるスパコンについて

共用事業の大半を占める実験観測装置と異なり、スパコンは同一施設を同時に多数の利用者が遠隔地から共同利用することが可能であり、民間への成果普及や経済効果がほかの施設と比べて早期に実現されやすい特徴がある。また、計算機の発展速度は日進月歩であり、5年10年先に企業内に設置される計算機は今のスパコンと同程度の性能ではるかに安価なものになるので、将来企業が導入するシステムの模範となっている。

世界の最先端を行くスパコンを整備し、産業界に公開するトライアルユース制度の存在は、そのようなスパコン利用制度が無いライバル国の5年10年先を日本企業が進むことを促進し、国際競争力を高めるのに役立っている。

TSUBAMEの概要

TSUBAMEは東工大GSICで運用しているスパコンの略称であり、東工大のシンボルマークの「つばめ」にかけている。平成16年に稼働したTSUBAME1は世界のスパコン性能ランキングTOP500リストで当時世界7位にランクインし、日本一のスパコンとなった*1。ここで報告する本事業の成果の全てはTSUBAME1で得られたものである。

TSUBAME2はTSUBAME1の後継で、平成22年秋に導入された。ピーク性能は2.4ペタフロップスであり、最新版のTOP500リストで計算性能世界第4位、Green500リストで省エネスパコン世界第2位の日本一のスパコンとなった*2

『みんなのスパコン』TSUBAMEによるペタスケールの飛翔の概要

本事業のトライアルユースにおいては、TSUBAME上でこれまで実施されたことが無い利用課題を開拓する新規利用拡大と、国家的課題の解決に向けた戦略分野推進課題5分野(計算化学手法による創薬技術の開発、大規模流体-構造連成解析技術の開発、シミュレーションによるナノ材料・加工・デバイス開発、社会基盤のリスク管理シミュレーションへのHPC応用技術の開発、アクセラレータ利用技術の推進)で課題を公募している。

既存の戦略分野は、わが国が国際競争力を持つ分野の優位性をますます高めるものである。平成22年度に新設したアクセラレータ利用技術の推進は、TSUBAMEに搭載されたGPGPU等の非常に多数の演算器を持ったアクセラレータを利用する次世代技術の開拓に取り組む産業界の支援を目指している。

GSICではTSUBAME共同利用サービスに関する施設利用約款等を定め施行し、申請や利用開始に必要な様式等もすべてウェブで広く情報を公開している。運用上では、産業利用区分の利用者の誰がどのようなジョブを実行しているかを隠ぺいする仕組みを導入している。

企業の利用状況・事例

トライアルユースの平成22年9月末までの公募・採択状況は延べ応募数51課題、採択数47課題である。現在すでに31課題が利用を終了し、成果報告書が公開もしくは公開準備中である*3

産業利用有償利用の平成22年11月までの公募・採択状況は表1の通りである。平成22年9月末までに利用終了した27件のうち有償利用を希望は13件、現在実施中の有償利用9件中3件がトライアルユース経由で、うち1件は東工大外のトライアルユース経由である。トライアルユース実施で事業の認知度が高まり、成果非公開を希望する課題やトライアルユースの審査期間を待てない課題、6件が有償利用を最初から選択している。

表1 産業利用有償利用公募・採択状況(平成22
    年11月現在)

表1
成果事例

成果事例として、株式会社三菱化学科学技術研究センターとニューメリカルテクノロジーズ株式会社の利用成果を紹介する(図12)。前者は5年10年先の次世代技術が確立された利用成果であり、実験とシミュレーションが相補的な役割に貢献できる成果となった。後者は成果が利用終了後1年程度で事業化され、開発されたソフトウエアは国内の複数の金融機関に導入されるとともに、さらに発展した製品が開発される等サービス分野での新たなスパコン利用を開拓した*4

図1

図1 株式会社三菱化学科学技術研究
    センターの利用成果

図2

図2 ニューメリカルテクノロジーズ株式
    会社の利用成果

スパコンTSUBAMEの産業利用促進のために
――結びにかえて

最後に、利用終了課題からいただいた本事業に対する評価や要望を紹介したい。まず、利用終了課題の過半数が「民間企業では容易に構築できない先端並列計算環境が利用できたこと」を評価していた。「利用しやすい制度とサポート」との評価は、GSICとして光栄なことであった。また、産業利用には成果非公開制度が必須との意見もあり、その後の成果非公開制度の実現につながった。「混雑時に計算資源が確保できなかった問題」等、利用者が不便に感じた点は残されており、TSUBAME2では可能な限り改善し、今後とも産業利用促進を進めていきたい。