2011年1月号
連載2  - 東北テクノアーチ 12年の歩み
(下)
若手人材育成し、グローバルに展開
顔写真

井硲 弘 Profile
(いさこ・ひろし)

株式会社東北テクノアーチ
代表取締役社長


技術移転活動に特化して順調に収益力を高めてきたこれまでの歩みを総括するとともに、今後の方向性を示す。若手人材の採用・育成により、海外市場への展開を本格化するとともに、総合知財プロデュース機能を目指す。

本連載の(上)(中)では、東北テクノアーチ(TTA)の技術移転に特化した活動を述べてきたが、これらが可能となったのも、関係する皆さまのご理解、ご支援のたまものと深く感謝する次第である。

12年間のTTAの活動を総括する。平成10年11月の創業時には、起業のための諸施策の企画、立案や人材の手当て、また発明の開示を教官に要請するなど多忙ではあったが、平成13年度には単年度黒字を達成し、平成15年度には累損を一層できた。東北大学などの教官からのシーズの提供が順調に増加するとともに、通商産業省、東北通商産業局などからの委託調査事業の収入、地元企業からの出向者や日本テクノマートの特許流通アドバイザー派遣等による人材面のご支援――などが、TTAの収益向上に貢献した。

平成16年4月からの大学法人化とともに東北大学内に知的財産部が設置され、発明の帰属も個人から機関へと変更されるなどTTAを取り巻く環境が激変したが、知的財産部とTTAの業務分担など新たな協力関係を構築することができ、TTAは再度技術移転に特化した活動を展開した結果、平成17年度には、創業以来初めての配当を実施することができた。

写真1

写真1 経済産業大臣表彰受賞の記念写真

また、平成17年4月18日の「発明の日」には、TTAのこれまでの技術移転の実績が高く評価され、経済産業大臣表彰(産業財産権制度活用優良企業等、普及貢献)を受賞した(写真1)。

平成18年度以降は、東北大学川島隆太教授の、企業へのノウハウ提供(「脳トレ」など)のロイヤリティ収益も順調に伸びて、東北大学への研究資金の還元を大幅に増加させることができた。

さらに、長年の懸案であった技術移転マネージャの若手人材採用を平成19年度から実施することができ、平成21年度からは、海外への技術移転活動を始めるまでに至った。


これまでTTAの活動が順調に展開できてきたのは、主として次のことが大きく寄与していると考えている。

1. 主に東北大学のシーズの活用を図るべく東北大学外部一体型TLOとして創業して以来、東北大学との円滑な連携維持ができたこと。特に創業前後の関係者間においては、この事業を円滑に立ち上げていきたいとの共通の志が強かった。
2. 東北大学をはじめとする東北地域の各大学、および高専から良好なシーズが提供され、その活用にあたっては、TTAが株式会社であったことが有利に働いたこと。すなわち、運営面で自主性を発揮でき、かつ企業との交渉、契約に際しても迅速な応対ができた。株式会社なので、企業を存続させるためにはぬるま湯にはつかっておれず、常に危機感をもって事業を実施したこともプラス要因だった。
3. 上記とも関連するが、身の丈にあった経営を進めてきたこと。特に創業当初こそ収入のため委託調査業務なども手掛けてきたが、途中から本業の技術移転特化型に転換し、少数のスタッフで業務を遂行すべく選択と集中をしてきた。事業の実施に際しては、極力技術移転マネージャなど前線部隊の意思を尊重して交渉などの業務を任せるとともに、経営者とのコラボレーションの円滑を図った。


しかし、TTAは、まだまだ発展途上であり、技術移転活動のさらなる高みを目指したいと思う。

そのためには、次の4点を重要と考えている。

1. TTAは、若手人材の採用・育成により、従来の国内市場のみでなくグローバル市場へと一段とステップアップした活動を展開しつつあり、バイオ案件に関しては契約成立に至ったものもあり、この分野の展開をさらに加速するとともに、今後は、バイオ以外の分野の案件についてもグローバル市場に展開していきたい。
2. TLOの技術移転活動には、各場面での大学等教官との連携プレーが必須であり、そのためには相互の強い信頼関係を構築しなければならない。TTAは、創業時は株主でもある教官との連携から始め、広げてきたが、最近は教官の異動も多いことから、さらに研究室訪問を重ね、各種相談に対応することなどで教官との信頼関係を強化するとともに、その輪を広げて行きたい。
3. TTAは、総合知財プロデュース機能、すなわちシンクタンク機能、コーディネイト機能、コンサルティング機能などを強化することにより、教官の研究内容を理解し、強い発明に仕上げるとともに、シーズを活用するビジネスプランを描けるようになりたい。
4. 広域TLOとして、東北地域を始めとする各大学、高専などのシーズの活用を図る等、さらに各大学、高専の要請に応えていきたい。


以上に述べてきた高みを目指すには、志のある有能な人材、すなわち「研究内容を理解でき、営業活動をし、企業との交渉・契約をまとめ、かつ、グローバルな活動のために語学も堪能であり、また行動に当たっては、自発的な活動ができ、発明者に信頼され、企業に柔軟に対応できる」能力を有する人材が不可欠である。


米国のTLOと比べると、TTAはまだまだいろいろな面で及ばない点が多いが、東北大学をはじめとするわが国の大学、高専などの優秀な研究成果である宝の山を産業の活性化に役立てるよう、人材の育成と技術移転活動そのもののイノベーションも図りながら、経営を進めていきたい。