2011年2月号
特集2  - 競争力アップ なるほど大学活用法
株式会社坂戸工作所
鉄骨鉄筋コンクリートの新解体工法を開発
顔写真

浦田 正男 Profile
(うらた・まさお)

株式会社開発支援 代表取締役



かつて、生薬(しょうやく)をすりつぶすのに使った薬研(やげん)の回転部はそろばん玉のような形である。コンクリートや木造の建造物の解体機メーカー大手の株式会社坂戸工作所は、1980年代始め、薬研にヒントを得て、小さな力でコンクリートを割ることができる破砕機の刃を開発し、大きなシェアを獲得した。同社は最近、大学の研究者の技術を活用して新製品に挑戦した。

日本では高度成長期以降、大量の建築物が建設されてきた。1955年に33.9百万m2に過ぎなかった建築床面積は、1970年には200百万m2を超え、1973年には281.8百万m2を記録している。高度成長期前の8.3倍にもなる建築ラッシュがあったことになる。その結果、1980年代から大量の建て替え需要が発生した。都市の環境を更新していくためには建築物をいかに速やかに、かつ効率的に解体するかが大きな課題であった。

図1

図1 柱断面比較とSRC用鉄骨構造例

高強度コンクリート製建築物、特にSRC(Steel Reinforced Concrete:鉄骨鉄筋コンクリート)構造物の解体は非常に困難であった。SRC構造物は阪神大震災においてもほぼ無傷であった。当時は大型機で強引にコンクリートを半破壊後、現場で作業員が鉄骨をガス溶断するというような危険かつ非効率な解体をせざるを得なかった。図1に一般的なRC(Reinforced concrete)柱とSRC柱の断面構造比較を示す。

この分野のパイオニアである株式会社坂戸工作所(本社:千葉市、代表取締役 坂戸誠一氏、従業員30人、売上高7億円、資本金5,720万円)は、2002年からSRC解体機の開発に取り組んだ。

筆者は当時、川鉄テクノリサーチ株式会社(現、JFEテクノリサーチ株式会社)に勤務しており、解体アタッチメントのFEM強度計算等をお手伝いしたことからこの研究開発に携った。

薬研から発想した破砕機の刃の形状

株式会社坂戸工作所は1977年、画期的なコンクリート構造物解体機「ペンチャー」(特に先端鋏部分)を開発し、この市場に本格参入した。以後、木造建築物解体機「ワニラ」、道路薄利解体機「ロードストリッパー」、1983年には、大成功を収めたコンクリート小割機「パクラ」等を開発し、業界の先導者の立場を確立した。

同社が小割解体機を開発していた1980年当時、コンクリート小割は基本的には先の尖った硬い円錐もしくは角錐状の刃でコンクリートを細かく砕く方式が一般的であった(現在でも一般的に使われている)。しかし、この方式は大きな圧砕力と巨大な解体アタッチメントを必要とする。何とか解体アタッチメントを小型化し、作業を効率化したいと考えていた坂戸氏は、テレビドラマで薬研で薬をすりつぶしている姿を見て、「これだ!」とひらめいた。薬研の回転部のそろばん玉のような形、これこそコンクリートを砕くのではなく、小さな力で割ることのできる決定的な形である。これにより、圧砕力(圧裂力)を劇的に小さくすることが可能になり、坂戸工作所の解体アタッチメントが市場を制覇することになった。

職人の作業をビデオ分析

開発当初、どのような解体方法が適切か全く分からなかった。いきなり非常に強力・大型の解体機を製造しても市場の要求に応えるものではないことは明らかなので、基本研究から実用化研究へ発展させる構想で進めた。

1年目は「平成14年度千葉県産学官共同研究委託事業」を活用し、基本的技術の検討・実験を行った。

SRC構造物は主に日本で発達したこともあり、海外の例を調べてもこれといった解体法は無いようであった。仕方なく、各地で名人級の職人が行っていた解体法をビデオに撮らせていただき、これらの分析から始めた。ビデオ分析の結果、次の方針に基づいた試作を行うことに決定した。

1. 最も効率が良いのは柱の根元の鉄骨を十分に傷つけ、上部を持って何度か折り曲げることにより柱を切断すること。当然、危険なガス溶断工程を省略する。
2. 根元の破壊には、坂戸工作所が基本的技術を有している圧裂破砕刃を使用する。

この基本方針を基に7分の3モデルを試作し、モデル柱の解体実験を行い基本的特性を研究した。その結果として、以下の事項が判明した。

1. 今回構想した工法は十分に実用的であり、解体時間は3分の1程度にできる。
2. 実用機では比較的大きなスケールアップとなるので、圧裂破砕刃の特性をフルに発揮させるため、根本から圧裂破砕特性を把握する必要がある。

本研究開発では、財団法人千葉県産業振興センター間野純一コーディネータの紹介で日本大学の笠井芳夫名誉教授、湯浅昇専任講師(当時。現、准教授)のご指導を得た。このため、モデル実験でコンクリートの破壊特性見直し等を行い、解体機の合理的開発を推進することができた。

ガス溶接作業を全廃

2年目には、「平成14年度補正創造技術研究開発費補助金」を獲得し、実用機研究開発を進めた。日本大学に解体工法の効率性向上とその評価等を指導していただいたのに加えて、間野コーディネータの紹介で東京理科大学の澤芳昭教授(当時。現、常務理事)に光弾性法・塑性法による圧裂破砕刃先の形状研究指導等をお願いした。圧裂破砕刃は工学的にみると接触問題であり、計算機シミュレーションでは研究困難と考えたためである。また、財団法人千葉県産業振興センターのコーディネータ、千葉県機械金属試験場(現、千葉県産業支援技術研究所)、千葉県知的所有権センターにアドバイザーとして研究開発推進委員会に参加していただき、全面的支援を受けた。

写真1

写真1 完成したSRC解体機と現場での適用実験



図2

図2 刃角60度の場合の光塑性実験結果(上部三角
    形部分が圧裂破砕刃を、それ以外がコンクリートを
    示す)

この研究の成果として得られたSRC解体機と、それを使用した解体実験の様子を写真1に示す。また、澤教授の光弾性・塑性法実験結果の一例を図2に示す。作業時間3分の1、ガス溶断作業全廃、の2大目標を完全に満たし、なおかつ合理的な価格にできた。

この装置の開発成果はSRC解体機のみではなく、その解体性の卓越さから坂戸工作所の商品に広く使用されており、同社売り上げで40%、SRCの市場シェアで30%以上を占める。

本研究開発の発案者であり開発者でもある同社の坂戸社長は、商学部出身の学卒者である。意外に思われる方もおられると思うが、坂戸氏は基本的な強度特性評価から設備の機構的な使い勝手、商品性能検討まで、本商品のすべての範疇(はんちゅう)で、専門家に負けない非常に高いレベルを有している。開発への執念も強い。同氏だからこそ、本研究開発が始められたと思われる。技術のみならず、経営にも優れたバランス感覚を有している。