2011年2月号
特集2  - 競争力アップ なるほど大学活用法
株式会社中村超硬
ソーワイヤに新手法でダイヤモンドを固定
顔写真

井上 誠 Profile
(いのうえ・まこと)

株式会社中村超硬 代表取締役社長



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中平 敦 Profile
(なかひら・あつし)

大阪府立大学大学院 工学研究科 教授



株式会社中村超硬は、堺市のベアリングメーカーに耐摩耗性を持つ超硬合金素材を提案して1954年にスタート。同社が大学の技術を活用して、新しい方法による「ダイヤモンド固定ソーワイヤ」を開発した。

株式会社中村超硬(本社:堺市)は1954年に鉄工所として創業し、地場産業であるベアリング製造業に超硬合金製の耐摩耗設備部品を提案したことを起点として、特殊材料への超精密加工をコアコンピタンスとして事業を拡大してきた。現在は、ダイヤモンドにこだわった工具開発に注力し、次世代の事業構造への転換にチャレンジしている。

近年の事業成長エンジンの役割を果たした製品が、1995年に開発した「電子部品吸着用ダイヤモンドノズル」であった。競争が激しくなり、徐々に付加価値が低下しつつあった2003年ごろ、将来へ向けた新たなコア技術の獲得が必須と判断し、ダイヤモンド工具開発に焦点を絞って大学との連携による研究開発を開始した。

10~20ミクロンのダイヤモンド粒子
図1

図1 ダイヤモンド固定ソーワイヤ(左)とワイヤ(右)

具体的に開発を目指したのは、「ロー付け」という手法を用いたダイヤモンド固定ソーワイヤだ(図1)。電子材料であるシリコンなどのインゴットを薄いウエハ形状に効率的にスライス加工するのが「固定砥粒式マルチ型ワイヤーソーマシン」。同マシンで使用される、細いピアノ線に10~20ミクロン程の微細なダイヤモンド粒子を固定したのが「ダイヤモンド固定ソーワイヤ」である。従来、ワイヤーのダイヤモンド固定には「電着手法」や「レジン手法」が用いられていた。

「ロー付け」という新規の手法を使うには、まず、低温・高強度ロー材の開発が必須であった。そこで、当社の所在する南大阪地域を代表する研究機関である大阪府立大学において当該研究分野を専門とする中平(本稿の筆者)と連携することになった。以前から中村超硬がお世話になっていた同大学の先生の紹介によるものであった。

先駆的な研究成果に着目

セラミックスならびにコンポジット系のナノ複合化研究を進めていた中平らは、低温接着を目指したダイヤモンドとロウ材の研究ならびにダイヤモンドハイブリッド焼結体で先駆的な研究成果を得ていた。それらの研究シーズはダイヤモンド粒子固定砥粒型のソーワイヤの開発に大きく寄与できるコア技術であったので、中村超硬の井上(本稿筆者)らは中平らの研究チームと開発に着手した。そのベースとなる要素技術は、ダイヤモンドを固定するための低温型のロウ材開発である。共同で取り組み、その開発に成功した。産学官連携による平成18年度戦略的基盤技術高度化支援事業でも研究を行った。

ダイヤモンド固定ソーワイヤは、シリコン、サファイア、窒化ガリウム、シリコンカーバイドのような脆性材料を効率的に切断するための工具であり、ダイヤモンド工具としての性能を左右するファクターは多数(ダイヤモンド保持力、冷却性、スラッジ排除性など)存在する。このため、ロー材の開発においては、当初は真空雰囲気の中で活性高温ロー材による固定手法からスタートした。その後、中平研究室においては固定強度を維持しつつダイヤモンド粒子を固定するミクロ領域での構造形成の自由度を高くするために、大気中雰囲気で、しかも低温で溶融する材料の開発を行い、中村超硬はテスト加工により性能評価のフィードバックを迅速に行った。

産学連携で開発した「ロー付け法によるダイヤモンド固定ソーワイヤ」のコストパフォーマンスは、先行技術と比較すると大きく改善した。電着手法と比べると、寿命は同等以上で、製造原価は5分の1。また、レジン手法よりも低い製造原価で、寿命は3倍以上を実現した。

スライス加工受託の事業を開始

中村超硬においては、ダイヤモンド固定ソーワイヤの販売開始に先立ち自社製ソーワイヤの性能優位性を実証するために、地域のソーラーシステムメーカーからシリコンインゴットのスライス加工受託の事業を開始した。一般には立ち上げに3年はかかると言われる量産加工仕事ではあったが、苦労の末、現在は月産200万枚以上のウエハ生産まで拡大し、コスト・品質面でも高い評価をいただいている。そして、昨年後半からソーワイヤの販売を開始したが、当初は社内加工用ソーワイヤの仕様と顧客が求める販売用ソーワイヤの仕様の違いを認識することに時間を要した。現在は顧客要求ニーズへの対応もほぼ完了し、本格的なボリューム増に向かいつつある。

中村超硬の従来事業は自動車やデジタル家電製品の新規設備投資に大きく依存しており、リーマンショックに端を発した今回の設備不況の波をまともに受け、直前期では売上高が60%落ち込み、年間売上高は9億円まで急落した。今期は従来事業の回復とダイヤモンド固定ソーワイヤの新規事業の立ち上がりにより業績は急激に回復し、今期売上高は約5倍の45億円に拡大する見込みである。