2011年11月号
単発記事
カラスの勝手にはさせません
~新タイプのカラス撃退機を開発~
カラスの鳴き声をソナグラフ(音声を視覚化したグラフ)に表すと40余りに分類できる。人が接近するなどして特定の場所から群れが離れる時、幾つかの決まったパターンで鳴き声を発している。宇都宮大学のこうした研究成果を活用して、カラスを農地などに近づけない音声機器を、企業が同大学と共同開発した。

宇都宮大学と連携、「カラスの言葉」で事業化に成功
顔写真

椎名 堯慶 Profile
(しいな・たかよし)

株式会社ハイアテック CEO




弊社(株式会社ハイアテック)は1982年創業のIT関連企業で、2008年に環境事業参入を決め、新製品を模索していた。農業関係者から鳥獣被害についての相談が多くなり、科学技術振興機構(JST)の関連情報を調べている過程で宇都宮大学・杉田昭栄教授の「カラスの言葉」を使ったカラス対策の論文を発見。今までに無い知的かつユニークな技術を弊社のIT技術に組み込むことで、カラスを近づけないための製品ができないかと考えた。そして、杉田教授らのグループとの共同研究を行い、事業化に成功した。

基本機能

従来、カラスの脅し物製品には光物(反射プラスチックテープやCD片等)、音物(爆音機、雷管等)などがあるが、カラスがそのからくりをすぐに学習してしまうので、効果の持続性があまりなく、「カラス撃退製品に決定打無し」と言われている。

杉田教授らと開発したカラス撃退機の基本はカラスが持つ41語の言葉を応用して、仲間のカラスのふりをして「警戒、威嚇、恐怖、逃避」といった言葉を流し、周囲のカラスがその場所から離れ、徐々に近づかないように仕向けていくものである。

開発に当たっては、まず、効果の確認と目標とする市場に最適の製品仕様を模索した。市場優先順位は ①農園、牧場など実損の伴う分野 ②ゴミ置き場など市民が迷惑を受けている場――とした。

技術的な課題には、「カラスに学習されにくい音声パターン設定」「早朝無人発報、周囲住民に対する音量調整対策」「カラスなど小動物と人間や車など判別発報」「カラスが逃げ出すまでの時間短縮」「カラスに学習されにくい音声パターンと発報方法」「AC電源が無い場所での低コスト電源供給」などがあった。

技術課題の解決

カラスの学習で効果が持続しなくなるので、カラス撃退音声は継続的な音声設計・開発が必要。それを宇都宮大学が担当し、製品組み込みは弊社が担当するという体制で開発を進めた。

周辺住民への音量の課題には、単純に音量を調節できるようにした。小動物と人間や車などの判別には、赤外線センサーを2個使い視差判別回路を設けた。

開発したカラス撃退機には、携行可能な設置型と携帯型モデルを用意している(写真1)。

・設置型、携帯型ともに、カラスを見かけたらワンタッチで発報できる機能装備

・設置型には14件の時間と発報期間を設定できるデジタル・タイマーを装備

・設置型の駆動電源はAC電源型と蓄電池駆動型を用意

・カラス学習(慣れ対策)対策として学習チャンスを減らす工夫

「カラス鉄報隊」のモデル

開発したカラス撃退機の名前は「カラス鉄報隊」。特許は宇都宮大学が申請している。2010年9月に、ゴミ置き場小動物監視判別センサー付など3モデルを売り出したのを皮切りに、これまでに設置型(256種類の音声パターンを発報、2種類の音声パターンがあり交換可能)、携帯型(音声パターンA、B、C、Dの4タイプを用意。慣れたら他の音声パターンに交換可能)合わせて9モデルを市場に投入している*1

主に、JA(農協)、農業資材販売店などのルートで販売している。全国の潜在的な需要は2,000~3,000台と見込まれる。現在、約200台の弊社製品が現場で活躍中。2011年度は150台(売上額600万円程度)、2012年度は300台(同1,200万円程度)の販売を見込んでいる*2

カラスによる農業等の被害額の把握は難しく、一説には年間23億円とも言われる。農業関係者は被害の多いイノシシ、鹿、猿などの被害対策装置の登場を熱望している。弊社は今後とも、こうしたニーズに応えるため、知財を探して、総合的な鳥獣類被害対策危機メーカを目指していく所存である。

写真1 携帯型乾電池駆動モデルK226-HV(左)と設置型乾電池駆動モデルK226-STD-NZ(右)

写真1 携帯型乾電池駆動モデルK226-HV(左)と設置型乾電池駆動モデルK226-STD-NZ(右)



カラスの音声コミュニケーションの研究
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塚原 直樹 Profile
(つかはら・なおき)

宇都宮大学 オプティクス教育研
究センター 特任研究員


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杉田 昭栄 Profile
(すぎた・しょうえい)

宇都宮大学 農学部 生物生産科
学科 教授




カラス撃退機開発の基礎となったカラスの音声コミュニケーションの研究

カラスは群れで行動することが多く、群れでの個体間のコミュニケーション手段の1つとして、鳴き声を用いている。われわれはハシブトガラスの音声コミュニケーションの解明を目指し、さまざまな状況下でのハシブトガラスの鳴き声を集音した。収録した鳴き声より抽出した約500個の鳴き声をソナグラム(音声を視覚化したグラフ)に表し、その音響成分を比較した。その結果、ソナグラムの特徴から、少なくとも41種の鳴き声に分類することができ、ハシブトガラスは多様な鳴き声を持つことが明らかとなった。また、カラスの群れの行動を観察すると、カラスの群れが特定の場所から離散する際、いくつかの決まったパターンで鳴き声を発していた。ヒトの接近によってカラスの群れが離散する際の鳴き声のパターンの例を1つ挙げると、まずヒトを確認した時点でカラスは警戒声を発し、次にヒトが接近すると威嚇声を発し、さらにヒトとの距離が縮まると、逃避声を発しながらその場から離散した(図1)。今回、株式会社ハイアテックと共同開発したカラス撃退機「からす鉄報隊」は、警戒声、威嚇声、逃避声を順に再生し、カラスの群れの離散時の鳴き声の段階的な状況を再現することで、カラスの群れへ離散を促す効果を期待した製品である。

研究室から社会へ、研究成果の社会還元を目指して

生命科学の分野、特に基礎研究では、学術的価値のある研究成果を論文の形で社会に発信する機会は多いが、研究成果を事業体と共同して製品化し、社会還元できる機会は少ない。われわれは、被害対策のニーズがあるカラスを研究対象としていることから、研究成果を社会に還元できる機会に恵まれているものの、今回の事業化に結び付いたのは、製品化し、市場を開発するという強い企業意識を持つハイアテック社の方や、企業とのマッチングにご尽力いただいたコーディネーターの方のご協力の結果である。このように、研究成果を製品化という形で社会に還元できたことは大変幸運であると考える。今後も基礎研究のシーズを応用開発に結び付く研究へと展開させることを意識し、カラスの研究に取り組んでいきたい。

図1 カラスが逃避する際の行動パターンと鳴き声

図1 カラスが逃避する際の行動パターンと鳴き声

*1
製品モデル
【携行可能な設置型】
①K226-ゴミ置き場設置モデル
  ゴミ置き場小動物監視判別センサー付、AC電源駆動、
  デジタルタイマー付き、10Wスピーカ内蔵モデル
 発売開始 2010年9月2日
 販売価格 64,800円
 2011年1月 販売終了
②K226-20STR
  放送設備RCA接続可能、デジタル・タイマー内蔵、AC電源駆動型、
  20Wスピーカ接続可能。
 発売開始 2010年9月29日
 販売価格 98,800円
③K226-STD-NZ
  DCデジタル・タイマー内蔵、乾電池駆動型、10W防水スピーカ付き
 発売開始 2011年9月29日
 販売価格 49,800円
④K226-20STD-NZ
  DCデジタル・タイマー内蔵、乾電池駆動型、20W防水スピーカ付き
 発売開始 2011年9月29日
 販売価格 64,800円
⑤K226-ST-NZ
  デジタル・タイマー内蔵、AC電源駆動型、10W防水スピーカ付き
 発売開始 2011年2月22日
 販売価格 59,800円
⑥K226-20ST-NZ
  デジタル・タイマー内蔵、AC電源駆動型、20W防水スピーカ付き
 発売開始 2011年2月22日
 販売価格 59,800円
⑦K226-20ST
  デジタル・タイマー内蔵、AC電源駆動型、20W防水スピーカ付き
 発売開始 2010年9月1日
 販売価格 54,800円
【携帯型モデル】
  (音声パターンA、B、C、Dの4タイプを用意。
  慣れたら他の音声パターンに交換可能)
①K226-H(音量固定型)
  音量固定型、懐中電灯型携帯モデル
 発売開始 2010年12月20日
 販売価格 12,800円
②K226-HV(音量可変型)
  音量可変型、懐中電灯型携帯モデル
 発売開始 2011年4月20日
 販売価格 14,800円

*2
製品無償貸出制度を設けるとともに、購入した後でも、現場におけるカラス追い払い方法の最新ノウハウ〔ご利用の手引〕を提供する。また、今後、カラスが逃げ出すまでの時間を短縮するため、爆音機やレーザー刺激光線装置を併用する方法を考案中である。