2012年10月号
特集 - 地域の食材を売り出せ!
無臭の魚醤入り減塩しょうゆ
顔写真

白崎 裕嗣 Profile
(しらさき・ひろつぐ)

株式会社室次 代表取締役



人工添加物を入れない天然醸造でうま味の強いしょうゆを造れないか――。魚醤はその条件に合っているが、臭いが強く、そのままでは混ぜられない。そこで福井県立大学に相談した。

株式会社室次(福井県福井市、以下「当社」)は天正元(1573)年に酒・糀業として創業し、元禄2(1689)年以降はしょうゆの蔵元として事業を行っている。昭和30年代からは植物油・ラードなども手掛けている。

福井県立大学と魚醤(ぎょしょう)入り減塩しょうゆを共同開発し、今春売り出したので、その経過について紹介したい。

天然で強いうま味

このしょうゆは、日本で初めての無臭の魚醤入り減塩しょうゆである。うま味が強く、一般のしょうゆ(植物性アミノ酸)にはない動物性アミノ酸(人間に必要な必須アミノ酸等)が多く含まれている。塩分は50%カット。人間の体をつくるアミノ酸は300種類以上含まれ、人工甘味料、人工保存料は一切使用していない発酵食品である。

当社が、魚醤入りの減塩しょうゆを造ろうと思った理由は以下のようなことである。

3年前に天然醸造のしょうゆ「幕末のソイソース」を販売した。天然醸造なので、人工添加物は一切入れていない。

市販の一般的なしょうゆは人工甘味料(砂糖の数百倍の甘み)が入っているので、舌に感じる最初のインパクト(甘み)が強く、この点では、一般的なしょうゆに負けてしまう傾向にあった。陸上競技に例えると、天然醸造は長距離選手、人工添加剤は短距離選手で、人工添加剤は舌先だけの味(甘み)であるのに対し、天然醸造は舌からのどの奥までくるうま味。甘みとうま味は良く似ているのである。

当社は天然醸造にこだわりたいので、天然でうま味が強い物がないか調べると、しょうゆの仲間では魚醤がうま味が強いことが分かった。魚醤を混ぜられないかと考えたが、魚醤はナンプラー(タイを代表する調味料)や「いしる」(能登半島北部で昔から造られている魚醤)に代表されるように、うま味は強いが、臭いも強いので、そのままではしょうゆとは混ぜられない。そこで、福井県立大学の宇多川隆教授に相談したところ、無臭でかつ無塩の魚醤が造れるというので、共同で研究に入った。

無臭、無塩のサバのしょうゆ

ひと口に魚醤と言っても、魚によっていろいろ特徴があるので、どの魚にするか、宇多川教授といろいろ試み、最終的にサバのしょうゆを造っていただくことにした。サバは原料も安く、うま味が強く、DHAなど人間に必要な必須アミノ酸が多い青魚だからだ。

技術的な問題としては、まず、無臭、無塩の魚醤の製造が非常に困難であること。宇多川教授にその点を解決する技術(特許申請中)を支援していただいた。

次に、味、香り、色、かびの問題が重要で、人工添加剤を使えばある程度安易に仕上げられるが、無添加にこだわっているので、非常に苦労した。試行錯誤し、開発に1年要した。おいしくてかつ体にもいいしょうゆが開発できた。開発できたのは、創業320年の伝統の技術、ノウハウの故だろうか。

将来は東南アジア市場へ

開発した商品は、今年3月24日に「減塩室次しょうゆ」として販売を始めた。しょうゆは梅雨や夏にかびがはえたりするので、多少その対策を施し、8月から名前を「旨醤」として、本格的に東京での販売も始めた。価格は税込みで、120ミリリットルのビン入りが450円、500ミリリットルのペットボトル入りで800円、1リットルのペットボトル入りで1,300円。また、100ミリリットル入りペットボトルでの販売も検討中である。大手百貨店、こだわりの店、通販での販売を考えている。

中国や東南アジアでは、しょうゆといえば大豆から造る大豆しょうゆではなく、魚醤である。従って、大豆しょうゆと魚醤のブレンドしょうゆ「旨醤」は、中国や東南アジアで受け入れやすいと考える。将来は、中国や東南アジアに販路を広げる予定である。