2013年2月号
特集 - 農と食 起業入門
プロテオグリカン使用商品が広がる
顔写真

阿部 馨 Profile
(あべ・かおる)

地方独立行政法人 青森県産業技術センター
研究統括


プロテオグリカンという物質は糖鎖とタンパク質が結合した「複合糖質」と呼ばれるもので、身体組織の維持のための重要な成分であると考えられている。弘前大学で15年ほど前から、その産業利用の研究が本格化し、企業と共同でサケの鼻軟骨から採る技術を確立した。青森県津軽地域では、市販されたプロテオグリカンを活用した食品や化粧品が増えてきた。

はじめに

青森県産業技術センターが管理法人となり、文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラム(都市エリア型)の1つとして「プロテオグリカンをコアとした津軽ヘルス&ビューティー産業クラスターの創生」という課題に取り組んでいる。弘前大学を中心として進められたプロテオグリカンの研究成果を活用し、津軽地域に健康と美容の一大産業クラスターをつくることを目指している。この事業は2010年8月にスタートし、3年目(最終年度)を終えようとしている。本年度に入り、複数の大手の健康食品メーカーや化粧品会社が参入し、プロテオグリカン使用商品が広がっている。これまでの取り組み等を含め事業の一端を紹介したい。

サケ鼻軟骨からのプロテオグリカンの素材化

1.なぜ青森県か

プロテオグリカンは糖鎖とタンパク質が結合した「複合糖質」と呼ばれる物質である。保水性に優れ、皮膚ではハリや弾力を保つのに重要な成分で、コラーゲン、ヒアルロン酸などと共に細胞外マトリクスをつくり、身体組織を維持している。しかし、構造が複雑で研究テーマとしては難しい素材であるため、研究者が少なく、一般にはあまり知られていなかったと言える。

そのプロテオグリカンの研究とそれを使った商品開発が、なぜ青森県で行われたのかという疑問を持つ方が多いだろう。それは、弘前大学の遠藤正彦前学長が主宰する弘前大学医学部生化学第一講座*1が30年もの間、プロテオグリカンの基礎研究をしてきたからに他ならない。

具体的にプロテオグリカンを各種商品の素材として活用する研究が開始されたのは1998年。弘前大学医学部生化学第一講座の高垣啓一助教授(のちに教授)が青森県でもたくさん獲れるサケの鼻軟骨に注目し、地元企業の株式会社角弘と同軟骨から高純度、低コストかつ大量に精製する技術について共同研究をはじめたのがきっかけである。

2.サケ鼻軟骨プロテオグリカン素材化研究の歴史

サケ鼻軟骨プロテオグリカンの素材化研究は、短期間に達成されたわけではなく、研究は複数の予算により支えられてきた(表1)。商品化が達成されたのは、現在の事業が開始してからである。

表1 プロテオグリカン素材化に係る補助事業名

プロテオグリカン使用製品の急速な広がり

2009年4月に化粧品向けのプロテオグリカンが売り出された。翌2010年4月に食品用が発売された。それらを使った化粧品、食品共に順調に商品数が増加している。

私どもの実施している現在の事業は2010年に開始したものだが、現在、参加企業が約100社で、化粧品および健康食品で約100品目が発売されるまでになっている(写真1)。複数の大手健康食品メーカー、化粧品メーカーが参入している。

発売されている食品は、錠剤、カプセル、ドリンク等の商品形態で美容またはロコモティブシンドローム(運動器症候群)に対応した健康食品がメインである。事業に参加している青森県内企業は、りんご酢、菓子類、ジュース類など、それぞれの企業が持っている商品にプロテオグリカンを添加した商品が多い。

化粧品は保湿効果が期待される化粧水や乳液などのスキンケア商品が主体であるが、プロテオグリカンは多様な機能を有しているので、スキンケア以外の商品にも広く応用されている。


健康食品


化粧品

写真1 プロテオグリカン商品

普及に向けた取り組み

事業開始時には、青森県で化粧品および健康食品を発売している会社が特別に多かったわけではなく、事業に参加して初めて開発に取り組む会社がほとんどであった。プロテオグリカン商品は基本的に加えるだけで試作品ができるのだが、すぐに、名称・価格・表示・販路といった課題に直面するのである。その現状を踏まえて、参加企業の目線に合わせた商品化支援を行ってきた。

1.企業の商品化の支援

商品開発研究会を開催し、難しい技術に関することはテーマとせずに、プロテオグリカン商品を開発するのに直接役に立つ技術あるいは情報に絞った。また本事業では、商品化コーディネーターが公設試験研究機関の研究員とともに直接企業を訪問することで、個別に具体的なアドバイスを行っている。

2.知名度を高める取り組み

プロテオグリカンの知名度を高める取り組みとして、さまざまな活動をしている。事業ホームページ*2を立ち上げ、事業の実施内容等について示している。

また年に2回、プロテオグリカンフォーラムを開催し、事業成果報告と参加企業の新商品発表をしている。毎回300名を超す参加者がある。アグリビジネス創出フェア等大規模な展示会のほか、県内外の展示会にも年10回程度出展し、プロテオグリカンの知名度を高める取り組みをしている。

また、プロテオグリカンの研究成果について分かりやすく説明するプロテオグリカンカンファレンスを東京の丸ビルなどで行い、多くの業界マスコミ関係者や健康食品および美容製品関係の方々にアピールした。

3.青森県ブランド推進協議会を設立

プロテオグリカンをブランド化するには、美容効果や健康作用だけを知らしめるだけでは不十分だと思われる。というのは、消費者はこのような製品に対して、効果、作用への期待だけでなく、「厳しい目」を持っているからである。本事業では、信頼される製品づくりのための活動も実施している。

図1 ブランドマーク

その1つが青森県プロテオグリカンブランド推進協議会の設立である。消費者に対しプロテオグリカンの正しい情報を提供し、プロテオグリカン商品の認証制度(図1)を通じて、認知度の向上を図るのが狙いである。また、さくら野百貨店青森店にプロテオグリカンのショップ「アレッラPG」を開店した。

プロテオグリカンに期待すること

プロテオグリカンは保湿性や抗炎症作用など多くの機能を持っている。しかし、機能が多いが故に消費者に伝えきれないアイロニーがあり、消費者への伝え方についてそれぞれの企業が苦戦しているのが現状である。プロテオグリカンが人類の進化の比較的早い段階から存在していることから、多くの機能性を持たされたと考えたくなる。私自身が本事業に関わって3年目を迎えているが、あらためてプロテオグリカンのポテンシャルを実感している。

誌面の関係で本事業に参加した企業の個々の開発秘話を紹介することはできないが、プロテオグリカンと共にそれぞれの会社が特色を生かし製品開発の努力があったことだけは強調しておきたい。

*1
現在は同大学大学院医学研究科附属高度先進医学研究センター糖鎖工学講座

*2
http://www.aomori-itc.or.jp/pg/