2013年11月号
特集 - 加速するオープンイノベーション
ライフサイエンス知財ファンドLSIP ~大学等の優れた研究成果を産業化するために~
顔写真

秋元 浩 Profile
(あきもと・ひろし)

知的財産戦略ネットワーク株式会社
代表取締役社長


知財を対象としたわが国初のファンドであるライフサイエンス知財ファンドLSIPは、大学等の未活用特許の価値を見いだし、産業化へつなぐことが目的である。産業革新機構(INCJ)と民間企業4社が出資し、知的財産戦略ネットワークが業務を受託し運営している。

LSIPの意義

近年高まる産学官連携によるオープンイノベーションへの取り組みは、大学・研究機関(大学等)における優れた研究シーズ(種)を産業化するための絶好の機会であり、国・企業が大学等の研究シーズに寄せる期待は極めて大きい。

大学等の研究成果を産業に役立てるためには、グローバル競争での優位性を確保する意味で、知的財産権の取得を含む知財戦略が重要なファクターとなる。1998年以降、全国各地で技術移転機関(TLO)や大学知的財産本部が設置され、さらには2004年の国立大学の法人化を契機に、大学の国内および国外の全特許出願件数は飛躍的に増加した。

しかし、特許権が成立したとしても、全ての特許が企業との共同・受託研究やライセンスアウトなど、産業化への一歩を踏み出して実際に活用されるわけではない。むしろ産業化のために活用される特許の方が少ないのが実情である。日本の大学等の多くの特許は、基礎的研究段階での特許であり、出願国も少なく(日本中心が多い)、グローバルな事業展開を見据えた知財戦略が不十分なため、実際の産業化につながらない場合が多い。また、特許出願や管理・維持費用も保有特許件数の増加に伴い高額となってきたため、ライセンスの可能性があるにもかかわらず、大学等では十分なライセンス活動が展開できないために、やむなく権利放棄してしまう例も少なくない。

ライフサイエンス知財ファンドLSIP(エルシップ=「Life-Science Intellectual property Platform Fund」の略)は、経験豊富な目利きによって、前記のような大学等の未活用特許の活用価値を見いだし、産業へつなげるべく2010年8月に設立されたわが国初の知財ファンドである。

LSIPは官民ファンドの株式会社産業革新機構(INCJ)と民間企業4社の出資金を原資として、知的財産戦略ネットワーク株式会社(IPSN)*1が業務委託を受ける形式で実質上の運営を行っている。

LSIPの事業活動

LSIPは、現在、ライフサイエンス分野のほぼ全領域(医療機器を含む)を支援対象としており、大きな柱は「知財バンドリング事業」と「知財インキュベーション事業」である。

「知財バンドリング事業」とは、1つの大学では活用できない特許であっても複数の大学の特許と組み合わせれば魅力ある知財群が形成され、製薬企業等に対するライセンスアウトやベンチャー創出につながるという観点から、産業が使いやすい知財群を形成した上で、適切な企業とのマッチングを図りライセンスアウトを目指すワンストップサービスである。

ライフサイエンス知財ファンド「LSIP」のイメージ

「知財インキュベーション事業」とは、大学等の優れた基礎段階の研究成果をもう少し知財的にインキュべートしてバリューアップを図ったら産業に出せると判断した案件に対して、知財強化を図るため必要な追加研究費や出願費用等を支援するものである。最近では、岡山大学大学院自然科学研究科・妹尾昌治教授(研究科長)らが実施する「ヒトiPS細胞を用いるがん幹細胞研究」*2へ知的財産強化のための研究費ならびに海外出願費用の支援を開始したところである。

LSIPによる支援

支援パターンは大学等から受ける権利によって異なり、大きく分けて①~③がある。

① LSIPが大学等から特許権を譲り受けた場合には、一定対価(出願国数に応じる)を大学等に支払い、出願費用(日本出願、PCT出願・指定国移行に係わる諸費用および翻訳費用)、権利化および維持管理費用をLSIPが負担する。なお、譲り受けた特許が企業へライセンスアウトされた場合には、得られた利益の一部を大学等に還元する。

② LSIPが大学等から実施権許諾を受けた場合には、一定対価の支払と、出願費用を支援する。ただし、権利化および維持管理費用は大学等の負担とする。この場合もライセンスアウトして得られた利益の一部を大学側に還元する。

③ LSIPが大学等から特許権を一部譲り受けて共同出願として支援する場合には、出願費用、権利化および維持管理費用を支援し、ライセンスアウトして得られた利益は持分に応じて分配する。

なお、出願国数は、基礎出願段階であれば産業化を見据えて日本のみならず、ライフサイエンスの主要市場である米国・欧州をはじめ最大12カ国の出願を行う。

2013年9月末のLSIP知財調達実績によれば、①の支援を受けた案件は全体の約54% ②は約21% ③は約25%である。支援パターンの中では、①が最も大学等の収入が多いが、名義がLSIPに変更されることについて、いまだ大学等・研究者の理解が得られていない等の理由から、②や③のパターンを選ぶ大学等もある。

科学技術振興機構との連携強化

2010年8月、LSIPの主たる出資者であるINCJと科学技術振興機構(JST)との間で協力協定*3が締結されたことに伴い、JSTとLSIPとの間でも連携強化が行われ、JSTの外国特許出願支援制度*4に申請された案件、もしくは支援中の案件について、大学等の希望によりLSIPによる支援を受けられるようになった。これにより、JSTの外国特許出願支援の不採択案件の救済、さらには産業のニーズに沿った出願国数の追加等により、マッチングあるいはライセンスの可能性が高まってきている。

成果と今後の展望

LSIPが活動を開始した直後は、初めての知財ファンドであるためLSIPに対する大学等の認知度が低かったこと、いわゆるパテントトロールとの区別が分かりにくかったこと、権利の譲渡・実施許諾等に対する大学等の抵抗感があったこと等から支援を希望する大学等は少なかったが、地道な活動により最近では取扱件数が急増している。

LSIPが実質的な活動を開始してから2年半経過した2013年9月末現在、71件(ファミリーベース)の知財を取得しており、今後は大学等からの知財取得活動に加えて、企業へのライセンス・マッチングに注力した活動を展開していくことで、LSIPの各プレーヤーである大学・出資者・企業およびLSIPを実質的に運営しているIPSNが一体となり、個々の組織を超えたネットワークを駆使して、わが国のオープンイノベーションの実現に向けたさらなる発展・成長を目指していきたい。