2013年12月号
特集1 - 女性の参画 次の100年へ
女子学生入学100周年 時代を切り開く行動指針
顔写真

大隅 典子 Profile
(おおすみ・のりこ)

東北大学 総長特別補佐、大学院医学系研究科附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター長、発生発達神経科学分野 教授

日本で女性の大学生が誕生したのは100年前の1913年。初めて門戸を開放したのは東北大学で、同年3人が入学した。今年、同大学では100周年の記念行事が行われた。これからの大学等における男女共同参画はどう進むのか。

(聞き手・本文構成:本誌編集長 登坂和洋)

女子学生3人入学

東北大学は1913年に日本で初めて女子学生3人に入学を許可しました。その3人はその後、女性初の「学士」になるなど、本学は女性研究者育成の歴史に大きな足跡を残しました。今年はその100周年で、記念事業を実施しました。ここでは、本学におけるこれまでの流れ、特に10年ほど前からの積極的な男女共同参画の取り組み、および今後を見据えた行動指針などについてお話ししたいと思います。

東北大学は1907年にわが国で3つ目の帝国大学として設立されました。研究第一、門戸開放、実学尊重の3つを理念としています。3番目の帝国大学ということで、初代総長の澤柳政太郎先生が、おそらく東京大学、京都大学とは少し違う路線を考えるべきだとお考えになったのかなと思います。その象徴が門戸開放です。

旧帝大の受験資格はそれまでいわゆる旧制高校の卒業生に限られていました。しかし、本学では旧制高校卒業生以外にも優秀な方はいらっしゃるだろうということで、旧制高校以外の方にも入学を認める方針を打ち出しました。

具体的には、高等師範学校、専門学校を卒業された方、中等教員免許を持っている方にも門戸を開きました。ですから、最初から女性を入学させるためにそういうふうに制度をつくったわけではありません。でも、高等女子師範の卒業生はどうなるのという議論がなされていたようです。そうしたら、それもいいのではないのと澤柳先生がおっしゃったということが、日本で最初に女子学生を受け入れたきっかけだったという資料が残っております。

100年前の8月8日に体格試験があって、旧文部省からは8月9日付でそれはいかなることなのか、考え直せと言ってきた文書も残っています。しかし、そのときの東北帝国大学はこの方針でやると突っぱねました。ある意味で当時の方が気概があったのかもしれません。人数も少ないですから8月に試験して9月入学。秋入学だったのです。

4人女性が受験されて3人お入りになりました。分野は2人が化学で1人が数学でした。化学のお1人と数学のお1人が今のお茶の水女子大学に相当する女子高等師範のご卒業、もう1人は日本女子大学校、今の日本女子大学の出身です。落ちた方は物理学でした。東北大学が帝国大学理科大学で始まったこととも関係していると思いますが、最初の女子学生が文系ではなくて理系だったことを、私はいろいろなところでお話ししています。当時、理学も「実学」と考えられていたのではないかと解釈しております。

最初に入学した3人のうち数学のお1人はご結婚されて研究の世界からは退かれましたけれども、化学のお2人はそれぞれ母校に戻られて教鞭を執られて後進の育成にあたりました。化学の方々は大学院にも進学されています。

2001年に男女共同参画委員会

本学の男女共同参画にはこういう輝かしい歴史がありますが、3人の女性が最初に入学してからもう一度女性が入学するのには実は10年近く時間が空いています。やはり女性が帝国大学に入学することについての揺り戻しがあったのでしょう。その後も、工学部や医学部など理系分野が多いことも関係しているのでしょうか、助教以上の女性の比率は10%弱です。もっともこれは、他の旧帝国大学もほぼ同様です。

このため本学では2001年にてこ入れして、全国に先駆けて東北大学男女共同参画委員会を発足させました。翌年に制定した「男女共同参画推進のための東北大学宣言」の下、学内の環境整備や意識改革に努めてきました。この委員会の立ち上げにご尽力されたのが、ご定年ちょっと前にご参加になったんですが、法学研究科の辻村みよ子先生でした。先生は憲法がご専門で、法の下の平等という精神で男女共同参画を推進しましょうということでした。

ハードルを越える支援

私は自分が理系で、文系よりも女性が少ない分野にいますので、特に日本が科学立国と言っているのであれば、女性の力も科学技術分野において活用した方がいいでしょうということを常々申し上げてきました。幸いなことに2004年ぐらいから、文部科学省、科学技術振興機構にお世話になって、女性科学者の育成推進事業を推進してきました。

自然科学系では以下の2つ事業があります。1つは2006年度から始めた「杜の都女性研究者ハードリング支援事業」です。3年間は文部科学省の支援を受け、その後は大学が自立的に――総長裁量経費で――推進しています。女性が仕事を続けていく上で、ロールモデルが少ないとか、出産・育児とか、あるいは介護といったハードルがある。そのハードルを飛び越えていくお手伝いをするものです。

このハードリング支援事業には3つの柱があります。第一は環境整備です。理系は研究室に長くいなければいけないことも多いので休憩室を整備しました。第二の柱は両立支援です。これについては学内の病後児保育施設を拡充するなどを行い、この施策を発展させて学内保育園が初めてできました。「川内けやき保育園」といいますが、定員が全然足らないので、さらなる充実が必要です。両立支援のため、支援要員制度も行っています。支援要員というのは、例えば少し早めに帰らなければいけないような女性の教員に対して、テクニシャン等を雇う経費とか、出張にお子さんを連れていき、出張先でベビーシッターを依頼する費用を補助するといった支援です。

第3の柱は次世代育成です。東北大学ではサイエンス・エンジェルという名前の制度をつくりました。自然科学系の女子大学院生で、自分でやりたいと手を挙げた者の中から審査によって選んで、総長から任命状を渡していただくという制度です。サイエンス・エンジェルには小中学高校生のためのロールモデルとして、科学の世界は面白いよ、あなたもできますよということを伝える活動をしてもらっています。母校出張セミナーや、地域の科学イベントなどへ出展する時のお手伝いなどをしています。

次世代の方にとってのロールモデルという側面だけでなく、本学においても理系の女子大学院生はマイノリティーなので、活動を通じて理系女子大学院生のネットワークができ、異分野融合になったらいいなということも願っています。今年で8年目になりますが、おかげさまでいろいろなところからお声が掛かり、「すイエんサー」というNHKの番組に出演させていただいたりして全国的な知名度も相当上がってきたと思っています。

理・工・農学分野の採用を促進

2つ目の事業は2009年度からスタートした「杜の都ジャンプアップ事業 for 2013」です。これは文部科学省の女性研究者養成システム改革加速事業というプログラムを活用しており、理・工・農学分野における女性研究者の採用を促進するのが狙いです。先ほどのハードリング支援事業が裾野の拡大を目的にしているのに対し、ジャンプアップ事業はリーダー育成を一つのキャッチフレーズにしています。すなわち裾野を拡大すると同時に、トップを高いところに引き上げないと、全体としての厚みというのが出てこないだろうという考えからです。

ジャンプアップ事業で一番にお金を使っているのは新規採用女性研究者の採用(人件費の支援)と育成(研究費の支援、メンターの配置)です。対象を理・工・農学分野に限定しているのは、自然科学系の中でも女性の比率が低いためです。

盛況な100周年記念シンポジウム

本年8月8日に東北大学女子学生入学100周年記念行事としてシンポジウムも盛況に行いました。基調講演には女性の米国国立科学財団(NSF)元長官のRita Colwell先生、英国の王立アカデミーフェローのVeronica van Heyningen先生、黒田玲子先生をお呼びしました。また、黒川清先生、向井千秋宇宙飛行士のご主人の向井万起男先生、本学の理学部に准教授で在籍していた(現在は北海道大学教授)時、男性で初めて育児休暇を取得された高橋幸弘氏、東芝の福島理恵子氏の本音トークは、皆さん、面白く聞いてくださいました。黒川先生には、女性はもっと頑張りなさい、男性も女性を恐れてはいけませんと励ましていただきました。

学内の部局長の先生方にも「面白かった」との感想をいただき、コーディネーターとしては満足しています。

求められる実質化

女子学生入学100周年を機に、建学以来の理念の一つである「門戸開放」を継承する男女共同参画について、今後の10年間程度を目標にした「東北大学における男女共同参画推進のための行動指針」として、①両立支援・環境整備 ②女性リーダー育成 ③次世代育成 ④顕彰制度 ⑤地域連携(東北地方の多くの大学、行政機関等との連携を進め、地域発展や震災復興事業等における男女共同参画を推進) ⑥国際化対応(外国人研究者・留学生を対象としたさまざまな両立支援策を講じる) ⑦支援推進体制―の7項目を策定しました。

大学の一層の国際化は待ったなしですが、国際化を進めるとおそらく女性比率はより早く上がると思っています。世界的にみると科学技術分野における女性の割合は当然高いので、外国人を受け入れることが増えれば、必然的に女性も増加するでしょう。

この「行動指針」については、それぞれの部局において女性の参加、女性比率の自然増に任せるのではなく、それを加速させることをもう少し真剣に考えましょうという方向で議論がなされています。より実質化していくのはこれからかなと思っております。100周年記念事業は、10年ほど前から始まった東北大学の男女共同参画について、その手綱を引き締め直すのにはちょうどいい企画だったかなと思っております。記念のシンポジウムが打ち上げ花火に終わらないよう、これからさらに実質的な取り組みをしていく必要があると考えられます。